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シリーズ004
010 裏切り者めっ!?
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「まさかフィンさん!?」
「大丈夫、ワタシに嘘は通じないから。騙された可能性は否定できないけどね」
「……嘘をついても、騙されてもいない。そもそも俺は部屋の場所を聞いていないし、ここに来たのも戦闘音でどの部屋か当たりをつけたからだ」
私が短槍を握る頃には、リナもフィンさんも戦闘準備を終えていた。そして言葉もなく、三人並んで部屋の外へと飛び出した。
「部屋の場所を知っていたのは!?」
「館長を除けば中にいたワタシとミーシャだけ!」
「外部から魔法か何かで索敵した可能性は!?」
「少しでも音が出る類ならワタシが気付くっ!?」
ということは、残るはただ一人。
館長の裏切り者めっ!?
「……えっ?」
言葉もなかった。
私達が娼館の受付に着いた頃には、そこには悪意しかなかった。おそらく火炎系の魔法を使ったのだろう、いつも客と寝ているのを叱りつける声を聞くことは、もうない。胴体は焼け崩れ、四肢が辺りに転がっている。
「なんで、一体……どうして?」
「……拷問の後に始末したんだろう」
フィンさんが館長の腕を拾い上げると、焼け崩れていない皮膚に無数の傷跡が見える。
「傷跡がかなりある。最後に漏らしたかは知らねぇが、長い時間耐えていたんだろうな……」
「そんな……」
館長のことを、少しでも疑ったことを後悔している。あれだけ世話になっていたのに、ここまで耐えてくれたのに、それなのに……
「落ち込んでいるところ悪いけどさ……未だ終わってない」
リナの言葉に、私はゆっくりと彼女の方を向いた。
「…………あ、」
そう、異能を、異常聴覚を持つリナの方を。
「音を消す魔法や魔導具はある。でも、口を塞げば拷問程度で使う必要はない。ましてや止めにまで使う必要はないでしょう。それをここで使う理由は?」
「声を、音を聞かれて気付かれない為……リナへの対策?」
相手は、リナのことを知っている。その対処法も。
「おまけに今気付いたけど、勇者君達の方から何も聞こえない。ねえ、ワタシのこと知ってた?」
「そりゃ有名人だからな。国も警戒してたんだよ、『鳴閃』」
「だろうと思った……」
国や私達の関係者で、魔導に通じた人間はただ一人。だから、『鳴閃』とかリナが呼ばれていたけど気にする余裕はなかった。
なにせ今一番危ないのは……ディル君達だ。
「……ああ、来たのか」
「まさか身内が裏切っているとは思わなかったけどな……カリスさん」
悠々と杖にもたれながら、魔導士のカリス・ルヴェットは私達の方を向いている。
ディル君は倒れていた。いつもリナがいる小屋が崩れていて、その下にいたのか下敷きになっている。
ジャンヌもやられていたのか、足下に寝転がっていたので、隙だらけになるのも気にせず駆け寄った。
「ジャンヌっ! しっかりしてっ!?」
「ぅ……」
傷は酷いけど、死ぬ程じゃない。しかし代わりに防具が砕けている。おそらく魔法の一撃を受けたせいだろう。
「で、説明くらいはあるんだろうな。カリスさんよ」
「まあ、端的に言うと……元々向こう側だった、ってだけだね」
杖を軽く振り回すとカリスさん、いやカリスの野郎はフィンさんに、何でもないことの様に返してきた。
「ここでの最後の仕事が在庫の確認と回収で、問題がなければ荒事無しで退散する予定だったけど……国にあった報告書の処分数と、記録にある在庫の数が合わない。だからこんな騒ぎになった」
と、説明すれば分かるか。そう暗に返してきているのが分かる。
実際に分かる。そのなくなったものが、魔血錠剤であり、国の処分から逃れたものがまだ残っているのだと。
「もしかしたら在庫が遺品の中に隠れているのでは、とも思ったけどそんなことはなかった。短槍の機構に隠されている様子もなかったし、だから他の可能性を考えたんだよ……誰かが飲んでるんじゃないか、って」
その一言で、一瞬、ある可能性が浮かんだ。
魔法でしかできないことと、異能でしかできないことの区別は、私にはついていない。でも、もし同じことができるとしたら……目的は口止めだ。
「さて、魔血錠剤のことを知っている君達と……それを飲んで一命を取り留めたディル君には死んでもらおうか」
「大丈夫、ワタシに嘘は通じないから。騙された可能性は否定できないけどね」
「……嘘をついても、騙されてもいない。そもそも俺は部屋の場所を聞いていないし、ここに来たのも戦闘音でどの部屋か当たりをつけたからだ」
私が短槍を握る頃には、リナもフィンさんも戦闘準備を終えていた。そして言葉もなく、三人並んで部屋の外へと飛び出した。
「部屋の場所を知っていたのは!?」
「館長を除けば中にいたワタシとミーシャだけ!」
「外部から魔法か何かで索敵した可能性は!?」
「少しでも音が出る類ならワタシが気付くっ!?」
ということは、残るはただ一人。
館長の裏切り者めっ!?
「……えっ?」
言葉もなかった。
私達が娼館の受付に着いた頃には、そこには悪意しかなかった。おそらく火炎系の魔法を使ったのだろう、いつも客と寝ているのを叱りつける声を聞くことは、もうない。胴体は焼け崩れ、四肢が辺りに転がっている。
「なんで、一体……どうして?」
「……拷問の後に始末したんだろう」
フィンさんが館長の腕を拾い上げると、焼け崩れていない皮膚に無数の傷跡が見える。
「傷跡がかなりある。最後に漏らしたかは知らねぇが、長い時間耐えていたんだろうな……」
「そんな……」
館長のことを、少しでも疑ったことを後悔している。あれだけ世話になっていたのに、ここまで耐えてくれたのに、それなのに……
「落ち込んでいるところ悪いけどさ……未だ終わってない」
リナの言葉に、私はゆっくりと彼女の方を向いた。
「…………あ、」
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「音を消す魔法や魔導具はある。でも、口を塞げば拷問程度で使う必要はない。ましてや止めにまで使う必要はないでしょう。それをここで使う理由は?」
「声を、音を聞かれて気付かれない為……リナへの対策?」
相手は、リナのことを知っている。その対処法も。
「おまけに今気付いたけど、勇者君達の方から何も聞こえない。ねえ、ワタシのこと知ってた?」
「そりゃ有名人だからな。国も警戒してたんだよ、『鳴閃』」
「だろうと思った……」
国や私達の関係者で、魔導に通じた人間はただ一人。だから、『鳴閃』とかリナが呼ばれていたけど気にする余裕はなかった。
なにせ今一番危ないのは……ディル君達だ。
「……ああ、来たのか」
「まさか身内が裏切っているとは思わなかったけどな……カリスさん」
悠々と杖にもたれながら、魔導士のカリス・ルヴェットは私達の方を向いている。
ディル君は倒れていた。いつもリナがいる小屋が崩れていて、その下にいたのか下敷きになっている。
ジャンヌもやられていたのか、足下に寝転がっていたので、隙だらけになるのも気にせず駆け寄った。
「ジャンヌっ! しっかりしてっ!?」
「ぅ……」
傷は酷いけど、死ぬ程じゃない。しかし代わりに防具が砕けている。おそらく魔法の一撃を受けたせいだろう。
「で、説明くらいはあるんだろうな。カリスさんよ」
「まあ、端的に言うと……元々向こう側だった、ってだけだね」
杖を軽く振り回すとカリスさん、いやカリスの野郎はフィンさんに、何でもないことの様に返してきた。
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と、説明すれば分かるか。そう暗に返してきているのが分かる。
実際に分かる。そのなくなったものが、魔血錠剤であり、国の処分から逃れたものがまだ残っているのだと。
「もしかしたら在庫が遺品の中に隠れているのでは、とも思ったけどそんなことはなかった。短槍の機構に隠されている様子もなかったし、だから他の可能性を考えたんだよ……誰かが飲んでるんじゃないか、って」
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