上 下
21 / 32
シリーズ002

003 水魔との戦い

しおりを挟む
「なんの、こういう時こそ私の出番よっ!」
 そして前に出たのは、かっぱらってきた家宝だという、魔導士用の杖を構えるシャルロットだった。
「シャル、なんとかできるん?」
「ふっふっふ……カナタ、『土剋水どこくすい』って言葉を知っているかしら?」
 質問に質問で返されるカナタ。その間ユキは身体が水でできている水魔ケルピー相手に棍棒としてしか使えなくなった火縄銃マッチロックを振り回して応戦しているが、どう見ても焼け石に水、いや幽霊に物理攻撃を当てようとするという、完全に無駄な抵抗を繰り返していた。
「土は水をせきとめる。つまり弱点は土属性の魔法なのよ……そして私は土属性の魔法が使える!」
 そしてシャルロットは、呪文を唱えた。
「今回はちょっと大技よ……【大地トプラク】・【刺突デリチィ】――【射撃チェキム】っ!」
 射撃系土属性刺突魔法【大地刺突・射撃】、周囲の大地から土の刺突槍を形成し、射出されていく。未だに水魔ケルピーと無駄な格闘を繰り返しているユキを避けるようにして放たれた土槍は、次々と魔物からその身体を削り取っていった。
 そんな中、微妙に冷めた目をしたカナタが、シャルロットに問い掛けた。
「……なあ、シャル。ポピーモンってゲーム知ってる?」
「前世で子供の頃、やってたわよ。それ……」
 おそらく、『それが?』と言葉を続けて、質問の意図を聞こうとしたのだろう。しかしシャルロットは、カナタが言わんとしていることにすぐ気付いてしまった。
 ポピーモンというゲームでは、『土剋水どこくすい』ではなく、『土は水に弱い』という逆の概念が存在している。
 それは何故か?
「質量が足りないと……水をせきとめられない?」
 他にも理由はあるだろうが、相応の量の土を用意しなければ、水圧で全て流されてしまうのは、必ず起こり得る物理現象の一つだ。だからもし、水の塊を相手にするのであれば、それ以上の量をもってし潰さなければならない。
 むしろ土の壁でもせり上がらせて押し倒した方が、まだましだったのかもしれなかった。
「そもそも水の身体やったら、核とか壊さんと普通に再生するんちゃうん?」
 実際に、カナタの言う通りとなった。
 ユキの打撃もシャルロットの土属性魔法による攻撃もものともせず、水魔ケルピーはヒヒヒィン、とどこかあざけるように笑っている。
 そして、さすがにもう体力の限界が来たのか、ユキは火縄銃マッチロック片手にカナタ達の方へと下がってきた。
「くそ、紙一重か……」
「おにぃ、一回落ち着き。自分の駄目な部分出とるで」
 とりあえず水で湿気しけて使えなくなった火縄銃マッチロックを降ろしたユキは、代わりに腰の小太刀を鞘から引き抜いた。
「……すみません。欲に目がくらみました。今すぐ撤退しましょう」
「ようやく冷静になってくれて嬉しいんやけど……もう逃げられへんて」
 自分のたずさえている火縄銃マッチロックの装填作業をしつつ、カナタはユキにそう返した。朔杖かるかを銃口から押し込んで弾を詰めながら、今度はシャルロットに声を掛ける。
「というかシャル、自分、相手を凍らせたりとかできへんの?」
「できたら最初からやってるわよ……あ、でも電撃はできるから、それで体内にある核を攻撃すれば……」
「……で?」
 片手に廻転銃リボルバーを握ったまま腕を組んでいたブッチは、今まで黙っていたのに、突然口を挟んできた。
「シャルロット嬢ちゃん、まだ魔法は使えるのか?」
「あ……」
 以前魔法を使っていた時に、その途中で突然消えたことがある。今回もまた同じように使えないのではないか。ブッチはそう言っているのだ。
「【雷光ヤィディリム】! ……すみません、駄目でした」
「やっぱりな……」
 ブッチは組んでいた腕を解き、廻転銃リボルバーの銃口を水魔ケルピーへと突きつけた。
「お前等もう気が済んだろ? 後は俺が……」
 最年長として若者の不始末ツケを清算しよう。そう考えて引き金に指を掛けようとした、その時だった。
 水魔ケルピーはもう一度いななくと、突如とつじょ馬型の頭を崩し始めた。そして今度は、人型の顔へと形を変えていく。
『人間よ……』
「しゃべったっ!?」
「いや、魔物にだって、それだけ知能のある奴もいるからな。単に珍しいだけで」
 シャルロットにそうツッコむブッチ。
 しかし水魔ケルピーはユキ達が会話しながら武器を構えるのを、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの肉体をさらしたまま、悠々と眺めていた。
『命しくば助けてやろう。その代わり……』
 どうせ誰かをえさとして置いていけ。そんなありきたりなことを言うのだろうとここにいる全員、完全に無視する心積もりでいた。
『……を一人、置いていけ』
『…………は?』
 だが、その言葉に意識を持っていかれてしまう。全員が、だ。
 元々人を喰う魔物だというのは理解している。女子供を喰うことはしないというのも、事前に調べた結果、そういう話もあると聞いただけに過ぎない。
 だからユキも、最初はその話を信じて自らおとりを買って出たのだが、まさか本当に男の方がいいとは思わなかったのだ。
「えっと……念の為に確認しておきたいんだが、何故男なんだ?」
 本来ならば『誰も渡さない』といきどおる場面なのだろうが、わざわざ性別を指定してきたのだ。なんらかの理由があるのかもしれない。
 全員が好奇心に包まれる中、ユキが代表として問い掛けた。
『何故男か、か……答えは簡単だ』
 そして、水魔ケルピーは答えた。

『男の方が…………性欲も食欲も満たされるからだ!』

『変態だーっ!』
 ブッチを除く、全員が叫んだ。異国訛り関西弁のカナタですら、普段の口調を忘れて同じことを叫んでいる。
「まさかそんな理由で男を欲しがるとは……」
「カマキリかよ、おい……」
「なあ、ところで気になっとってんけど……」
 今度はカナタが、水魔ケルピーに対して問い掛けた。
「……自分、性別は?」
「あ~、そういえば……」
 筋肉質かつ人型は男寄りの顔立ちだが、だからといってオスとは限らない。そもそも魔物に性別があるのかは分からないが、性欲があるということは性別もあるはずだ。でなければいちいち指定なんてしてこないだろう。
『性別か。たしかにあるが、我は人でいうところの……』
 そして、水魔ケルピーは再び答えた。

『…………オスだっ!』

『やっぱり変態だーっ!』
 このままでは色々とやばい。
 特に誰かを犠牲とする発想はないので、全員が武器を構えた。しかし、水魔ケルピーに対して物理攻撃が効かないのは、ユキの打撃やシャルロットの魔法を受けきった時点で分かりきっている。
 一体どうすればいいのか?
『さあ、どうする? 人間よ……』
 ――ドキュゥン!
『…………へ?』
 水魔ケルピー呆然ぼうぜんとしてしまう。
 今まで黙って様子をうかがっていたブッチが突然、廻転銃リボルバーを発砲したからだ。しかし狙いは水魔ケルピーではなく、沼地の対岸に目立たないように隠されている珊瑚さんごのすぐ近くだった。
「……お前さん、本当はあれが核だろ? 体内じゃなくて別の場所に隠していたってところか?」
『ギクッ!』
 ユキ達が水魔ケルピー相手に無駄な抵抗を続けている間、ブッチは相手の核がどこにあるのかをずっと探していた。そして沼地には不自然な、この世界では塩湖とかでしか生息できない珊瑚さんごが隠れるように置いてあるのを見つけたのだ。大事なものは身近に置くことが多いことを考えても、明らかに核だと分かる。
「言っておくが、俺をどうにかしようとしても、そこのカナタ嬢ちゃんもこっからあの核を撃ち抜けるからな」
 おまけにこちらは四人。
 ユキやシャルロットが盾になれば先程のような鎮火も防げるし、それ以前にブッチの早撃ちクィックドロウだけでも十分に倒せる。でなければさっさと逃げろと言うはずだ。
『ふっ…………』
 この状況を理解できたのか、水魔ケルピーは沼地から身を乗り出してきた。
 人型に変えた足で大地を踏みしめ、そしてゆっくりと膝を付き……

『……………………すみませんでした』

 ……それは見事な土下座をして見せたのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...