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第三十七章 紫の皇子
ユーピテルの囁き
しおりを挟む私はクリスピナ・ミノルを連れて、地下ホテルに戻りました。
インドラは、私にコンモドゥスを殺させて、ゲーム・オーバーを目論んでいたようです。
この際、これを利用して、コンモドゥスを生き延びさせれば、セウェルス朝が成立しなくなる。
これはこれで私の勝利となる……
しかし、難しいはず……
私もこの男は殺したいし……
まぁこの男に肩入れしている風を、装っておきますか。
「ルキナ、この娘はクリスピナ・ミノル、かなり壊れていますが、新しい女奴隷です」
「面倒を見てあげてください」
ルキナさんが、
「女神様!私というものがありながら、このような女奴隷をつれてきて、まさか奉仕させるつもりでは!」
かなり、焦げた感情のように見受けられますが、
「貴女は女奴隷です、私の私的な事に奉仕する奴隷、これからこの娘と、二人で私に仕えてね」
「これから増えませんか?」
「それは約束できませんね、私には仕えてくれる女性はたくさんいるの……世界はここだけではない……」
「それに私は、この地に長くは居れないと思うわ……仕事が終われば、さらざる得ない……」
「その時は貴女達は自由です、私に仕えてくれた以上、必ず報いてあげます」
「このローマ世界で、幸せに暮らしていけるようにね」
「殿方の妻になってもいいですよ」
ルキナさんは、私にこのように言われて、黙ってしまうかと思いましたが……
「女神様!私はこう見えてもローマ貴族の娘、誓いは破りません!」
「いつまでもウェヌス女神様にお仕えします、どこまでも、何があってもです!」
そうですか……どこまでもこうなるのですか……この切羽詰った状態でも……女ですか……
ここでは、女と縁をつなぐのは極力避けなくては……ハレムなどもってのほか!。
「私はどうしたの……ここはどこですか……」
クリスピナ・ミノルがきずきましたが、簡単な説明をしただけです。
「貴女を皇帝から貰い受けたのです、ここはウェヌス・エリュキナ神殿の地下、貴女は私の女奴隷として、私に仕えることになったのです、当分この地下より外には出られません」
後はルキナさんが説明してくれました。
翌日、最高神祇官の指示、というよりコンモドゥス帝の勅命で、皇帝の姉、アンニア・コルニフィキア・ファウスティナ・ミノルはウェヌス・エリュキナ神殿の女神官長に任命されたのです。
あわせてコルメン・ラクテウス(乳の出る円柱)から、十歳になる美少女を選抜、ウェヌス・エリュキナ神殿の女奴隷として、奉仕させると発表されました。
夜の神殿の中央に、一人の女がたたずんでいます。
闇に包まれ、物音ひとつしません。
そしてこの神殿には誰もいない……
この日の昼には、仕えていたものは全て入れ替わることになり、新しい神官は、神官長が決めることになっています。
三十二歳のアンニア・コルニフィキア・ファウスティナ・ミノル、ファウスティナと呼ばれるこの女は、前日コンモドゥスに呼び出され、ウェヌス・エリュキナ神殿の女神官長を命じられた。
それも誇り高い皇帝の娘が、女神ウェヌスに仕える神殿付の女奴隷とのこと……逆らえば死を迎える……
とにかく色よい返事をしたが、ファウスティナは自決を覚悟していました……
その夜、囁きが聞こえてきたのです……
ファウスティナ……ウェヌスの夜の女になれ……
女神ウェヌスは、本来はバビロニアの女神……戦いの神でもあり、女の守護者でもある。
このまま行けばローマは滅ぶぞ……ウェヌスは冷酷、情けなど微塵も持ち合わせていない……
ローマが信じる、どの神よりも力があり、あがらえない……
ただあの女は女を好む……汝が身体で、あの女を骨抜きにするしかない……
ウェヌス・エリュキナ神殿に美しい女奴隷を集め、ウェヌスを連日慰めれば、ローマは栄えよう……
あの女がローマに好意を持てば、ローマはこの後千年は栄えるだろう……
「貴方は?」
「我は天界の主、ユーピテル……」
その啓示を聞き、覚悟を決めて、ファウスティはウェヌス・エリュキナ神殿にやってきたのです。
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