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シリーズ004

012 菖蒲色の名刀

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 考えていても仕方ない。それにリナも今の話を聞いていた。
 だから何とかすると思っていたけど……うまくいかない。
「ちっ!?」
 抜いていた小太刀が刀身のなかばでくだかれていた。多分攻撃しようとして、逆にへし折られてしまったのだろう。
 しかし、リナは背中に背負った太刀を抜くどころか、半分になった小太刀を鞘に納めてから構えている。棍棒として使うつもりなのか知らないけど、なんで抜かないのっ!?
「……あ」
 そうか、速さだ。
 相手の攻撃が速過ぎて、リナも太刀を抜いて応戦できないのだ。何より、彼女の本来の戦い方は片手武器、持ち慣れているとはいえ普段使わない武器をうまく使えるという保証はどこにもない。
 でも、逆に、
すきさえ、作れれば……」
 少しでも時間があれば、リナならふところに入ることも、太刀を抜いて相手を斬ることもできる。ただ、問題は……どうやって、すきを作ればいいの?
「何か、何か……?」
 手持ちは少ない。持っているのは旦那の形見の短槍だけ。ジャンヌの剣も近くに転がっているけど、私に剣を使う力も技術もない。
 後使えそうなのは魔法だけど、私が使えるもので致命傷は……いや、ちょっと待って。
(リナ……聞こえたら何か合図して)
 小声で話す。もしリナの異能が本物なら、もしかしたら聞こえるかもしれないと考えて。
 攻撃をかわしながら、リナはこっちにウィンクを投げてきた。よし、聞こえている。
(これから魔法を使うけど、そのすきに太刀で切れる?)
「にゃっ!」
「飛び道具の数を増やしても、無駄だと言うのに……」
 カリスの野郎は呆れている。リナの異能を知らないのか、いや、太刀の存在を知らないから、攻撃力が低いと勘違いしているのかもしれない。実際、私もあの太刀が何なのか知らないし。
 だが、今のは多分、私へのメッセージだ。二本の小さな鉄の棒(これも後で聞いたら、寸鉄と言うらしい)を投げつけてから、小太刀の鞘でかわしきれなかった金属の槍をさばいている。
(二本……二回攻撃、ってこと?)
 再び投げられるウィンク。しかし二回、か……使えなくはないけど、連続して、となると難しい。再度詠唱えいしょうするのに、少し時間が掛かる。リナには攻撃に集中していて欲しいし……でも、やるしかない。
「旦那に殴られる覚悟はできていたけど……今すぐのつもりじゃなかったのに」
 ジャンヌの剣を拾い上げ、私の短槍と一緒に、手に一本ずつ持つ。振ることはできなくても、盾代わりに構えるくらいならできる。
 ジョー……あの世で何もできないだろうけど、せめていのってて。
「ふぅ…………よし」
 後は詠唱するだけ。上手くいってよ!
 武器を交差させて突き出してから、私は魔法を唱えた。
「【疾風ボラ】――【螺旋ヘレゾン】!」
 私が使える唯一の魔法、それが刺突系風属性魔法の【疾風・螺旋】だ。
 昔いたずらで旦那とレイチェルちゃんにぶっ放して以来、使ったことはなかったけど、どうにか使えた。威力はあの時の比じゃないが、それでもあっさり防がれてしまう。
「邪魔な!」
 攻撃が飛んでくる。
「【疾風ボラ】……」
 詠唱は続けているけれど、多分発動まで間に合わない。だから構えていた武器を前面に押し出した。
「……――【螺旋ヘレゾン】!」
 魔法を放つと同時に、私の視界は空を向いていた。
「っぶね……!」
 こっちの意図に気づいたフィンさんが、攻撃が当たる直前に私の身体を引き倒してくれたから、ぎりぎりかわせたのだ。おまけにタイミングは魔法の発動直後。
 ジャンヌの剣も……形見の短槍も砕けちゃったけど、それでも私は役割を果たした。
「リナ……………………いっけぇーっ!」
 だから叫んだ。
 返事はない、でも確信はあった。



「がっ……!?」



 次に私が身体を起こした時には、砕けていく赤い金属の中で仰向けに崩れ落ちたカリスと、こちらに背を向けたリナが立っているだけだった。
 ……菖蒲あやめ色の刀身を手にした、リナを。

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