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シリーズ002
000 前世の夢~再会~
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それが夢だとは、景色を一瞥しただけですぐに気付いた。
時代錯誤な家が取り潰しになって数日。この歳で施設に行くという選択肢はない以上、生きていく為には仕事が、生活費を稼ぐ手段が必要となる。
しかし金があっても、生きる目的がなければ意味がない。
良くも悪くも、あの家は財産には事欠かなかった。けれども、本当に必要なものはそこにはない。八桁の数字が刻まれた通帳と、わずかな着替えだけで事足りた。
ボストンバッグの隙間と気持ちと同様の軽薄さを感じながら、最寄りの駅に歩いてから、券売機で切符を買った。目的地は特に決めていないはずなのに、気が付けば慣れないスマホ片手に行先案内を設定していた。
……そこには彼女がいる。
ただの親戚だが、他の者達と違い、何故かよく、自分の相手をしてくれた彼女が。
夢の中だからだろう。特に乗り換えることもなく、ローカル線一本で家の近くまで来てしまったのは。そもそも当時は居場所が分からず、先に分家の方を訪ねてから住所を伺ったはずだ。
それなのに、彼女の住んでいる安アパートの部屋の前に立ち、迷わずインターホンのボタンを押した。中にいるとは限らないのに、それでも居ると分かるのは、彼女と何かが繋がっているからだろうか。
扉が開く。中から出てきた彼女との感動の再会。だが、やはり夢だ。
実際に再会した時は、ただ単に驚かれた後、何故か手に持っていた木刀で顔の側面をぶん殴られたはずだ。
しかしこの夢で出てきた彼女は、今世と同じ肩程の金髪セミロングで、ただ抱き着いてきた。
言葉で表現できないような、扇情的すぎる姿で……
「いやこれ以上はただの淫夢だろっ!?」
色々とまずい展開になりそうだったので、強引に目を覚ましたユキ・ゼイモト。
ここは前世で暮らしていた安アパートではなく、転生した先で経営している定食屋『ストレンジャー』の二階にある自室だった。
いつも起きる時間よりは少し早い。しかし寝てしまうとまた、同じような夢を見そうなので、そのまま起きることにした。
伸ばした金髪を首元で縛り、服を着替えてから一度、自室の中を見渡した。
特に物を置く習慣はないので、ベッドと机と衣類用の収納家具位しかない。この世界の本も数冊あるが、机の上に本立てを置くだけで事足りる。ついでに言えば、料理関係の本以外に増やす予定はない。
「しかし、なんであんな夢を……」
悩むユキだが、その答えは分かっている。
今まで悩んでいたことが、完全に杞憂だったからだ。
『……言っておくがこの世界、別に双子でも結婚できるぞ?』
そうこの店に住む用心棒、ブッチ・バールテクに教えられたからだ。前世では親戚であり恋人同士でもあった今世の双子の妹、カナタ・ゼイモトを女として見てはいたが、血縁者に対して抱いていい感情ではない。
そう考えていたから心を殺し、ただの兄妹として接してこの歳まで生きてきた。けれども、それ自体が無意味だったと知った為に、あんな夢を見てしまったのかもしれない。
この田舎町こと『オルケ』に娼館どころか流れの娼婦すら来ない状況も、それを加速させる結果に繋がってしまったのだろう。要するに、色々と溜まっているのだ。
『田舎町や農耕地帯とかでも人手不足で結婚相手がいないから近親婚させまくるなんて、結構普通にやっているしな。じゃないと人口が増えないし。本当に聞いたことがないのか?』
「ブッチさん、絶対に嘘でしょう……?」
そう言い切りたいところだが、過疎化したこの町の現状を考えると、今更人口を増やそうとするなんて悪足掻きはしないだろうと思う。農耕地帯も人口と共に規模が徐々に縮小され、まともな店舗が軒並み南の大国『ヤズ』の首都へと移転し、若者は皆命知らずにも冒険者なんて阿漕な商売に手を出そうと旅立っていく。
……よくよく考えると、この町に残るメリットは『墓参りが楽』なこと以外、ほとんどないのではないだろうか?
そこまで考えたものの、ユキはこの店を手放すつもりはなかった。この店や町にも思い入れがあり、簡単に離れるつもりはない。何より、真っ先に衛兵の御用になりそうな残念な性格をした実妹兼前世の恋人がいるのだ。ここで簡単に見捨てられるなら、とっくに別れて生きているはずだ。
「あれ? もしかして俺の人生積んでる?」
この町に他に女がいればいいが、大抵がこの町を出て行った若者の母親や祖母ばかり。美魔女ならまだしも、全員ただの中年女か老婆だ。首都にある娼館の方が、たとえ同年代でもまだ美形が多い。おまけにこの町に住む若い女と言えば、相手に悪戯することしか考えていない愚妹を除けば、鍛冶屋の護衛やってる色々ごつい女に革命を目論んでいる悪役令嬢位だ。エロ方面で緩い思考をしている人間はいない。
……そもそも、そんな緩い貞操観念の世界であるのならば、最初からこんな悩み等抱いてはいなかった。
「……仕事しよう」
性欲の発散に関しては今後の課題として、今は仕事に専念しようと扉近くに立てかけておいた小太刀を片手に、ユキは一階へと降りて行った。
時代錯誤な家が取り潰しになって数日。この歳で施設に行くという選択肢はない以上、生きていく為には仕事が、生活費を稼ぐ手段が必要となる。
しかし金があっても、生きる目的がなければ意味がない。
良くも悪くも、あの家は財産には事欠かなかった。けれども、本当に必要なものはそこにはない。八桁の数字が刻まれた通帳と、わずかな着替えだけで事足りた。
ボストンバッグの隙間と気持ちと同様の軽薄さを感じながら、最寄りの駅に歩いてから、券売機で切符を買った。目的地は特に決めていないはずなのに、気が付けば慣れないスマホ片手に行先案内を設定していた。
……そこには彼女がいる。
ただの親戚だが、他の者達と違い、何故かよく、自分の相手をしてくれた彼女が。
夢の中だからだろう。特に乗り換えることもなく、ローカル線一本で家の近くまで来てしまったのは。そもそも当時は居場所が分からず、先に分家の方を訪ねてから住所を伺ったはずだ。
それなのに、彼女の住んでいる安アパートの部屋の前に立ち、迷わずインターホンのボタンを押した。中にいるとは限らないのに、それでも居ると分かるのは、彼女と何かが繋がっているからだろうか。
扉が開く。中から出てきた彼女との感動の再会。だが、やはり夢だ。
実際に再会した時は、ただ単に驚かれた後、何故か手に持っていた木刀で顔の側面をぶん殴られたはずだ。
しかしこの夢で出てきた彼女は、今世と同じ肩程の金髪セミロングで、ただ抱き着いてきた。
言葉で表現できないような、扇情的すぎる姿で……
「いやこれ以上はただの淫夢だろっ!?」
色々とまずい展開になりそうだったので、強引に目を覚ましたユキ・ゼイモト。
ここは前世で暮らしていた安アパートではなく、転生した先で経営している定食屋『ストレンジャー』の二階にある自室だった。
いつも起きる時間よりは少し早い。しかし寝てしまうとまた、同じような夢を見そうなので、そのまま起きることにした。
伸ばした金髪を首元で縛り、服を着替えてから一度、自室の中を見渡した。
特に物を置く習慣はないので、ベッドと机と衣類用の収納家具位しかない。この世界の本も数冊あるが、机の上に本立てを置くだけで事足りる。ついでに言えば、料理関係の本以外に増やす予定はない。
「しかし、なんであんな夢を……」
悩むユキだが、その答えは分かっている。
今まで悩んでいたことが、完全に杞憂だったからだ。
『……言っておくがこの世界、別に双子でも結婚できるぞ?』
そうこの店に住む用心棒、ブッチ・バールテクに教えられたからだ。前世では親戚であり恋人同士でもあった今世の双子の妹、カナタ・ゼイモトを女として見てはいたが、血縁者に対して抱いていい感情ではない。
そう考えていたから心を殺し、ただの兄妹として接してこの歳まで生きてきた。けれども、それ自体が無意味だったと知った為に、あんな夢を見てしまったのかもしれない。
この田舎町こと『オルケ』に娼館どころか流れの娼婦すら来ない状況も、それを加速させる結果に繋がってしまったのだろう。要するに、色々と溜まっているのだ。
『田舎町や農耕地帯とかでも人手不足で結婚相手がいないから近親婚させまくるなんて、結構普通にやっているしな。じゃないと人口が増えないし。本当に聞いたことがないのか?』
「ブッチさん、絶対に嘘でしょう……?」
そう言い切りたいところだが、過疎化したこの町の現状を考えると、今更人口を増やそうとするなんて悪足掻きはしないだろうと思う。農耕地帯も人口と共に規模が徐々に縮小され、まともな店舗が軒並み南の大国『ヤズ』の首都へと移転し、若者は皆命知らずにも冒険者なんて阿漕な商売に手を出そうと旅立っていく。
……よくよく考えると、この町に残るメリットは『墓参りが楽』なこと以外、ほとんどないのではないだろうか?
そこまで考えたものの、ユキはこの店を手放すつもりはなかった。この店や町にも思い入れがあり、簡単に離れるつもりはない。何より、真っ先に衛兵の御用になりそうな残念な性格をした実妹兼前世の恋人がいるのだ。ここで簡単に見捨てられるなら、とっくに別れて生きているはずだ。
「あれ? もしかして俺の人生積んでる?」
この町に他に女がいればいいが、大抵がこの町を出て行った若者の母親や祖母ばかり。美魔女ならまだしも、全員ただの中年女か老婆だ。首都にある娼館の方が、たとえ同年代でもまだ美形が多い。おまけにこの町に住む若い女と言えば、相手に悪戯することしか考えていない愚妹を除けば、鍛冶屋の護衛やってる色々ごつい女に革命を目論んでいる悪役令嬢位だ。エロ方面で緩い思考をしている人間はいない。
……そもそも、そんな緩い貞操観念の世界であるのならば、最初からこんな悩み等抱いてはいなかった。
「……仕事しよう」
性欲の発散に関しては今後の課題として、今は仕事に専念しようと扉近くに立てかけておいた小太刀を片手に、ユキは一階へと降りて行った。
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