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第二章 織田千代子の物語 夏越祓(なごしのはらえ)

身請け話

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 荒井の義理の娘のめぐみは十八歳、爺の孫の左藤文(さとうふみ)は十四歳、二人ともそれなりに美しく、かなり高額の代金で、六条楼に買い取られたのです。

 特に荒井めぐみは、すぐに水揚げかと思われましたが、二人ともなぜかそのままです。
 
 二日目に、ある男が二人を見に来ました。
「白川支店長、この娘たちですが、いったいどうされるのですか?」
 妓楼の主、六条晶子の父親が聞きました。

「あの方のお考えしだい」
 
 ……

「二人はまだ学校に通っていたのですか?」
「荒井めぐみの方は、高小から京都府女子師範学校本科第一部、左藤文(さとうふみ)の方は、京都市立二条高等女学校です」

「京都府女子師範ですか……優秀ですね……左藤文(さとうふみ)さんは京都市立二条高等女学校ね……」

「荒井めぐみさん、貴女を身請けしたいと、おっしゃる方がいる、その気はあるか?」
「妓楼主にお任せするばかりです」

「左藤文(さとうふみ)さんはどうですか?」
「よく分かりませんので、妓楼主にお任せいたします」

「六条さんにお任せするといわれていますが、お考えはありますか?」
 
「二人とも、少しは縁のある娘さんたちですが、妓楼の主としては、身請けを申し出るお客様を、断ることは出来ません」

「それに、あの方は恐ろしい方ですから……ところで晶子は、元気でいるのでしょうか……連絡もありませんので……」

「先ごろ、東京の銀座でお会いしました、あの方とご一緒に、天麩羅店におられました、織田千代子もいましたね」

 このあたりから、二人の声が小さくなります。

「あの方が、今度の金曜日の夕刻には、この地へやってこられる、貴方の娘の件で、ここにこられたことがあったろう?」
「あの時、軍事演習があったが、あれはあの方を守るために、近衛師団が動員されたのを隠すためだ」

「それだけの重要人物だが、今回は極秘、護衛も極少数、貴方には、この二人を連れて、土曜日の午後二時に、円山の興楽館まで来て欲しいとのことです」

「晶子さんも同行されているはず、仲たがいを納める機会でしょう」

「ところで織田千代子についてですが、遠い親戚は居ると伺っていますが、何か聞いておりませんか?」

「何も知らないというのが、ここの約束事なのですが……実は異母妹がいます」

「織田織物の旦那が、奥様が妊娠中に、上七件の芸妓に手を出して、大騒動になったことがあります」
「その芸妓は、程なくして娘が産まれ、花街を出て妾奉公に出たそうです」

「少し詳しく教えてください」

 妓楼主は、ものすごく小さい声で、白川支店長に耳打ちしました。
「目の前のめぐみが、その娘ですが、本人は多分知らないと思います」

 さすがに驚いた、白川支店長でした。

 めぐみは二人の男たちの話を聞いていましたが、最後のひそひそ話は聞こえません。
 しかし、自分たちの行く末を話しているのは、理解しています。

 ……私は誰に身請けされるのだろう……お母様は私を身ごもったまま、旦那に捨てられ、泣く泣く荒井のおめかけさん……
 私は叔父さんに身売りをさせられた……所詮は水商売の家なのね……

 私は仕方ないけど、文さんは気の毒ね……同じ方が身請けするのかしら……

 隣では左藤文(さとうふみ)が震えていましたが、
 ……私が身を売ればお兄様が助かる……私さえ我慢すれば……
 そんなことを考えていましたが、そこは十四歳、無条件で怖いのです。

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