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第三十八章 黒の巫女 死戦
05 青銅砲
しおりを挟む私はガルダ街道両側の草原に、火を放ちました。
「トールさん、元気な兵だけ集めてください。」
「バリスタ隊、ガルダ街道に照準を定めよ、敵はここからしかやってこられない。」
「敵がきたら弾の無くなるまで射撃せよ!」
結局、私はほとんど休んでいません、この戦いが終わったら多分たおれるでしょうね。
でも今はアドレナリン全開です。
「リューリック、死ねますか!」
「勿論!アムリア騎士の真価をお見せする。」
赤々と地獄絵図を照らし出す照明、ガルダ草原の野火が人の命を求めています。
鬼火というものを見た気がしました。
敵が突撃してきました、バリスタ隊の餌食になりに、敵は死にたいのですか……
次から次に死んでいきます、しかし五回ほど射撃して弾がなくなりました。
「バリスタ隊、退避」と命じて、つづいて「残りの者は抜刀せよ!」
私は薙刀を抱えて、
「エラムに明日を迎えるために、つづけ!」
と叫ぶと、敵に突っ込みました。
あとでリューリックが云うのを要約すると、私はドラクロワの『民衆を率いる女神』のようだったそうです。
なんせ両胸をむき出していた格好で、突撃したのですから……
でもその時はそんなこと考えもしませんでした。
昨日の朝から戦い続けています、疲れを通りこして、むしろ快感です。
何らかの脳内麻薬が出ているのでしょう。
野火に照らされ、両軍は死闘を繰り広げています、私は主演女優といってよいでしょう。
なまくらになりかけた薙刀を、簡易魔法で作り替えながら戦っています。
敵は死力を尽くしています、味方は再び崩れそうです。
リューリックの檄が響いています、その声がかろうじて味方の崩壊を支えています。
私とリューリックの周りには、敵兵の死体が累々と転がっています。
乱戦の中、私は再び第一軍団長を見つけました。
このまま第一軍団長に斬りかかっても、主席が守りに出てくるだけです、殺すことは難しくなります。
私は敵兵の死体を掴み「汝が望むものを捧げる」ととなえて、小刀状の手裏剣を手に取り、第一軍団長に向けて投げました。
ものの見事に眉間を砕きます。
「リューリック、敵の司令官を仕留めた、今がチャンス、攻勢をかける!」
私の声に呼応して、味方がどっと敵に圧力をかけます。
そこへ、「巫女様、青銅砲です」とダフネさんの声が聞こえます。
「リューリック、ここで頑張っていてください。」
私はそう言うと、声のした方へ走りました。
セーカー砲という小口径前装式大砲です、私にはこの砲の使い方がわかります。
弾を装填して、発砲準備すると、リューリックにガルダ街道の道端によりながら、後退するように言いました。
リューリックたちが左右に散ります、即座に私は発砲しました。
照準などいりません。正面に撃てばよいのですから。
ぶどう弾ってのは、大砲で撃つ散弾みたいなもので、その威力は絶大です。
轟音とともに敵兵がひと固まり倒れています。
「弓隊、敵を狙え!」
怯んだ敵には弓矢をプレゼントです。
セーカー砲は発砲ごとに照準が必要です、その間、弓隊の出番です。
二発目を発砲します、轟音ととも再び敵兵がひと固まり倒れています。
こうして私はどんどん打ちます、その間に休憩を終えた味方は、『ビンの口』から再びガルダ草原側に出てきます。
青銅砲は一発撃つごとに前進します。
夜の底は打ちました、これから朝に向かって夜が薄れていく時間です。
朝までもう少し、そして草原を焼きつくして野火が消えようとしています。
あと少し、火が消えてくれれば、暗闇が再びやってくる。
敵は青銅砲に怯んでいます、崩壊しそうな雰囲気です。
敵が押し寄せるたびに青銅砲が火をふきます。
野火はどんどん小さくなって、闇が覆ってきます。
もう少しで、火が消えます、小競り合いしかできなくなります。
あとすこし……
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