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シリーズ003
007 デリバリーナースはいかが?
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「……え、出張?」
「そう。奴さん、どうせ予約入れてんでしょ?」
その日の夜、というか娼婦にとっての朝にいきなり、私は受付まで呼び出された。何事かと思えば、勇者様の仲間こと斥候のフィンさんからそんな依頼を出されたのだ。
「我らの勇者様も大分回復してきたし、見舞いがてら英気を養わせてやってくんないかな、って」
「まあ、一応出張もやってるからいいですけど……護衛は?」
そう、呼び込みと同様に護衛がいないと、出張はやらないのが娼館『パサク』の基本方針だ。一見じゃないから送迎だけでいいとはいえ、そんな都合よく……
「リナちゃんだっけ? 今日は休暇で用事あるから、その次いででいいなら引き受けるって言ってたよ」
「ちょっとリナ!?」
思わず叫んでしまったが、当の本人は受け付け近くにいない。いったいどこ!?
「先に入り口で待ってるって。じゃあ、俺もそろそろ……」
そう書き置きと一緒に言い残して、フィンさんは先輩娼婦と共に消えていった。いや、少しは病人心配しなさいよ!
「……なんて、叫んでても仕方ないか」
これでも少しは心配していたし、ちょっと様子を見に行くくらい訳はない。ただ待っているのも暇だ、ってのもあるけど。
「リナ~支度してくるから待っててよ~」
とりあえず入口の方に向けて叫んでおく。返事はないが、聞こえているものとして、私は一旦仕事部屋に戻った。
……や、さすがにナイトドレス(今日は明るめのオレンジ)だけとか、娼婦然とした格好で街中歩けないって。
「ここ、私でも知っている高級宿じゃん。あの贅沢勇者め」
「まあ、娼婦を半年拘束できる財力があるなら、ある意味当然だよね~」
フィンさん直筆の書き置きを見ながら、私はリナと並んで歩きつつ愚痴っていた。格好こそいつもの町娘スタイルプラス伊達眼鏡だが、鞄の中では見舞いの品やさっきまで着ていたエロ衣装が舞い踊っている。できればぶり返してくれると仕事がなくなって助かるんだけどなぁ~。
「というか、ミーシャが自分から娼婦になってなかったら、身請けしてたんじゃないの? あの勇者君」
「あり得る……あの勇者様なら」
私みたいな職業娼婦には関係ない話だけど、奴隷身分や借金等で人生を売却して娼婦に堕ちた人間は、同じく人身売買の要領で身請けされ、所有物にされてしまう場合もあるのだ。
私は別に借金やしがらみもないので、娼館を介して勝手に人生を売られるわけでもないが、商売上では半ば身請けされているようなものか。未だにディル君に出勤時間全部買い占められて、他のお客を取ることもないのだから。
「ところでリナ、用事って?」
「ちょっと買い物にね……」
リナはいつもの太刀を抱えずに佩いて、紐を通して腰から吊るしていた。それ以外にも珍しく、布拵えの鞄を携えている。
「店から『探していたものが見つかった』、って連絡が来たから取りにね。ついでに時間があれば、ちょっと店回ってくるわ」
「やっぱり……もう行くんだ」
「うん。そのつもり」
私の言葉を、リナは否定しなかった。
「今すぐ、ってわけじゃないけど……ね」
「そっか。寂しくなるな……」
出会いと別れなんて、今までもあったのに。それでもまだ、いちいち喜んだり悲しんだりを繰り返してしまう。
本当、私は弱いな……
「そう。奴さん、どうせ予約入れてんでしょ?」
その日の夜、というか娼婦にとっての朝にいきなり、私は受付まで呼び出された。何事かと思えば、勇者様の仲間こと斥候のフィンさんからそんな依頼を出されたのだ。
「我らの勇者様も大分回復してきたし、見舞いがてら英気を養わせてやってくんないかな、って」
「まあ、一応出張もやってるからいいですけど……護衛は?」
そう、呼び込みと同様に護衛がいないと、出張はやらないのが娼館『パサク』の基本方針だ。一見じゃないから送迎だけでいいとはいえ、そんな都合よく……
「リナちゃんだっけ? 今日は休暇で用事あるから、その次いででいいなら引き受けるって言ってたよ」
「ちょっとリナ!?」
思わず叫んでしまったが、当の本人は受け付け近くにいない。いったいどこ!?
「先に入り口で待ってるって。じゃあ、俺もそろそろ……」
そう書き置きと一緒に言い残して、フィンさんは先輩娼婦と共に消えていった。いや、少しは病人心配しなさいよ!
「……なんて、叫んでても仕方ないか」
これでも少しは心配していたし、ちょっと様子を見に行くくらい訳はない。ただ待っているのも暇だ、ってのもあるけど。
「リナ~支度してくるから待っててよ~」
とりあえず入口の方に向けて叫んでおく。返事はないが、聞こえているものとして、私は一旦仕事部屋に戻った。
……や、さすがにナイトドレス(今日は明るめのオレンジ)だけとか、娼婦然とした格好で街中歩けないって。
「ここ、私でも知っている高級宿じゃん。あの贅沢勇者め」
「まあ、娼婦を半年拘束できる財力があるなら、ある意味当然だよね~」
フィンさん直筆の書き置きを見ながら、私はリナと並んで歩きつつ愚痴っていた。格好こそいつもの町娘スタイルプラス伊達眼鏡だが、鞄の中では見舞いの品やさっきまで着ていたエロ衣装が舞い踊っている。できればぶり返してくれると仕事がなくなって助かるんだけどなぁ~。
「というか、ミーシャが自分から娼婦になってなかったら、身請けしてたんじゃないの? あの勇者君」
「あり得る……あの勇者様なら」
私みたいな職業娼婦には関係ない話だけど、奴隷身分や借金等で人生を売却して娼婦に堕ちた人間は、同じく人身売買の要領で身請けされ、所有物にされてしまう場合もあるのだ。
私は別に借金やしがらみもないので、娼館を介して勝手に人生を売られるわけでもないが、商売上では半ば身請けされているようなものか。未だにディル君に出勤時間全部買い占められて、他のお客を取ることもないのだから。
「ところでリナ、用事って?」
「ちょっと買い物にね……」
リナはいつもの太刀を抱えずに佩いて、紐を通して腰から吊るしていた。それ以外にも珍しく、布拵えの鞄を携えている。
「店から『探していたものが見つかった』、って連絡が来たから取りにね。ついでに時間があれば、ちょっと店回ってくるわ」
「やっぱり……もう行くんだ」
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私の言葉を、リナは否定しなかった。
「今すぐ、ってわけじゃないけど……ね」
「そっか。寂しくなるな……」
出会いと別れなんて、今までもあったのに。それでもまだ、いちいち喜んだり悲しんだりを繰り返してしまう。
本当、私は弱いな……
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