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第四十二章 五皇帝の年 軍事護民官

軍事護民官の書簡

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「セウェルス総督、ローマの軍事護民官から書簡が届いております」
 幕僚の一人からこのように云われ、セプティミウス・セウェルスは耳を疑いました。

「軍事護民官?」
 プラウティヌス、つまりインドラが、
「皇帝位は空位ですので、平民集会を強引に招集して、選出させたのでしょう」
 
「元老院の差し金か?」
「それは私にも分かりませんが……」
 こうとぼけて見せたインドラではあるが、ファウスティナの心を読み、把握はしていた。

 まったく……ルシファーめ……セプティミウス・セウェルスを、ローマの敵とするつもりなのだろうが……そうは思い通りにはさせんぞ……

 書簡を読んでいたセウェルスが、「汝はどう考える」と、書簡をプラウティヌス、つまりインドラに渡します。

「イタリア本土に軍を展開させるのは、ローマの国禁に反する、首都ローマに来たいなら、軍を属州にとどめてこられたし、ですか……」

「どんな理由であれ、相手は軍事護民官、その相手が国禁を犯すといってきている以上、将来を考えると、イタリア本土に進軍するのは憚られます」

「このままローマに入り、皇帝を宣言しても、元老院が逃げ出している以上、新しい元老院を招集して、任命させなければなりません」
「その間に、アルビヌスあたりが離反するかもしれません」

「確かにな、かといって軍を率いなければ、暗殺される恐れもある」

「要は元老院に認めさせればいいのです、私の把握する情報では、元老院はカルタゴに逃げ出しているとか」
「ならばイタリア本土に執着する必要もありますまい」

「受諾の回答をして、このままシチリア属州を制圧いたしましょう」
「シチリアはローマの穀倉地帯の上に、総督はイタリア本土の周囲の属州を抑えておられます」

「イタリア本土内での自給は不可能でしょう、おのずと頭を下げてくるはずです」

「しかもシチリアはカルタゴと目と鼻の先、ニゲルを牽制しながら、アフリカ属州へ侵攻すれば、相手はあのディディウス・ユリアヌス、抵抗などしないでしょう」
 
「なるほどな、シチリアを占領して、カルタゴににらみを利かせて、状況を眺めてるとするか」
「さすればアルビヌスも、模様眺めとなるだろうしな、ではシチリアを頂くとするか」

「シチリアを占領の後、アフリカ属州も制圧、さすれば元老院は守るものなどない状態、しかも場所はカルタゴ、何をしても良いのではありませんか」

「皇帝位など、すぐに差し出すはずです」
「即位してしまえば、皇帝が軍を率いての凱旋、国禁など関係ないでしょう」
「しかも軍事護民官職は、皇帝に属するもの」

「イタリア本土こそがローマ帝国の中枢、ニゲルがあくまでも抗えば、皇帝に逆らう反逆者、それこそ模様眺めのアルビヌスに命じて、ニゲルをたたかせればよろしいかと」

「ウェテリス軍事護民官、セウェルス総督より返書です」

 そこには、

 国禁を犯してイタリア本土へ進軍することはない、ローマ帝国の中枢部を防衛しようと思ったゆえである。
 しかしローマはいま危機にある、皇帝はなく元老院は事もあろうにローマを逃げ出している。

 これは許されない恥ずべき行動である、もはや彼らは反乱をおこしていると断罪できる。

 私はこの者たちをゆるせない、カルタゴに逃亡した元老院議員たちを拘束する事を、ウェテリス軍事護民官殿におかれては許可されたい。

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