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第二章 織田千代子の物語 夏越祓(なごしのはらえ)
水無月を食べましょう
しおりを挟むアフタヌーンティーは和気あいあい、皆さん楽しそうにお茶など飲んでいます。
「千代子お姉さま、お姉さまの事を、詳しく教えて下さらない?」
めぐみと千代子は、今までの事を話しています。
でも、だんだんと話は脱線していきます。
「東京ハウスって温泉があるの?」
「そうよ、でも入っていると時々悲しくなるわよ、だってね、スタイル抜群の方ばかりなのよ」
「でも、お姉さまもスレンダーで素敵と思いますが……」
「ありがとう、やはり妹ね、贔屓目に見てくれるのね」
この後、東京生活の事を、千代子さんが詳しくレクチャーなどしています。
周りでは、三段スタンドが空になり始めます。
とうとうお皿が空になり、各テーブルに京都の和菓子、『水無月』が運ばれてきました。
『ういろう』の上に小豆をのせた、三角形の和菓子ですが、かなり多めに積んであります。
美子さんが、
「さて、そろそろお開きの時間ですが、最後に皆で『水無月』を食べようと思います」
「ちょっと変則ではありますが、夏越祓(なごしのはらえ)です」
「ここに集まった方々は、それなりに苦労された方ばかり、人生の前半戦は、苦しい思いで過ごされました」
「それは皆様自身が、知っているはずでしょう」
「しかしここを境に、これからは人生の後半戦と考えましょう」
「半分の人生の厄祓いをしましょう、夏越祓(なごしのはらえ)です」
「そして私とともに、新しい人生を切り開きましょう」
「いいですね、乙女の恥じらいなど、この際置いときましょう」
「どんどんと『水無月』を食べましょう、私が手本をお見せいたします」
立ったまま『水無月』を手づかみし、ガブッと食べました。
もぐもぐと食べ、さらにもう一つを、手づかみしガブッと食べました。
「美子様、余りにはしたない、私たちは『上品』ですから、真似が出来ませんわ」
鈴木聡子さんが笑いながら、チャチャを入れています。
「いいじゃないですか、さあ聡子さんも食べましょう」
「なんならお口に、私がねじ込んであげましょうか?」
「口移しですか?」
「おや聡子さん、『お上品』はどこへ行ったのですか?」
「落としてしまったようです、したがって私も『お下品』に、『水無月』をいただく事にします」
やおら立ち上がると、『水無月』を手づかみし、ガブッと食べました。
「じゃあ、私も」と忍さんも続きます。
我も我もと皆さん、『お下品』に『水無月』を食べています。
不思議な一体感が漂います。
「皆さん、これで前半の厄は払いました!」
「明るくいきましょう!」
「陰りなどは、『お下品』に食い散らしましょう!」
「私たちは強いのです!」
織田千代子は、この美子の『お下品』につられ、『水無月』を食べました。
いままでの人生など、大したこともない。
心に秘めていた『いじいじ』としたものが消え、代わりになにか、力が湧いてきます。
明日がまぶしく鮮やかに思え、妹と二人で、明るい明日を迎える確信が、心を満たすのです。
……そう、私は厄を払った、そして独りぼっちの寂しさも食い散らした!
私はめぐみと二人、そして美子様に守っていただく!
……そう、私は安心をつかんだ、そして居場所を見つけた!
織田千代子は、『水無月』を『お下品』に食べた。
過ぎた昔の陰りを食い散らした。
そして夏越祓(なごしのはらえ)を終えたようです。
FIN
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