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シリーズ003
006 太刀の重み
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「……ねえ、リナ」
「ん~……何?」
もうすぐ朝食の時間だが、リナは『ちょっと本気出しちゃったから疲れた~』とか言って、太刀を持ち上げて抱えてから、いつものように椅子に腰かけていた。ジャンヌは未だに地面の上で呆けている。そりゃあ、あんな大技放っといて、逆に際どい一撃を見舞われたら、ビビるのもしかたない。私だったら下手したら漏らしてた。
だって一介の娼婦だし、戦闘職じゃないし。
「前から思っていたんだけど……もしかして今まで、太刀以外の武器で戦ってたんじゃないの?」
それも今日で確信した。
別に太刀の構え方を知っているわけじゃなかったけど、いつも違和感を覚えていた。鞘に納めたままの太刀を構える時、リナはいつも片手で支えてから、もう一方の手で固定するような持ち方をしているように見えた。よくある両手剣の構え方に近いけど、なんとなく一方に力の配分が偏っている印象があったのよね。
だから、今回の木剣での模擬戦を見て確信した。普段、リナが使っているのは片手で扱う類いの武器だ。両手で構えなきゃいけない太刀じゃない。
でも私は……太刀を携えるリナしか見たことがないのだ。
「へぇ~……修行の成果が出てるじゃん」
ちょっと訳有りなんだよね~、とリナは呟いた。
「ミーシャの短槍と一緒、こっちは師匠兼命の恩人だけどね」
「命の?」
「ワタシも元孤児だってこと」
本当によくある話だった。
孤児やってたところを、通りかかった旅の剣客が偶々拾って育ててくれた。本当に、よくある話だった。
「その師匠は古傷拗らせて死んじゃったけどね……唯一怨み言を言うとしたら、この太刀を押し付けた、ってところかな」
そういえば、リナがその太刀を鞘から抜いたところを一度も見たことがない。下手したら、前回絞められて敷物にされたジャンヌも見てないかもしれない。
「『面倒ごとになるから、絶対に奪われるな』って言い残しちゃってさ……こっちも命の恩人だから打っ棄ることもできないし。だから、」
リナは立ち上がり、いつものように太刀を抱えて歩き出した。そろそろ朝食の時間だ。
「ちょっとほとぼり冷ましてから伝手を頼ろうと思って、今は娼館の護衛やってんの」
「リナ……?」
ほら、ご飯行こう、と言い残して去っていくリナに、何処か物悲しさを感じた。いや、多分私が、一方的にそう思っているのだろう。
「もうすぐ、いなくなるんだ……」
その太刀の重みがどれほどのものなのかは分からない。
それでも、リナは変わらず歩いていくのだろう。いつも通りのやる気なさげな態度で、それでも揺るがない目的を持って。
ただ、不思議なのは……
「それにしちゃあ……いろいろ知り過ぎじゃないの?」
剣術も修め、娼婦としての経験もあると嘯き、独学とはいえ普段は知り得ない経験も持ち合わせている。おまけに私とそう歳の違いはない。
本当に何者なのだろう、あの女は。一体どんな人生を歩めば、あんな濃い経験を積めるのだろうか。
「勝てそうにないですね。少なくとも……今は」
「ジャンヌ?」
いつの間に立ち上がったのだろう、ジャンヌが私の隣に立って、一緒にリナの背中を眺めていた。
「『追いつけるかは、追いかけた者にしか分からない』。昔、修道女をしていた時に、教会の方から教わりました。だから……私は追いかけます。まだ、強くなりたいから」
「すごいね、ジャンヌは……」
私には、そこまで強い目標を持つことはできない。『知りたい』という欲求だって、結局は自分のエゴだ。そこまで強く目標を掲げることができない。
私は、弱いな……
「ん~……何?」
もうすぐ朝食の時間だが、リナは『ちょっと本気出しちゃったから疲れた~』とか言って、太刀を持ち上げて抱えてから、いつものように椅子に腰かけていた。ジャンヌは未だに地面の上で呆けている。そりゃあ、あんな大技放っといて、逆に際どい一撃を見舞われたら、ビビるのもしかたない。私だったら下手したら漏らしてた。
だって一介の娼婦だし、戦闘職じゃないし。
「前から思っていたんだけど……もしかして今まで、太刀以外の武器で戦ってたんじゃないの?」
それも今日で確信した。
別に太刀の構え方を知っているわけじゃなかったけど、いつも違和感を覚えていた。鞘に納めたままの太刀を構える時、リナはいつも片手で支えてから、もう一方の手で固定するような持ち方をしているように見えた。よくある両手剣の構え方に近いけど、なんとなく一方に力の配分が偏っている印象があったのよね。
だから、今回の木剣での模擬戦を見て確信した。普段、リナが使っているのは片手で扱う類いの武器だ。両手で構えなきゃいけない太刀じゃない。
でも私は……太刀を携えるリナしか見たことがないのだ。
「へぇ~……修行の成果が出てるじゃん」
ちょっと訳有りなんだよね~、とリナは呟いた。
「ミーシャの短槍と一緒、こっちは師匠兼命の恩人だけどね」
「命の?」
「ワタシも元孤児だってこと」
本当によくある話だった。
孤児やってたところを、通りかかった旅の剣客が偶々拾って育ててくれた。本当に、よくある話だった。
「その師匠は古傷拗らせて死んじゃったけどね……唯一怨み言を言うとしたら、この太刀を押し付けた、ってところかな」
そういえば、リナがその太刀を鞘から抜いたところを一度も見たことがない。下手したら、前回絞められて敷物にされたジャンヌも見てないかもしれない。
「『面倒ごとになるから、絶対に奪われるな』って言い残しちゃってさ……こっちも命の恩人だから打っ棄ることもできないし。だから、」
リナは立ち上がり、いつものように太刀を抱えて歩き出した。そろそろ朝食の時間だ。
「ちょっとほとぼり冷ましてから伝手を頼ろうと思って、今は娼館の護衛やってんの」
「リナ……?」
ほら、ご飯行こう、と言い残して去っていくリナに、何処か物悲しさを感じた。いや、多分私が、一方的にそう思っているのだろう。
「もうすぐ、いなくなるんだ……」
その太刀の重みがどれほどのものなのかは分からない。
それでも、リナは変わらず歩いていくのだろう。いつも通りのやる気なさげな態度で、それでも揺るがない目的を持って。
ただ、不思議なのは……
「それにしちゃあ……いろいろ知り過ぎじゃないの?」
剣術も修め、娼婦としての経験もあると嘯き、独学とはいえ普段は知り得ない経験も持ち合わせている。おまけに私とそう歳の違いはない。
本当に何者なのだろう、あの女は。一体どんな人生を歩めば、あんな濃い経験を積めるのだろうか。
「勝てそうにないですね。少なくとも……今は」
「ジャンヌ?」
いつの間に立ち上がったのだろう、ジャンヌが私の隣に立って、一緒にリナの背中を眺めていた。
「『追いつけるかは、追いかけた者にしか分からない』。昔、修道女をしていた時に、教会の方から教わりました。だから……私は追いかけます。まだ、強くなりたいから」
「すごいね、ジャンヌは……」
私には、そこまで強い目標を持つことはできない。『知りたい』という欲求だって、結局は自分のエゴだ。そこまで強く目標を掲げることができない。
私は、弱いな……
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