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シリーズ001
006 男二人の会話
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「ブッチさんは知っているんですか? 俺達の両親が死んだ理由を……」
「……仕事関係だとは思うが、詳しいことは俺にも分からん。ただ……フィル坊が無事な所を見ると、武器関係でないのはたしかだ」
それ以上はブッチに聞いても仕方ないと、ユキは諦めるように息を吐いた。
「戦争に参加していたから、俺にも詳しいことは分からない。望むなら調べさせるが……これ以上はやめておけ。下手したら国を敵に回すぞ」
「分かりました。……俺からは、今のところ、以上です」
今度は俺の番だ、とばかりにブッチは、景気付けに酒を呷った。
「……お前等、一体何者だ?」
「もう予想はついているんですよね?」
それを聞くと、ブッチはホルスターから廻転銃を素早く抜く。指で軽く一回転させてから、テーブルの上に置いた。
「出所は廻転銃と同じ、か」
疑問符はない。そうだとはっきり分かっているからだ。
だからユキも観念してか、静かに首肯する。
「国も、時代も違いますが……同じ世界だというのは間違いありません」
「そうか……」
ボトルの酒をグラスに注ぎながら、ブッチは話を続けた。
「……ということは、オーウェンが言っていたのは、廻転銃の発展型か?」
「いえ……それは違います」
その言葉に、ブッチの瞼がピクと揺れる。
「どういう意味だ?」
「『文化を継承する』、という概念は分かりますか?」
ブッチはどっちつかずな、困ったような仕草で酒の入ったグラスを傾けた。
「この世界に転移してきた俺の祖先が、廻転銃の使い方を代々、子孫に伝えてきた。しかし、覚えるかどうかは個人の自由だった。なんだかんだ、俺の代まで続いたがな」
「……俺達は、それを強要されていたんです」
ブッチは、ユキの話を遮らなかった。
「前世では完全に時代遅れになった遺品を、伝統だのなんだのと強要されて、覚えさせられました。カナタの奴は逆らいまくって追い出された口ですが、俺は最後まで、家が滅びるまで覚えさせられました」
もっとも、死んでこの世界に転生してから、その力を使うことになるとは思わなかったが。
ユキの瞳は、そう語っているように見えた。
「苦労しましたよ。俺達のいた場所では、人殺しは誰であろうと犯罪でしたが、今世は相手を殺さないと生き残れなかったんですから」
「最初はそんなもんだ。殺したがる連中の方がおかしいんだよ」
銃が再びホルスターに戻される。その洗練されたブッチの動きに、ユキの目が追いつくことは叶わなかった。
「……で、お前等は今後、どう生きたいんだ?」
「のんびり定食屋を経営できれば、それでいいですよ」
カナタと一緒に、そう小声で付け足して。
何故小声なのかは分からないが、ブッチは聞かなかったことにしようと会話を終えた。
「随分飲んだな……」
返事はない。
普段は飲まないのか、珍しく酔い潰れたユキを担いだまま、泊まっていた宿へと戻るブッチ。もうカナタは寝ているだろうと、ノックもせず部屋に入ったが、先客は未だに起きていた。
「お兄、酔い潰れとるん?」
「ああ、飲ませすぎてな……」
差された先のベッドにユキを寝かせると、ブッチは足早に部屋を後にしようとした。
「おっちゃん……うち等のこと、聞いたん?」
「……まあ、な」
前々から、ブッチはこの娘のことをどこか、不気味に思っていた。その不気味さの正体がユキの話した内容のものなのか、それともまだ聞かされていない部分があるのかは分からないが。
「どこまで?」
「お前さん達が転生者であることと、銃に近い武器を持っていること、位だな」
それ以上は、ユキも語らなかった。ブッチも聞こうとしなかったが、全部聞かなければならない理由もない。
「面倒事隠してなければ、それでいいさ。それとも、まだあるのか?」
「……いや、私事だけや」
「そうか……お休み」
カナタの返事を待つことなく、ブッチは部屋を後にした。
「…………」
カナタはユキの寝るベッドの縁に腰掛けると、その手を伸ばした。
ただ無言で、伸ばした腕でユキの頭を撫でるカナタ。それは兄妹のスキンシップというよりも、まるで……
翌朝も、その翌日も、特に変化はなかった。
商会や市場をはしごして買い出しに向かうユキとカナタ。ブッチも個人的な買い出しのみで、必要に応じて別行動をする時はあったが、いつも二人の傍にいた。
しかし滞在中、ユキ達はもう両親のことを話題に挙げることはなかった。ただ漫然と首都での日々を過ごし、そして帰宅の途へと着くだけとなる。
「じゃあ行くか、忘れ物はないな?」
「こっちは大丈夫、カナタは?」
「問題あらへんわ」
確認を終え、出国手続きを済ませてから、近郊に隠してある三輪電気自動車の元へと歩き出す。
「しかしもう少し、買い物でもしてくれば良かったんじゃないのか?」
「あまり欲しいものも、それを買う金もないんで」
「おまけに慣れてもうたら、もう『オルケ』に住む気がなくなってまうしな」
馬車道から逸れて歩くだけで、人の気配は徐々になくなっていく。
人のいない森の中を突き進んでいく三人を止める者はいない。森に入る人間は主に二種類。薬草を採取する者と、あえて人目を避けようとする者だ。
「毎回思うが……俺達、盗賊と間違われないよな?」
「こんな可愛え盗賊、おるんかいな」
「安心しろ、お前等だけなら野草漁りの兄妹にしか見えねえよ」
しかしブッチは油断なく、周囲を探るように視線を張り巡らせていた。
「だから盗賊とかが来るなら、こういうタイミングなんだが……」
「大丈夫ですよ。この辺りで盗賊にあったことは、今までなかったんで」
そうブッチに説明するユキ。
「それにあそこには……」
――ドォォン……!
「……カナタの仕掛けた罠があるんですよね」
「タイムリーだな」
ユキは小太刀の柄に手を当て、銃床を握ったブッチと共に駆け出した。
三輪電気自動車を隠している小さな洞窟の周囲には、複数の見慣れぬ男達が横たわっている。何人かは被害を被らなかったのか、近づいてくるユキ達に気づいて、素早く得物を構えている。
「思ったより数がいる。しかも……手練れが多いな」
幸いなことに、相手は小回りの利く短剣や短弓が多いが、銃の類は持っていないらしい。
ブッチが発砲する度に、盗賊が一人、また一人と倒れていくが、それでも相手の人数の多さは否めない。
「まずいな。せめてあれがあれば……」
小太刀は既に、鞘から抜いている。
盗賊共は全員ブッチへの対応に追われているが、ユキにも何人かが襲ってくる。カナタの姿は見えないが、いつも通り不意討ちの為に隠れているのだろう。
その辺りは信用しているので、ユキはカナタに構わず盗賊と鍔迫り合いを繰り広げる羽目に。
「ユキ坊! 少し待ってろ!」
「できれば急いで下さいっ!」
前世でも剣道はやらされていたが、あくまで基本だけなので、そこまで得意な方ではなかった。だからまだ扱いやすい小太刀を振り回してはいるものの、腕力では本職の強盗には全く敵わない。
「くっそ……このっ!」
だから小手先の技に頼るしかないが、ただ振り回すしかない相手には非常に有効だった。問題は、ユキの度胸がこの状況に、どこまで耐えられるかだ。
「……よし、終わりっ!」
最後にユキと剣戟を交わしていた盗賊を背中から撃ち殺し、ブッチは弾切れの廻転銃を再装填していた。
「今度から小太刀以外の武器にしろ。使い慣れない武器なんて何の役にも立たんぞ」
「と言われても、得意な武器なんて車に積んでいるあれ位なんですよ」
「お前等そこを動くなっ!」
まだ一人、盗賊が残っていた。しかもボウガンを携えて。
「ユキ坊、俺の後ろに回れ」
「ブッチさん、あれ連射できるタイプですよ」
相手を刺激しないよう、ユキは小太刀をゆっくりと鞘に納めた。
「ブッチさん、銃は?」
「悪い、まだ一発も装填していない」
「お前等俺を無視するなっ!」
矢が雨あられと降り注ぐ。そう予想するものの……
――ダァン!
「がっ!?」
……カナタが車に積んでいた包みを解き、中の火縄銃を装填して撃ち抜く方が早かった。
「……仕事関係だとは思うが、詳しいことは俺にも分からん。ただ……フィル坊が無事な所を見ると、武器関係でないのはたしかだ」
それ以上はブッチに聞いても仕方ないと、ユキは諦めるように息を吐いた。
「戦争に参加していたから、俺にも詳しいことは分からない。望むなら調べさせるが……これ以上はやめておけ。下手したら国を敵に回すぞ」
「分かりました。……俺からは、今のところ、以上です」
今度は俺の番だ、とばかりにブッチは、景気付けに酒を呷った。
「……お前等、一体何者だ?」
「もう予想はついているんですよね?」
それを聞くと、ブッチはホルスターから廻転銃を素早く抜く。指で軽く一回転させてから、テーブルの上に置いた。
「出所は廻転銃と同じ、か」
疑問符はない。そうだとはっきり分かっているからだ。
だからユキも観念してか、静かに首肯する。
「国も、時代も違いますが……同じ世界だというのは間違いありません」
「そうか……」
ボトルの酒をグラスに注ぎながら、ブッチは話を続けた。
「……ということは、オーウェンが言っていたのは、廻転銃の発展型か?」
「いえ……それは違います」
その言葉に、ブッチの瞼がピクと揺れる。
「どういう意味だ?」
「『文化を継承する』、という概念は分かりますか?」
ブッチはどっちつかずな、困ったような仕草で酒の入ったグラスを傾けた。
「この世界に転移してきた俺の祖先が、廻転銃の使い方を代々、子孫に伝えてきた。しかし、覚えるかどうかは個人の自由だった。なんだかんだ、俺の代まで続いたがな」
「……俺達は、それを強要されていたんです」
ブッチは、ユキの話を遮らなかった。
「前世では完全に時代遅れになった遺品を、伝統だのなんだのと強要されて、覚えさせられました。カナタの奴は逆らいまくって追い出された口ですが、俺は最後まで、家が滅びるまで覚えさせられました」
もっとも、死んでこの世界に転生してから、その力を使うことになるとは思わなかったが。
ユキの瞳は、そう語っているように見えた。
「苦労しましたよ。俺達のいた場所では、人殺しは誰であろうと犯罪でしたが、今世は相手を殺さないと生き残れなかったんですから」
「最初はそんなもんだ。殺したがる連中の方がおかしいんだよ」
銃が再びホルスターに戻される。その洗練されたブッチの動きに、ユキの目が追いつくことは叶わなかった。
「……で、お前等は今後、どう生きたいんだ?」
「のんびり定食屋を経営できれば、それでいいですよ」
カナタと一緒に、そう小声で付け足して。
何故小声なのかは分からないが、ブッチは聞かなかったことにしようと会話を終えた。
「随分飲んだな……」
返事はない。
普段は飲まないのか、珍しく酔い潰れたユキを担いだまま、泊まっていた宿へと戻るブッチ。もうカナタは寝ているだろうと、ノックもせず部屋に入ったが、先客は未だに起きていた。
「お兄、酔い潰れとるん?」
「ああ、飲ませすぎてな……」
差された先のベッドにユキを寝かせると、ブッチは足早に部屋を後にしようとした。
「おっちゃん……うち等のこと、聞いたん?」
「……まあ、な」
前々から、ブッチはこの娘のことをどこか、不気味に思っていた。その不気味さの正体がユキの話した内容のものなのか、それともまだ聞かされていない部分があるのかは分からないが。
「どこまで?」
「お前さん達が転生者であることと、銃に近い武器を持っていること、位だな」
それ以上は、ユキも語らなかった。ブッチも聞こうとしなかったが、全部聞かなければならない理由もない。
「面倒事隠してなければ、それでいいさ。それとも、まだあるのか?」
「……いや、私事だけや」
「そうか……お休み」
カナタの返事を待つことなく、ブッチは部屋を後にした。
「…………」
カナタはユキの寝るベッドの縁に腰掛けると、その手を伸ばした。
ただ無言で、伸ばした腕でユキの頭を撫でるカナタ。それは兄妹のスキンシップというよりも、まるで……
翌朝も、その翌日も、特に変化はなかった。
商会や市場をはしごして買い出しに向かうユキとカナタ。ブッチも個人的な買い出しのみで、必要に応じて別行動をする時はあったが、いつも二人の傍にいた。
しかし滞在中、ユキ達はもう両親のことを話題に挙げることはなかった。ただ漫然と首都での日々を過ごし、そして帰宅の途へと着くだけとなる。
「じゃあ行くか、忘れ物はないな?」
「こっちは大丈夫、カナタは?」
「問題あらへんわ」
確認を終え、出国手続きを済ませてから、近郊に隠してある三輪電気自動車の元へと歩き出す。
「しかしもう少し、買い物でもしてくれば良かったんじゃないのか?」
「あまり欲しいものも、それを買う金もないんで」
「おまけに慣れてもうたら、もう『オルケ』に住む気がなくなってまうしな」
馬車道から逸れて歩くだけで、人の気配は徐々になくなっていく。
人のいない森の中を突き進んでいく三人を止める者はいない。森に入る人間は主に二種類。薬草を採取する者と、あえて人目を避けようとする者だ。
「毎回思うが……俺達、盗賊と間違われないよな?」
「こんな可愛え盗賊、おるんかいな」
「安心しろ、お前等だけなら野草漁りの兄妹にしか見えねえよ」
しかしブッチは油断なく、周囲を探るように視線を張り巡らせていた。
「だから盗賊とかが来るなら、こういうタイミングなんだが……」
「大丈夫ですよ。この辺りで盗賊にあったことは、今までなかったんで」
そうブッチに説明するユキ。
「それにあそこには……」
――ドォォン……!
「……カナタの仕掛けた罠があるんですよね」
「タイムリーだな」
ユキは小太刀の柄に手を当て、銃床を握ったブッチと共に駆け出した。
三輪電気自動車を隠している小さな洞窟の周囲には、複数の見慣れぬ男達が横たわっている。何人かは被害を被らなかったのか、近づいてくるユキ達に気づいて、素早く得物を構えている。
「思ったより数がいる。しかも……手練れが多いな」
幸いなことに、相手は小回りの利く短剣や短弓が多いが、銃の類は持っていないらしい。
ブッチが発砲する度に、盗賊が一人、また一人と倒れていくが、それでも相手の人数の多さは否めない。
「まずいな。せめてあれがあれば……」
小太刀は既に、鞘から抜いている。
盗賊共は全員ブッチへの対応に追われているが、ユキにも何人かが襲ってくる。カナタの姿は見えないが、いつも通り不意討ちの為に隠れているのだろう。
その辺りは信用しているので、ユキはカナタに構わず盗賊と鍔迫り合いを繰り広げる羽目に。
「ユキ坊! 少し待ってろ!」
「できれば急いで下さいっ!」
前世でも剣道はやらされていたが、あくまで基本だけなので、そこまで得意な方ではなかった。だからまだ扱いやすい小太刀を振り回してはいるものの、腕力では本職の強盗には全く敵わない。
「くっそ……このっ!」
だから小手先の技に頼るしかないが、ただ振り回すしかない相手には非常に有効だった。問題は、ユキの度胸がこの状況に、どこまで耐えられるかだ。
「……よし、終わりっ!」
最後にユキと剣戟を交わしていた盗賊を背中から撃ち殺し、ブッチは弾切れの廻転銃を再装填していた。
「今度から小太刀以外の武器にしろ。使い慣れない武器なんて何の役にも立たんぞ」
「と言われても、得意な武器なんて車に積んでいるあれ位なんですよ」
「お前等そこを動くなっ!」
まだ一人、盗賊が残っていた。しかもボウガンを携えて。
「ユキ坊、俺の後ろに回れ」
「ブッチさん、あれ連射できるタイプですよ」
相手を刺激しないよう、ユキは小太刀をゆっくりと鞘に納めた。
「ブッチさん、銃は?」
「悪い、まだ一発も装填していない」
「お前等俺を無視するなっ!」
矢が雨あられと降り注ぐ。そう予想するものの……
――ダァン!
「がっ!?」
……カナタが車に積んでいた包みを解き、中の火縄銃を装填して撃ち抜く方が早かった。
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