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シリーズ002

001 一人の夜の過ごし方

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「あっ……あぁ……ぁん……」
 薄暗い部屋の中。私は月明かりだけを頼りに、いや頼らずに感覚だけで、自前の赤髪を振り回していた。
 私のわがままで死んでしまった旦那の形見の短槍を股座にやり、石突の部分を当ててこすりつけている。旦那のことを思い出すと、無性に自分をなぐさめたくなって、つい自慰行為オナニーに走ってしまう。
 特に今日みたいに静かな夜は尚更なおさらだ。なにせ予約した客・・・・・が来ないのだから。
「あっ、ああっ!?」
 目を白黒させて、軽く気をやってしまう。眩暈めまいのする視界を揺らしながら、私はそのままベッドの上に寝転がった。股座に当てていた短槍は横に追いやって。
「はぁ……ディル君、今日も来ないのかな?」
 そして私は当代の勇者様こと、予約しておいてすっぽかした客の名前を口にした。



 娼館『パサク』の仕事部屋でディル君の来店を待つ。もしくは興奮した面持ちの彼を迎えて一夜を共にする。旦那が死んで娼婦になってから、そんな毎日を過ごしていた。
 その中でも変化はある。ディル君の仲間の一人からの紹介で記者もどきにもなれたし、旦那の形見の短槍の使い方を娼館の護衛から習ったりしたし。今も旦那のことを思い出さなければ、勇者様から聞き出した自慢話特ダネを記事にして、次の休日に出版社に持ち込む為に準備していたことだろう。



「…………服着よ」
 といっても、娼婦標準装備の無駄に際どい下着の上に薄っぺらいナイトドレス(今日は薄紫)だけだ。事前に手近なタオルで無駄に濡らした股座を拭うのも忘れない。万が一時間ぎりぎりで駆けこまれたらたまらない(一度あったけど、その時は記事を書いていただけだったので誤魔化さずに済んだ)。
 さて、一人だけのお楽しみタイムは終了。特に用事もない以上、時間がもったいないので記者として働かせてもらうとしますか。
 私はベッドの上に板切れを置き、上に原稿用紙を重ねると床にペタンと座り込んだ。即席机の完成である。机のない孤児院時代からよくやっていた手だ。本当貧乏って、嫌い。
 ドンドン、
「おっと……はぁい」
 かなり夜は更けているが、寝坊助な太陽が昇ってくるにはまだ時間がある。大方、一度宿屋に戻って休んでいたら、寝過ごしたけど来たってところか。
「ハァイ。今日はもう来ないと」
「ミーシャさんっ!?」
 いや最後まで言わせろよ。
 いきなり痛烈なディープキスをかましてきた勇者様ことディル君に身体を抱きかかえられながら、娼婦ミーシャ・ロッカは今日も蜜月に身を浸すのであった。



「そして白けるのも、いつも通りってね……」
 本当に疲れていたのだろう、私を抱いて一発吐き出した途端、バタンと倒れてしまった。
 うつ伏せにぐっすり寝るディル君の隣で、ベッドの上に膝を立てた私は、脱がされたパンツをなんとなく指に引っ掛けて回していた。こういう時、仕込みナイフとかを回せば女暗殺者みたいで格好良いのだけど、現実はそういかない。
 個人的には少々物足りないという色狂い手前な思考も脳裏によぎっているけど、女だって盛りたい時はある。ましてや今日は旦那を思い出していたので、ディル君が来る前に自分で慰めていたくらいだ。
 夜明けまでまだ時間はある。もう一眠りしてもいいだろう。
 後片付けを未来の私に押しつけ、膝を下ろしてから一眠りすることにした。いつもやっていることだから、私は気にしていない。
「お休み、勇者様」
 返事がない。ただの就寝者ねむりびとの様だ。
 なんてくだらないことを考えながら、私はゆっくりと眠りに就いた。



 そして時間になっても出てこない私達を館長が叩き起こすのも、通例となりつつあった。
 貴重な金づる逃がさない様にしているから、多少は勘弁して下さい。



 ……ね。

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