上 下
51 / 60
第四シリーズ

010 常坂璃奈

しおりを挟む
「俺が常坂晴美を外道だと思ったのはな、人の命を何とも思っていないところじゃない。そもそも、人間ってのは最低でも自分、そして身内の人間には甘い生き物だからな。見知らぬ奴にも甘くできる善人でもない限り、他人の命や生き様を否定するのは当然だ」



 男達の懐中電灯があるとはいえ、施設内の暗さは変わらない。ほとんど見えない中を、リナは駆けていく。時折足音を強くして響かせ……その周囲に反響させていく。



「だがあいつは、自分自身すら研究の材料としていたんだ。自分を含めた全ての命を蔑ろにしているんだ、十分外道だろう。まあ、流石に当人には変化がなかったが……胎内にいた娘の方には影響があった。煙草一本でも胎内の赤ん坊に影響するんだ、まあ当然だな」



 最初、リナの脳内に映ったイメージは暗い通路と障害物だけだった。なのに足音を強く、深く踏みしめる度に、そのイメージは鮮明になっていく。
「よっ!」
 飛んでくる弾丸すら把握するほどに。



「お前が逃亡した後に全部知ったんだが、リナの奴は母親の部下達に色々やらされたらしい。情交はまだ分かるが、小中学生のうちに人殺しのやり方すら叩き込んだのはやりすぎだ。おまけに……研究成果の軍事利用も検証してやがった」



 バリケードに乗り込んで軽機関銃サブマシンガンを振り回した後、リナは弾切れの軽機関銃サブマシンガンを捨て、小型の自動拳銃を抜いて発砲していく。
「やっぱこっちの方がしっくりくるな~」
 スカートが捲れるのも厭わずに飛び跳ね、不意打ちをかわした。



「あいつの能力に気づいた後はひどかった。いや、後もか……まあとにかく、その後はよくある人体実験だ。どこまでのことができるのか。実戦でどのような応用ができるのか。一時期はずっと耳を塞いだまま泣いていたらしい」



「ああ~右足が痛い。……あ、別に音ならいっか」
 ガンガン、と壁に銃床を殴りつけ、音を常に響かせている。そうするだけで、反響定位エコーロケーションの原理で照明がなくても、周囲の現状を把握することができる。流石に弾丸に対してはその都度、音を出して把握する必要があるが、動く分にはそれだけで事足りた。



「もう気づいてるんだろう。あいつが嘘を見抜いたり、相手の健康状態を容易に把握できる理由……耳だよ。今は記憶がなくなっているから無意識にセーブされているが、その聴覚は障害者のように他の感覚を補うどころか、さらに強化されてしまうらしい」



 位置はばれてしまうが、先にどこから来るか知っている分、リナの方が上だった。先に銃口を向け、引き金を引けばいいのだから。振り向く必要はない。既に位置を把握しているのだから。
「ほんと昔っから銃が下手だなぁ……………………ぁ」



「異常聴覚の恩恵は反響定位エコーロケーションだけじゃない。音響を利用して相手の身体状態を把握できるのはもちろん、本来見えない視界を広げる役目も持つ。いやもし全開ならば、もしかしたら共感覚を働かせることもできるかもしれない」



 銃声が響く中、リナは空いた手で耳を塞いでいた。それでも足を止めないのは、自らの本質だからだろう。目的を果たす、そのために立ち止まらない。もし、母親と並んでみれば……その生き方は似ていると周囲に言われることになるだろう。
「ぁ、あ…………こんな、時、に……………………」
 いや、こんな時だからかもしれない……リナは自らの力を再び使いこなし始めていた。それこそ……記憶の扉をこじ開けられるほどに。



「数多くの実験体がいたがな。それでも見た目を変えない、しかし感覚器官の強化は施されている。おまけに軍事利用にまで発展できたのはたった一人。……それが常坂晴美ときさかはるみの一人娘、常坂璃奈ときさかりな…………お前の正体だ」



 目的の階に到達した頃には、すでにリナの能力は限界にまで引き出されていた。そのために、今迄クロ達が話していた内容を、遠くからでも理解できてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

フリー声劇台本〜1万文字以内短編〜

摩訶子
大衆娯楽
ボイコネのみで公開していた声劇台本をこちらにも随時上げていきます。 ご利用の際には必ず「シナリオのご利用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...