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第四十三章 五皇帝の年 ウェヌスの戦い

前世

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 かなり敵後方は崩壊しつつありますが、その時、馬上の女たちめがけて、投石兵が石つぶてを投げてきました。

 幾人かの女たちが落馬、彼女たちは即座に自決しようとしますが、私が間に入りなんとか逃がしました。

「おのれ!我が娘たちを!」
 私は投石兵の集団に突っ込みます。

 石つぶてが大量に飛んできましたが、委細かまわず突っ込み、馬蹄で蹴散らせましたが、かわいそうに私の馬は倒れてしまいました。

「女神様、大丈夫ですか!」
 ガウダさんが駆け寄ってきましたが、
「私は大丈夫、勝機は今です、貴女は皆を率いて、このまま敵後方を蹂躙しなさい」

 ヌミディアの女たちは、そのまま敵を蹂躙しています。
 しぶとく戦っていた、第2軍団アウグスタもついに崩れ始めたようです。

「どうやら勝ったようですね……」
 私は思わず呟きました。

 このあたりは、私と死体があるだけです。

「そのようだな、やっと一人になったな、このときをまっていた、ルシファーよ」
 いつのまにか、男が一人立っていました。

「デーヴァか?」
 おもむろにうなずいたその男は、
「ヴァジュラダラ――金剛力士――だ、お手合わせ願おう」
 といいました。

 独鈷杵(どっこしょ)を構えていますが、かなり上下の刀身が長いものです。
 槍の石突きを尖らせたようなものでしょうが、使いこなせるのでしょうね。
 ということは、かなり警戒したほうがよさそうです。

 このヴァジュラダラからは、憎悪は感じません。
 ものすごい殺気は感じますが……
 それに、どこか親しみも感じるのです。

「汝は強い、よって私も全力をつくそう」
 私は電撃杖を取り出します。
 幾多の戦場で、私とともにあった愛用の武器です。

 ヴァジュラダラとの戦いは、とにかく瞬時にけりが付くでしょうね。

 ヴァジュラダラは、神速というべき突きを放ちます。
 と、同時に穂先から稲妻が発せられます。

 とっさに空間を捻じ曲げたので、事なきを得ましたが、その隙に、私の電撃杖はヴァジュラダラの腹部を貫いています。
 致命傷でしょう。

 ふと、ヴァジュラダラが笑ったような……
 一瞬不吉な予感が…とにかく離れなくては…

 ぐはぁ!

 わき腹を何かが貫いています。
 独鈷杵(どっこしょ)が五鈷杵(ごこしょ)に変わっています。
 上部の刀身の周りに、さらに別の刀身が四本、斜めに突き出ているのです。
 そのうちの一つが、私のわき腹を貫いています。

 すぐに抜くように、斜め後方へ飛びましたが、目がくらむほどの激痛、しかしなんとか致命傷にはならないでしょう。
 おいおい傷も治るでしょう、私、不死身ですもの。

「どうやら相打ちには、なりそうもないな、ヴィーナス様」

 この人……

「先ほど前世を思い出した……また負けたようだ……」

 あなた……海兵隊長?あのレムリアの?

「海兵隊長……」
「俺はもういけないな……教えてくれ、レムリアはどうなった?」

「私が勝った、主席は破壊した、そして参謀は私の愛人とした、いまも健在だ」
「レムリアはエラム世界の一員として、今では大陸諸国と仲良くやっている」
「ジョンソンさんが、貴方のあとをついで海兵隊長となった」

「海兵隊は今では私に忠誠を誓ってくれています、レムリア海兵隊はエラム最強の精鋭部隊、あなたの武勇は伝説となっています」

「そうか……」
「なにか私に願いはないの、出来ることなら、何とかしてあげます」
 
「すまないね、さすがはヴィーナス様、一つだけ心残りがある」
「笑ってくれても良いが、アムリアに侵攻する前、酒場の女から子供を宿したと聞いた」
「もし子孫がいまも健在なら、気にかけてくれまいか……」

「承知した、参謀に聞けばわかるでしょう、子孫が健在なら、何とか守ってあげましょう」

「ヴィーナス様……」
 私は元海兵隊長のヴァジュラダラを、膝枕して頭をなでてあげました。
「美女の膝枕で死ぬのも、いいものだな」
 こういうと、眠るようにヴァジュラダラは息を引き取りました。 

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