38 / 108
第六十六章 アスラの末裔
ペルペトゥア
しおりを挟むペルペトゥアはその日、城砦の外を警備していた。
トリと呼ばれる、第三階級に属するペルペトゥアは、能力を認められ、今日を最後に軍務をとかれ、除隊することが決まったのだ。
彼女はクインクが所有する、農園の支配人として、のんびりと余生を過ごすことになる。
一昨日、司令官から、栄転の内示を言い渡されたばかりであった。
ペルペトゥアが栄転する、農園支配人というのは、そこに所属する、全てのユニを好きに出来るということである。
奴隷にかしずかれ、気に入った奴隷を『夜の奴隷』にしてもよい。
気に入らぬ者は、殺すことも農園支配人は許されている。
先代支配人が死に、ペルペトゥアにその席が回ってきたのだ。
『夜の奴隷』というのは、個人にあてがわれた奴隷という意味で、クインク以外の第四階級までが、奴隷というこのカタカムナ世界では、『奴隷持ち』とはクインクに順ずる待遇を与えられた、ということを意味する。
トリに属するペルペトゥアではあるが、『奴隷持ち』という資格は、この階級より優先されるのである。
そして大抵の『奴隷持ち』は、自らの欲望の対象として、『夜の奴隷』を指名するのである。
ペルペトゥアは、『夜の奴隷』には興味がなかった。
しかし農園支配人の地位は、嬉しいものだった。
彼女は治安維持任務の間、幾たびも剣を振るい、幾人もの凶悪なやからを、叩きのめしてきた。
全身に刻まれた傷が、その勲章といってよい。
誰もがペルペトゥアの農園支配人就任を当然とし、気に入ったユニを『夜の奴隷』とし、のんびりと日々を送る生活を想像していた。
この世界の住人は、『支配されたい』という願望も、大なり小なり持っている。
ペルペトゥアにも『支配されたい』という願望があった。
被虐と加虐は裏表、というより、この世界は被虐が優勢なのである。
ただこの被虐感は、上位者に対して持つもので、決して下位の者に対して持たない、下位の階級に対しては加虐となる。
この世界の上下関係は相性が良いともいえる。
いつもと変わらぬどんよりとした中、ペルペトゥアは何かが光ったのが見えた。
……あれは何だ……
城砦警備の最後の日、何かあっては、栄転も取り消しとなる。
ペルペトゥアとしては、何かを確認し、報告する必要を認めざる得なかった。
ペルペトゥアは、何かが光ったと思われる方へ向かった。
……どうせガラスか何かが反射したのだろう、まったく……
それにしても今日は寒いな……最後の最後に面倒な……
しばらく歩くと、一人の少女が立っていた。
見たことのない服を着て、杖を手にもっている。
ペルペトゥアは興味をそそられた。
「お前、ここで何をしている」
その少女は、しばらく考えていたようでしたが、
「とても寒いので、火にくべる枯れ木を探しておりました」
といった。
たしかに、纏っている衣装は薄いものであった。
しかし、この少女は震えてなどいなかった。
「名前は?」
少し躊躇しているような少女に、再度強く聞くペルペトゥア。
「ティアマト」と、ようやく答えた少女。
美子さんは、近づいてくる女を観察していた。
……背の高い女ね、それにダークブロンドですか、青い目ね、明らかにノルマンの雰囲気があるわね、寒冷なこの地、どうやら日差しも弱い、適応したのでしょうね……
アスラ族の末裔ね……先祖はモンゴロイド系に近かったはず、そのようにシウテクトリさんから聞いているわ……
……衣装は毛皮ですか、あったかそうなブーツを履いているわね、剣を佩いているけど、大きな剣ね、力があるのでしょうね。
どう見ても、科学技術文明の領域ではなさそうね……戦士のようにも見えるけど……
なにかいっているわ……言語の意味が分からないわ、解析しなければ……
解析の結果、どうやらアッカド語に極めて近いようで、何とか意味が理解できた美子さん。
そしてかなり苦労して返事をしたのです。
「とても寒いので、火にくべる枯れ木を探しておりました」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる