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第一章 来客
収納の家
しおりを挟む「とにかく、ここで野営をしましょう、ちょうど風よけ代わりになる大きな岩の陰ですから、ところで……クレアさん、その……テントなどはお持ちでは無いようですが……」
「着の身着のままで、ここまで逃げてきたから、何も持っていない……それに今日は何も食べていないのだ」
ヒロさん、女性にもてた事などない、さえない大学生でしたから、女性と滅多に話をしたこともないわけです。
クレアさんを恥ずかしくて直視しなかったのです。
よく見れば、クレアさん、軽装とは言いませんが、寒さに鳥肌がたっているような……
ヒロさん、ものすごく慌てて、
「ごめんなさい!気が付かなくて!」
かなりうろたえていたヒロさんでしたが、
「クレアさん、今から見ることは内緒にしてくださいね!それと……その……私の手を握ってくれませんか……」
「えっ?」
「やましい気持ちではありません!たしかにクレアさんは大変お綺麗ですが、やましくて言っているのではありません!お願いです!」
「あまり弁解されると、女としては身の危険を考えるが……いいよ、それに私は口は堅いつもりだ」
クレアさん、ヒロさんの手を握ってくれたのです。
『収納の家』を念じると、見慣れた何時ものマンションの玄関ドアが浮かび上がってきました。
「入りますね、手を離さないで」
ドアを開け、クレアさんと中に入ると、そこはいつものワンルームマンション……
トイレとバスは別、ミニキッチン、小さいクロゼット、小さいバルコニーもついています。
洋室は7帖ちょっと……壁芯で22.55平米、柱のでっぱりはないのです。
階段付きのロフトベッドで、下には一人用のデスクベッドが入っています。
来客を考慮して、両親が買いそろえてくれたのです。
ロフトベッドの下はカーテンが付いており、何かの折、病院のベッドの様に目隠しできるのです。
来客があれば、マットレスとか毛布とかの寝具は一応、押し入れに入っています。
これ、便利なのですよ、常は長めの机で、折りたためばベッドになりますからね♪
でも、だれも泊まりに来たことは無いのですね……
一応、一人住まいの家電はそろっています。
ご飯は、電子レンジで炊いているヒロさん。
一人用のホットプレート、電子ケトル、食洗機まであるのです。
皿洗いをしなくても済むのは、大変便利で気に入っているようです。
そして、ベランダにおいていた収納ボックスは、ゴミ箱に変わっていました……
なんでも、ここにゴミを入れれば綺麗に無くなるそうです。
「どうぞ、いま暖房をいれますね」
「とにかく、これを食べてください、ミルクは大丈夫ですよね?」
「ミルクで腹を壊したことはない」
ヒロさん、とにかくネットでリストがある、コンビニのパンなんて、取り寄せたようです。
『マーガリン入りテーブルロール』5個いり、税抜100円、『レーズンバターロール』6個いり、税抜100円。
ミルクは『おいしい低脂肪』1リットル、税抜100円。
一応、鍋やフライパンなど、学生ですがそれなりにありますので、砂糖をいれて、ホットミルクを作っています。
砂糖は、『スティックシュガー 3g×50本』、最安値のものが税抜100円であったようです。
「暖かい……ほっとする……ところで、ここは?」
「私が転移する前に、住んでいた部屋です、学生の部屋ですので、狭くて申し訳ありません」
「そうなのか、私は男の私室を初めて見る……夫だった男の部屋も見たことはない」
えっ、クレアさん、バツイチなの?
「驚いた顔だな、18で嫁がされたのだが、先頃、夫に殺されかけた、まあ、元々政略結婚みたいなものだったが……」
「子も出来ぬので、妻としては落第、だから夫の漁色にも目をつぶっていたがな、まさか、殺されるとは思わなかった」
「教会に『暗殺者』を突き出し、『婚姻破綻証明』を発行していただき、実家へ帰ろうとしているとき、再度襲われ、何とか脱出、追手をまく為、『還らずの荒野』を選び、ここまで逃げてきた」
「何ともしまらないことに、腹の傷でふらっとして、石につまずき転んだと云うわけだ」
「そうですか……では、この後もご実家を目指すと?」
「その通り、助けて欲しいといったのは、実家へ帰り、事の顛末をお父様にご報告しようと考えたのだ」
「できる限りの事はいたしますよ、なんせ神様の『宣託』ですから、お考えが神様にはおありなのでしょう」
事情は分りましたが、『還らずの荒野』?ここって、そんなにヤバいの?
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