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第2部 嵐の前の平穏な日々

【4章】38話 ご『褒美』をいただきました、そしていただいています。

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 その日はくたくたになり、私はベッドに入ると、速攻で爆睡しました。
 なんでくたくた?聞かないでください!

 明らかに夢の中で……

「久しいな、楽しくやっているようだな、元気でいるか」
聖天様が声をかけてくださったのです。

「半年ぶりとおもいます、なんとか無事に暮らしております」
「そうか、見たところ『静かに心豊かに』とはいかないようではあるな」
「穴があったら入りたい心境ですが、なにか楽しいです」
「良いではないか、このまま楽しく暮らすが良い、エーリュシオンもなかなか良い方向に向かっている」
「ありがとうございます」

「そうだ、貴女のがんばりに対して『褒美』をやろう」
「『褒美』?」
「そう、『褒美』だ、貴女が夜を楽しんだ女に対して、貴女は『褒美』を出せる、そんな力だ」
「でもその能力は頂いていますが?」
「女奴隷に対しての『不可侵の加護』とは違うものだ、『若返りを与える』の力だ」

 ?

「貴女が楽しむ相手に『ひと時の若返りを与え』、楽しんだ後は『若返りを戻す』。そして美味しかったら、そのまま若返りの『戻り』を消す」
「貴女の冷酷で好色な性根にピッタリであろう?」

 つまり、それなりの歳の女を相手とするとき、お試しにひと時、相手を若返らせ、その後……
 それにしても、冷酷で好色な性根ですか……
 
「エーリュシオンの人類の、貴女への評価だ」
「……」

「まあ、良いではないか、若返りは一律20歳。20歳まえの女に与えたら、その場で消滅するから気をつけるのだぞ」

「そうそう、いい忘れたことがある」

「貴女の体は理想の女性としての体、つまりは女性フェロモンも完璧だったのだが、不妊としたのでユニセックスの身体になっている」
「不思議なことに女性フェロモンが変質して、異性ではなく女性に影響を及ぼしている」
「多分貴女の心が、強烈に望んでいる結果であろう」

「『名をはばかる方』が、ご『褒美』として、この貴女の望みをかなえて下さったぞ」
どういうことですかね……

「女は性欲が刺激される、下世話にいえば性感帯は敏感になる、貴女の側にいるだけでそうなる、勿論、男にはもてるぞ」

……

「舌をからませ、唾液にのせて貴女の知識・技術を分け与えられる、与えた知識を取り上げることも出来る」

「これらは『名をはばかる方』のお力の賜物、有り難く思えよ」

 女性フェロモンが完璧なのに、同性に影響を及ぼす?冗談じゃない!これは呪いではないですか!
 しかも『舌をからませ、唾液にのせて』というのは、ディープキスではないですか!
 『舌をからませた口づけ』しただけで、私の知識・技術を分け与え、さらには取り上げることが出来る……
 神様とはなんと残酷なのか……

「いまの心の言葉、不敬であるぞ、気をつけよ」
 怖い顔で聖天様にいわれました。

「まぁ受け取っておくように。我にも『名をはばかる方』のお考えは、分からぬ時があるのでな」
「有り難く受け取るのなら、もう一つ『褒美』をやろう」

 えっ、まだなにか頂けるの?

「取り寄せの力だが、植物について、種のほかに苗など取り寄せ可能にしてやろう、これには一年の幼木も範囲とする」
「貴女は農業などを始めるのだろう?外来植物の害なんて気にせずとも良い」
「何度もいうが、元々どうなっても良い世界なのだ、ただな、この世界に住まう者のことを考えると不憫なわけだ」
 
 聖天様に嫌味を聞かされましたが、『ご褒美』は確実と確信しています。
 でも、なぜ『若返り』……

『名をはばかる方』からのご『褒美』も起っています。
 やたら女性に言い寄られます……これは神様事だったのですか……
 無意識の願望を叶えていただいた、が……

 いけない、これ以上は不敬なのだった……思うまい、そう、有り難く受け取らなければ……
 ……この世界に住まう者のことを考えると不憫……やはり神は神様なのですね……

「ほほぅ、貴女がそのように考えてくれるとはな、よし、もう一つ『褒美』をやろう」
「そうだな、取り寄せ能力にはオーダーメイドの取り寄せはなかろう、それが可能となっておれば、取り寄せが出来る、いいであろう?」
「靴とかなどには必要だろう、上手く使うが良い」

 私の耳に天啓?を残して聖天様は消えていかれました。

 目覚めると明け方の四時、疲れたのに目が冴えてしまいました。

 ロマンチック・ドリーム・タウンにも新人がやってきました。
 本命のサトウダイコン栽培を始めるための、召使さんの募集です。
 応募していただいた方の多いこと、侍女長さんたちが各地に赴いて面接、30名の採用となりました。

 やはり……
 『召使』さんは、勿論『其れなりに若く、其れなりに可愛くピチピチ』、を最低条件としたそうです。
 結果は一目瞭然、いわゆるピチピチギャルです。
 大体が16歳から22歳あたり、主要三国からの方がほとんどですが、聞いたこともない土地出身の方もおられました。
 先ごろの農作業の『召使』さんとそっくりそのままのことが起こっています。

 ロマンチック・ドリーム・タウンに集合していただいています。
 それまでに第2農地用の宿舎などは設置完了、一度取り寄せていますので、あっという間ですよ。

 侍女頭さんが出てきて、色々と説明しています。
 女中さん以上に支給した屋外作業服を着ていますが、寒そうですね……
 で、ベンチコートも全員に支給しました。
 レインコートなどもこの際ね、靴も防寒ロングブーツと防寒長靴、屋外作業が主な方には、安全防水防寒ロングコート、29、000円のものを供与しました。

 女中さんから上は支給ですが、召使さんは建前として供与ですからね。

 三国不戦条約が公表され、立会人としての私が署名していることが、エーリュシオン中に知れ渡っているようです。
  
 戦女神イルマタル・ロイスター……
 なにか尾ひれがついた噂話が、この西方文明圏に広がっているようです。
 新人召使さんの話が小耳に入ってくるのですよね。

 なんでも、絶世の美女。
 ふむふむ、その通り♪
 
 なんでも、すこぶる変態。
 うーん、否定はできませんが……

 なんでも、冷酷非道。
 帝都ブルタで、少々『おいた』をしましたからね……

 なんでも、見境なしに女を押し倒す。
 誰ですか!こんな話を広めているのは!

「いいではありませんか、好意的で」
「エヴプラクシヤさん!何が好意的なのですか!『冷酷非道、見境なしに女を押し倒す変態女』ですよ!」

「そのぐらい施政者としては当然なのでは?民衆に面白おかしく噂されるなんて、喜ばしい限りですよ、父ならそういいます」
「本当に民衆がそう思っているなら、新しい召使さんなどやってきませんよ」

 ……いわれればそうなのでしょうが……しっくりしませんね……

「ところで、イルマタル様が『見境なしに女を押し倒した』相手の扱いは、どうするのですか?」
「ターニャさんと同じではとおもいますが……『サロン・キティ』はなんと云っているのですか?」
 
 ……サロン・キティ、『子猫の応接室』となるのでしょうが、ナチス・ドイツがベルリンで開いていた高級娼館のことです。

 スパイまがいのこともやっていたと聞きますが、こちらでは私の女奴隷で、『不可侵の加護』を与えたメンバーのことです。
 該当者以外は、この存在を知りません。
 私からみれば、『怖い古女房の集団』に見えます……

「『妾待遇』は避けたい、このあたりで、と意見が一致しています」
「『不可侵の加護』を与えたくないというのですね」
 頷くエヴプラクシヤさんでした。

 確かに私と共に、永遠に不老不死となる方を、無責任に増やすわけにはいきません。
 『サロン・キティ』の判断は正しいのです。

「ロマンチック・ドリーム・タウンで働くにしても、基本はイルマタル様のハレムと云うのが大前提、王族などのハレムでは、お年を召された方はやめていただいています、ここでも雇い止めとしたいのです」

 ……定年ですか……
 雇い止めは幾つからと聞くと、概ね侍女長クラスで40歳とか……早すぎませんか……なんとか退職後の生活設計を考えなくては……

 ハレムでは『定年』は『お褥辞退』と呼ぶそうなのですが、とにかく定年制を了承しました。
 何度もいいますが、不老不死は特別なのです。
 ややこしいことになる前に、『お褥辞退』をしていただく、この『サロン・キティ』の考えを認めたのです。

 これで、私が抱いた女性は『愛人待遇』、『愛人』と略して呼ばれ、40歳で『お褥辞退』、つまり定年となることに決まったのです。
 『妾』以上は滅多になれない、その候補でもあるハレム勤務者になる『侍女』にも滅多になれない。
 この事をロマンチック・ドリーム・タウンに勤める方に示したわけです。
 そのまえに寿退職となるでしょうが……

 ただね、反乱関係者一族の婦女子の『夫人』の方々をどうするか……
 
 フラン皇帝とラテラノ王と交渉しましたね。
 帝国と王国の中間地点で、会合を持ったのです。

「では反乱関係者一族の婦女子で、イルマタル様の『愛人』となり、『お褥辞退』となった者は免責せよと?」
「お願いできませんか?ご存知のように『妾』が増えると、とんでもないことになりますので」
 二人は黙ってしまいましたね。

「免責後に再び同じことになったら、処罰してもいいのですか?」
「勿論です」
「それだけでは、なにか宰相や軍が納得する、お土産が必要なのはご理解されておられますか?」
 
「理解しています。『オーパーツ』の技術で蒸気エンジンがあるでしょう?帝国や王国に一台ぐらいあるのではありませんか?」
「私はどんなものかはよく知りませんが、修理なんてできないでしょう?」
「だからきわめて初期のもので、実用性のある蒸気機関、揚水ポンプなんてどうかしら、図面を一式差し上げます、鉱山とかに便利じゃないかしら」

 ジョン・デサグリエによる、改良型セイヴァリ機関ですよ。
 お風呂程度の水しか操作できない、水魔法とはちがいます。
 本格的な給排水ポンプですからね。

 顔色が変わりましたよ。
「鉱山の排水……たしかに水魔法では埒が明かない……魔法使いを何人も使い潰すしかないのが現状だ……」
「それはわが国でも作れるのですか?」
「可能と思いますよ」

「一度確認したいのだが……」
「かまいませんよ、お二人は嘘などつかない方と信じておりますから、ただ大公国ともよく話してくださいね」
 とりあえず図面一式を渡しました。

 後日、三国共同の突貫工事で作り上げたようですよ、とりあえず川の水を揚水してみたようですね。
「確認しました、免責の件、お話の条件でなら承知しました」

 唐突ですが、この返事の後、私は皇帝家と王家、さらには大公家と相談して、鉛筆の会社を設立したのです。
 技術提供の更なる証として、差しさわりのないものですからね。

 私が技術知識を提供し、三国の君主家が出資したエーリュシオン鉛筆社。
 三国の首都のギルドが運営と販売を担当するということで、売り上げの2割を私、皇帝家、王家、大公家の四者で折半というもの。
 つまり私の分け前は、売り上げの5パーセントとなっています。
 鉛筆、売れるといいのですが……

 このような会社を作って、『お褥辞退』後の受け皿とすれば良いでしょう。
 エーリュシオン鉛筆社、評判がいいようですね♪やれやれ、これで一安心です。
 でも、そうは問屋が卸さなかったのです。
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