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第七十一章 幻のカタカムナ

使いの人々

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「ねぇ、私を助けていただけない……」
「どうすれば……」
 八人のダイティヤが答えます。
「私を愛し、その思いを念じていただきたいの」 

 美子さんは再び、八人のダイティヤを一つの集合意識とし、元のペルペトゥアさんに戻しました。
 ダイティヤ一族の幽子集合意識たるペルペトゥアから、フォトンが滲み出て、美子さんを包み始めました。

 コータヴィーの波動が止まり、代わりに美子さんの全身から、緩やかな振動波が発せられ始めました。

 そのとき、ふきとばされた世界が凝縮を始めます。
 そしてブラックホールのような、漆黒の塊となったのです。
 
「どうしたの!憎悪の波動は止めたはず!」
 コータヴィーの波動とは、比べものにならないほどの憎しみです。

 これは……世界を構成していた幽子が……意識を持ち始めている……
 いけない、これは飢えの塊、しかも起動幽子じゃないの……
 どうしてこのような幽子ができるのよ!

 塊は脈動を始め、そして美子さんの振動波を、吸い込み始めたのです。

 ……寒気がしてきた……私のエネルギーを吸っているのか!
 
 美子さん心に、何かのつぶやきが聞こえてきました。
 
 ……喰ってやる、喰ってやる、喰ってやる、こんなエネルギーは喰らいつくしてやる……

 餓鬼?
 魂が飢えているの?
 こんなものが具現化したら、ラフロイグでは済まない。

 起動幽子が無差別無尽蔵に幸せを喰らいつくすのよ、地獄が口を開くわ……

「なんとしても、ここで止めなくては、世界は終わりになる!」
 
 美子さん、決死の覚悟で、漆黒の塊に身を投げたのです。
 
 膨大な幽子の塊を知覚します。
 ……理性がない、枯れてしまっている……
 しかしなんて威力なの、ムスペルなんて、これに比べればかわいいものよ、どうすればいいの!

 この時、美子さんは天之御中主(あめのみなかぬし)様の言葉を思い出したのです。
「汚れ仕事をたのんで申し訳ない、すべてを抱きまいらせてくれ」

 ……すべてを抱きまいらせてくれ、すべてを抱きまいらせてくれ、すべてを抱きまいらせてくれ……
 
 頭の中で、この言葉が幾度も響きます。

 この膨大な幽子一つ一つを抱き、私のエネルギーを飢えが収まるまで与えよ、『抱きまいらせ』とは、そのような意味なのですね……

「やるしかないのね!」

 美子さん、ひたすらに幸せを想像し、他人を思いやり、悲しみを癒やす、そんな気持ちで、心を満たしたのです。

 ……貴方たちも『使いの人々』だったのね……男性体のね……
 いくら敵と言えど惨い仕打ちね……でも男の嫉妬なんて、女の非ではないのは確か、発生したときの惨さときたら……

 この憎悪がエンジン、そして女性体の『使いの人々』の憎悪が、それを調整していたのね……
 世界を滅亡と誕生を繰り返す、進化の機構ですか……
 確かに憎しみ、妬みが世界をここまで引っ張ってきた原動力……

 神といえど、これは惨い仕打ち……
 だから天之御中主(あめのみなかぬし)様は救いたかったのもしれない……
 役目が終わったのだから、何とか救い上げたかったのでしょうね……

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