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第六十三章 時のつながり

『準急』キリー4号

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「お嬢様、なにかお気にかかる事でもおありで?」

 惑星エラムのキリーにある亡霊の館で、 グランドツァーというのに、決裁書類の山に囲まれながら、ふと遠くを眺めるような顔した女に、栗毛色の髪をポニーテールした女が声をかけました。

「いえね、私がエラムにやってきてから、長い月日が過ぎたと思って……」
 亡霊の館を取り巻く、壮麗な建築群を眺めながら、お嬢様と声をかけられた女が答えています。

「そうですね、色々ありましたが、おかげでエラムは戦乱がなくなりました」

「でも、なぜグランドツァーにエラムを選ばれたのですか?」
「やはり私の嫁いだ土地、最後はこの地を思い出しますからね、ここで静養したいのですよ」
 
「お嬢様、永くお仕えしているのですよ、話はこの私の耳にも入っています」
「このエラムとテラの歴史がつながっていたのでしょう?それをお調べになるつもりではありませんか?」

「確かにそれもありますが、私はこのエラムを愛している、ここで静養したいと思うのです」
「それにね、サリーさんと二人だけなんて、久しぶりですからね」

 エラムの新年の記念行事も滞りなく、ヴィーナスさんは午後から、大陸横断馬車鉄道に二人だけで、始めて乗るのです。
 シビル・アルジャ・キリー路線ですね、ハウスキーパー事務局の、粋なはからいのおかげです。

 馬車鉄道と称していますが、いまでは機関車が連結されており、馬が引いているわけではありません。
 エラムで唯一の動力機関、圧縮空気エンジンが搭載され、動力魔法士が動かしています。

 手配されている列車は各駅停車ではありませんが、『準急』と呼ばれるもので、ほとんど各駅停車のようなもの。
 ただこの『準急』は運賃だけで乗れ、普通列車を追い抜いていきますので、かなり好評なのです。
 長距離を行く列車の中では、一番安いのが『準急』なのです。

 大陸横断馬車鉄道の『普通』は、各駅停車の上に、郵便車と貨物車も連結されており、停車時間が長いのです。

 『準急』キリー4号は、一路シビルを目指して、定刻12時にキリーを発車、二人は『準急』には必ずある二等席に収まっています。

「『準急』二等って、個室ではないのですね?」
「『急行』以上にある、一等席とは違います」
「二等席はそれなりに廉価ですから」

「そうそう、『準急』にはトイレはありませんから、トイレ停車のときは、必ずトイレに入って、『聖水』にご協力くださいね♪」  
「でもアルジャで降りるのでしょう?我慢できますよ」
「おトイレを我慢するのは、お体に触ります!」

 キリーの砂浜は、金網馬車鉄道ですので、ウミサソリキングを間近に安全に見られる、唯一の場所ということで、結構な観光鉄道路線になっているのです。

「ウミサソリキング観光ですか……変われば変わるものですね」
「でも、この砂浜で海水浴をしたのは、後にも先にも私たちだけ、伝説になっていますよ」

「伝説ね……エラムですからね、とんでもない尾ひれがついているのでしょう」
「そうですよ、話がとても変わっていますが、聖地巡礼ツァーの名所のひとつ、旅行案内に話が記載されています」
「お読みになりますか?」

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