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第六十六章 アスラの末裔

ペルペトゥア

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 ペルペトゥアはその日、城砦の外を警備していた。
 トリと呼ばれる、第三階級に属するペルペトゥアは、能力を認められ、今日を最後に軍務をとかれ、除隊することが決まったのだ。

 彼女はクインクが所有する、農園の支配人として、のんびりと余生を過ごすことになる。
 一昨日、司令官から、栄転の内示を言い渡されたばかりであった。

 ペルペトゥアが栄転する、農園支配人というのは、そこに所属する、全てのユニを好きに出来るということである。

 奴隷にかしずかれ、気に入った奴隷を『夜の奴隷』にしてもよい。
 気に入らぬ者は、殺すことも農園支配人は許されている。
 先代支配人が死に、ペルペトゥアにその席が回ってきたのだ。

 『夜の奴隷』というのは、個人にあてがわれた奴隷という意味で、クインク以外の第四階級までが、奴隷というこのカタカムナ世界では、『奴隷持ち』とはクインクに順ずる待遇を与えられた、ということを意味する。

 トリに属するペルペトゥアではあるが、『奴隷持ち』という資格は、この階級より優先されるのである。
 そして大抵の『奴隷持ち』は、自らの欲望の対象として、『夜の奴隷』を指名するのである。

 ペルペトゥアは、『夜の奴隷』には興味がなかった。
 しかし農園支配人の地位は、嬉しいものだった。

 彼女は治安維持任務の間、幾たびも剣を振るい、幾人もの凶悪なやからを、叩きのめしてきた。
 全身に刻まれた傷が、その勲章といってよい。

 誰もがペルペトゥアの農園支配人就任を当然とし、気に入ったユニを『夜の奴隷』とし、のんびりと日々を送る生活を想像していた。

 この世界の住人は、『支配されたい』という願望も、大なり小なり持っている。
 ペルペトゥアにも『支配されたい』という願望があった。
 被虐と加虐は裏表、というより、この世界は被虐が優勢なのである。

 ただこの被虐感は、上位者に対して持つもので、決して下位の者に対して持たない、下位の階級に対しては加虐となる。
 この世界の上下関係は相性が良いともいえる。

 いつもと変わらぬどんよりとした中、ペルペトゥアは何かが光ったのが見えた。

 ……あれは何だ……
 城砦警備の最後の日、何かあっては、栄転も取り消しとなる。
 ペルペトゥアとしては、何かを確認し、報告する必要を認めざる得なかった。

 ペルペトゥアは、何かが光ったと思われる方へ向かった。

 ……どうせガラスか何かが反射したのだろう、まったく……
 それにしても今日は寒いな……最後の最後に面倒な……

 しばらく歩くと、一人の少女が立っていた。
 見たことのない服を着て、杖を手にもっている。

 ペルペトゥアは興味をそそられた。
「お前、ここで何をしている」

 その少女は、しばらく考えていたようでしたが、
「とても寒いので、火にくべる枯れ木を探しておりました」
 といった。

 たしかに、纏っている衣装は薄いものであった。
 しかし、この少女は震えてなどいなかった。

「名前は?」

 少し躊躇しているような少女に、再度強く聞くペルペトゥア。

「ティアマト」と、ようやく答えた少女。

 美子さんは、近づいてくる女を観察していた。
 ……背の高い女ね、それにダークブロンドですか、青い目ね、明らかにノルマンの雰囲気があるわね、寒冷なこの地、どうやら日差しも弱い、適応したのでしょうね……

 アスラ族の末裔ね……先祖はモンゴロイド系に近かったはず、そのようにシウテクトリさんから聞いているわ……

 ……衣装は毛皮ですか、あったかそうなブーツを履いているわね、剣を佩いているけど、大きな剣ね、力があるのでしょうね。
 どう見ても、科学技術文明の領域ではなさそうね……戦士のようにも見えるけど……

 なにかいっているわ……言語の意味が分からないわ、解析しなければ……

 解析の結果、どうやらアッカド語に極めて近いようで、何とか意味が理解できた美子さん。
 そしてかなり苦労して返事をしたのです。

「とても寒いので、火にくべる枯れ木を探しておりました」

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