惑星エラム 幻のカタカムナ 第五部 神去り神在り編【ノーマル版】

第七十四章 家族のぬくもり

天津吉川ご一家

　そんなティアマト府の三月中旬、惑星カタカムナのティアマト府中央区三丁目六番地に、著名な化学者一家が、ミツコリ・リキウ侯爵領より引っ越すことになりました。

　天津吉川高見という学者さんは、５０を過ぎた少しばかり男前の方で、数々の功績をあげ、その応用による特許も膨大にお持ちとか。
　このたび、その特許をダイティヤ化学という巨大コンツェルンに売却、悠々自適な早めの引退生活を始めたのです。

　妻は天津吉川かみ、ご主人より二つ下で、とんでもないほどの美人で、賢妻として有名な方です。

　祖父の天津吉川皆嘉さんは威厳があり、この方は著名な薬学者であり、碧素（へきそ）ーー抗生物質ペニシリンの事、１９４４年に帝国陸軍が生産に成功し名付けた、ここでは天津吉川皆嘉さんが開発したとの設定となるーーを開発し、これもダイティヤ化学に特許を売却しています。

　そもそも、このダイティヤ化学コンツェルンの株は、六割はティアマト管理官府が所有、残りの四割を八つの侯爵領政府が均等に所有しています。

　ティアマト府の財政は、ダイティヤ化学コンツェルンの配当金でかなり潤っています。
　この配当金で、八つの侯爵領政府と対等の財政となっていますが、ティアマト府の人口は二百万人ほど、侯爵領の平均人口は六百万人ですから、財政的に余裕があります。

　ティアマト府中央区三丁目六番地は、広大なティアマト管理官府の隣地で、近くにはダイティヤ鉄道本社やダイティヤ化学コンツェルン本社などがあります。

　少し先には、ティアマト第三高等女学校がありますが、このたびその五年に、天津吉川高見さんの次女が転入するようです。

　さすがに天津吉川家の娘さん、才色兼備で天才と噂されています。
　名前を美子と書きますが、『うつくしこ』と読むそうですが、家族は、『みこ』と呼んでいます。

　長女はこれも才色兼備、多少お転婆さんですが、農学者のようで、画期的な寒冷多収穫水稲を作り出したといわれています。
　なぜかいまは、のんびりと無職を楽しんでいるようです、名前は茜といいます。

　あと一人、国津来良（くにつらいら）さんというメイドさんがおられます。
　とても綺麗な１５歳だそうで、ほとんど家族同然の扱いです。
　家が広いので後、何人かメイドさんを雇うそうです。

　茜さんが一家の家計をやりくりすることになります。
　膨大な父と祖父の財産の、半分ぐらいをダイティヤ化学とダイティヤ鉄道に投資、銀行金利より多少高利で運用しています。

　この二つの社債は公社債のようなもの、安全ゆえにそれだけ利益も低いのですがね。

「そんなに儲けなくてもいいでしょう、いざとなれば金など作ればいいわけですから」
　茜さん、鷹揚に構えています。
　勿論三人の神様方はもっと鷹揚ですけどね。

「それより、私は一年しか滞在できないし、姉さんも長期は無理でしょう？家事はどうします」
「来良さん一人では、しんどいでしょう？」

「それね、マレーネさんが専用家事ロボットを作ってくれたのよ♪」
「機械体アンドロイドではないでしょうね」

「勿論よ、ネーレーイスの改良型だそうよ、いくらなんでも元のアリスの回路ではね、そこで元の小雪さんの回路を流用したそうよ」
「小雪さん、怒らないかしら？」

「大丈夫よ、アリス回路も小雪回路も、オリジナルのデチューン、それもかなり原始的なものですから、ただ行動パターンが似ているだけというだけ、全然違うわ」

　やはり小雪回路ですから、優秀なのですが、こちらは行動に融通性がありません。
　勿論、容姿などは現地の人種の特徴を取り入れていますし、メイドさんですから女性です。

　ネーレーイス改はメイドロボットですので、姉妹という設定、二対で一セットです。

　で、天津吉川家の住み込みメイドとしてネーレーイス改が二セット、四体配属されたわけです。