【宣伝用】【短編】体操着の誘惑 ~黄昏時の悪夢~

体操着の誘惑 ~黄昏時の悪夢~

　その男は、個人投資家だった。主にFXのデイトレードで生計を立てている。
　収入こそサラリーマンと大差はないが、余剰資金は株式や投資信託に回しているので、即座に破産することはない。年金も国民・個人共に払っているので、下手な人間よりは裕福な老後を送れるはずだ。最近聞くようになった個人型確定拠出年金iDeCoに手を出すのも、時間の問題だろう。
　独身生活ではあるものの、男には特に結婚願望はないので、恋人は作っていない。出会いがないわけではないし、女友達もいるにはいる。だが異性として付き合うとなると、色々と面倒なことも多い。
　だから男は普段、風俗や本番有の裏キャバで性欲を発散していた。
「ふぅ……」
　今日もまた、目標金額を稼いだ男は、日暮れ前に家を出ることにした。
　FXは二十四時間相場が変動していると言われているが、市場が開かなければ取引ができない。けれども、下手に焦り過ぎると収入を得られなくなるのがデイトレードだ。
　だから男はいつも、一日の目標金額を決め、突破すればその日の仕事トレードを終わらせていた。だめなら今でも、利益を求めてチャートに目を凝らしていたかもしれない。
「思ったより、早く終わったな……」
　日本では朝の二時間程を除けば、そのほとんどが取引の活発な時間帯だ。しかし今日は、始めてから半日にも満たない段階で目標金額を達成している。偶々相場が大きく動き、丁度新規に取引を入れる前だったので、予算を全てつぎ込んだ結果、あっさりと稼げたのだ。逆指値保険は掛けていたものの、使うまでもなく売り抜けられたので、男の得る利益はかなりのものになった。
　今は相場が落ち着いている。しばらくは稼げないとも考え、今日はそのまま終了にしたのだ。
「さて……どうするかな？」
　微妙な時間帯だが、少し早い夕食を済ませる頃には、近くの繁華街も活発になるだろう。男は上着を羽織ると、取引用のスマートフォンを置いて外に出た。
　男はいつも、普段は質素な生活を送っている。下手に贅沢を覚えると、いざという時に生活費が足りなくなってしまうからだ。スーパーで安く買い溜めしたものを自炊に使い、仕事トレード中に摘まむ物の大半は肥満対策のキシリトールガム。コーヒーも徳用品の銘柄で、コーヒーメーカーに一日中セットした出涸らしを飲んでいる。
　故に、男が贅沢をする時はそのほとんどが趣味と娯楽だ。
「夕飯は……少し、散歩してからにするか」
　過去の職歴からか、男が今住んでいるのはとある工業都市だ。一応海景は見られるものの、工場が乱立しているのであまり綺麗とは言い難い。ライトアップすれば見栄えはいいが、昼だとそれも意味を成さなかった。しかし半端な地方都市である分、人口密度を下げないようにと色々お目溢し・・・・もあるのが、この街だった。
「さて今日は、と……ん？」
　歩道橋を登り、ふと立ち止まって下の方を眺めてみると、丁度高校生達が下校している様子が男の目に映った。そのまま足を止めて、欄干に体重を預けながら、自身の学生時代に思いを馳せていく。
（昔は良かった……）
　なんて男はぼやいているが、別に大したことはしていない。
　入学前は部活に精を出そうとしていたのに、結局は文化部で高校生活の幕を閉ざしていた。
　彼女もなく、地味に卒業した位だ。女友達すらいなかったら、完全に灰色の青春を送っていたことだろう。
「……お」
　普通の人間なら、女子高生のパンチラが見られればラッキーだと思うかもしれない。しかし、現実にそんなことはほとんどなかった。余程擦れた人間でない限り、大体は対策として、下に体操服を穿いていることが多いからだ。
　昔だとブルマとかになるかもしれないが、今だとハーフパンツハーパンが主流だろう。

　しかし男にとっては、現役時代を共にした体操着ハーパンこそが興奮の対象だった。
　特に生地の薄いスカートから、陽光で透けて見えるのが良かったと記憶している。

　男女別だったとはいえ、体操着ハーパンで体育をしているのを眺めている時とは違う。下着のように見えて下着じゃない、スカートの中が覗けるような光景に、当時は妙な興奮を覚えていた。
　そして今も、その光景を目にすることができた。
（懐かしいな……）
　特に下校中の一人に、男は目を奪われていた。
　黒髪のショートカットに眼鏡を掛けた少女で、制服は目立った改造を施されていない。良く言えば清楚、悪く言えば地味な女の子だった。
（本当に……昔は良かった）
　その頃は未だ、童貞だった。
　そもそも人付き合いが苦手な方だったので、彼女がいないどころか、友人すら少なかったのだ。そんな高校生に、童貞を捨てる機会なんてあるわけがない。
「…………」
　歩道橋を登り、男の後ろを通り過ぎていく少女の背中を、視線で追いかけたのがまずかった。
　偶々だったが、少女が階段を下りていく際に……広がるスカートの布地越しに、体操着ハーパンが透けて見えた。男の目にそれが入った途端、衝動的に欄干から離れて、そのまま少女の後を追いかけ始めていた。
　下校時刻とはいえ、他の生徒の影が見えなくなっていたのも、影響したのかもしれない。男はただ静かに、少女をつけていった。
　段々と人気が無くなり、日が暮れていく中、少女は通りかかった公園に入って行く。その後をこっそりついていくと、どうも花を摘みに行ったらしい。奥まった場所にある公衆トイレに、その姿を隠してしまった。
「突発的な犯行って、こういう時にやらかすんだろうな……」
　常識は自分一人で身に付くものじゃない。社会に出て、人間関係の中ですり合わせを行って初めて、正邪の判断が付くようになる。
　しかし……その周囲の人間がまともとは限らない。そのせいかは不明だが、男はそのすり合わせが上手くいかなかったのだろう。
　だから男は周囲を見渡し、人気がないことを確認してから、公衆トイレの女性側に入って行く。そこにも気配はなく、いるのは少女一人だけらしい。
「ふぅ……」
　裏キャバとかで遊ぼうと思うと、必然的にキャッチバーぼったくりに引っかかる機会も多い。だから護身具の携帯も、必要事項だった。
　家の鍵に取り付けたキーホルダーの中には、ただの鎖も入っている。人に見られればキーチェーンとでも言って誤魔化すところだが、本来は二メートルもある防犯鎖チェーンだ。頑丈さは百均とかでよく見かけるものとは比較にならない。
「……ぅし」
　キーホルダーの中から防犯鎖チェーンを外し、解ほぐしていつでも使えるようにしてから、男はじっと息を潜めた。
　――ジャー……
　公衆トイレに音消しの類は用意されていないのか、それとも他には誰もいないからと面倒に思っているのか、水洗音がそのまま聞こえてくる。男は物陰に隠れたまま、近くに置いてあった『清掃中につき、立ち入り禁止』の札を入り口に立てた。
　下手に叫ばれればすぐにばれるかもしれないが、ないよりはましだ。男にとっては幸運にも、そして少女にとっては不運にも、公衆トイレの周囲には他に誰もいないとはいえ、用意し過ぎるに越したことはない。
　――ガチャッ
（出てきた、出てきた……）
　視界に入らないよう、物陰に隠れたままだが、少女が個室から出てくる音が聞こえてきた。今は手を洗おうと、手洗場に向けて歩いているらしい。
（蛇口を開けた瞬間がチャンスだ）
　持ち手が捻られ、蛇口から水が流れていく。少女が手洗いに意識を向けた瞬間、男は中へと押し入った。
「えぅっ！？」
　男はすぐに鎖で少女の両手を後ろ側に拘束し、口を塞いでから力技で、手洗場から個室へと連れ込んだ。その際、彼女が掛けていた眼鏡を落としてしまったが、拾わずにそのまま放置していく。
「っ～！？」
　手洗場の鏡越しに顔を見られたかもしれないが、用心に越したことはない。
　男は少女を便器の上に俯せに押し倒してから、肘で固定した状態で手を伸ばす。伸ばした先にはトイレットペーパーがあった。
「っ～っ！？　ん～！？」
　こういう時、ハンカチや下着ショーツを押し込むのだろうが、男が少女の口に入れたのは、そのトイレットペーパーだった。
　クシャクシャに丸め、窒息しない程度に口を塞ぐ。
「んっ～！？」
　スマホの類が入っているかもしれない鞄と上着ブレザーを個室の外へ投げ捨てて、準備はできた。スカートを捲ると、穿いていたのは紺色でラインの入った体操着ハーパンだった。最初は学校指定の物かと男は考えていたが、市販品にも見えるそれの上から、手をなぞらせる。
「んん……」
　こういう時、AVとかなら艶やかな嬌声が聞こえてくるのだろうが、口を塞いだトイレットペーパー越しに発せられたのは、不快や嫌悪という感情だけだった。
　しかし男は少女の気持ちに構うことなく、空いた手で股座部分をまさぐっていく。もう一方の手は拘束の為に、相手の背中を押したままだ。
　まだ成長途中なのかどうかは知らないが、少女の胸はそこまで大きくはない。巨乳を揉みたければそれこそ、セクキャバに行けば十分だ。だから男は、今犯そうとしている相手に、そこまでは求めていない。
　そもそも、そんなことを求められる立場ではなかった。
「んん……っ！？」
　上半身はそのままに、男は少女の体操着ハーパンを膝まで降ろした。
　少女の抵抗は続くが、男の腕力には敵わない。無様に晒された、シンプルな白の下着ショーツでも卑猥な指先を防ぐ手立てにはならないだろう。
「んっ、んぅ……っ」
　その証拠に、少女の口からは未だに拒絶の気持ちが漏れ出ている。しかし男の方には、それを気にする考えは持ち合わせていなかった。そんな気持ちものがあるのなら、最初から強制猥褻こんなことはしていないだろう。
「んん……」
　徐々に、少女の口から涙する声が聞こえてくるようになった。最早抵抗しようなんて気持ちは薄れ、脳内が諦観で埋め尽くされたらしい。男はそれに応えるかのように、とうとう最後の一線を越えた。
「ん……」
　体操着ハーパン近くまで降ろされた下着ショーツの内側は、一目で分かる程の湿り気を帯びている。『身体は正直』と言える程、今の男には性経験が不足していない。強引な愛撫で、無理矢理性交セックスできる状態に持ち込まれたことに、今の少女は気付いているだろうか。
　しかし男は構うことなく、ズボンを降ろして陰茎ペニスを取り出した。既に半勃ちの状態だったので、軽く手で弄るだけで完全に勃起する。

「…………んんぅっ！？」

　そして躊躇なく、男は少女を強姦レイプした。
「んっ、んっ、」
　男は言葉を発さず、ただ闇雲に腰を振る。風俗とかの商売女相手なら、問題トラブル回避の為に多少は加減をするが、今回は違う。
「んんっ！？　んぁっ……！？」
　どうせ相手の同意を求めないまま、手を出したのだ。いまさら男に遠慮する理由はない。
　何度も、何度も腰を振った男は、最後に一際強く、自身の身体を叩きつけた。
「んぅぁ……っ！？」
　射精だし終えた陰茎ペニスを彼女から引き抜き、男は一歩下がった。強姦レイプされて精神的に参ってしまったのだろう。少女はもう、抵抗の意思すら見せようとしてこない。
　もう大丈夫だと思ったのか、男は少女の拘束を解いて、一歩下がった。
（きついと思ったが……やっぱり処女ヴァージンか）
　女性の性経験は早い、とはよく聞くが……相手がいなければ、その話に意味はない。
　鮮血と白濁液に塗れた陰茎ペニスをそのまま仕舞い、男はズボンを穿いた。
「今日のこと……話したらお前も終わりだぞ」
　普段使い用のスマホでわざとシャッター音を響かせながら、男はそう言い残してから、個室を出た。
　便器に体重を預けている少女の鞄から学生証を探し出し、名前を控えておくことも忘れない。
　後ろ楯のない個人投資家が罪を犯すとは、そういうことだった。
　途中、少女の落とした眼鏡を踏んづけたことにも気付かず、男は逃げるようにして去っていった。



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「……こんなのでいいの？」
「控え目に言って……最っ高っ！」
　ある喫茶店でのことだった。
　私は古い知り合いと共に席に着いて、コーヒーカップ片手に彼を眺めていた。
　彼は私の書いた(公開前の下書きとして保存した)小説を貸したスマホで読んでいるところで、その内容に非常に興奮しているらしい。
「もっと扇情的な作品なんて、それこそネット上だけでも、星の数程あると思うけど……」
「いやいや、これもかなり興奮できるから」
「はいはい。分かったから……こんなところで盛らないでよね」
　目の前にいる知り合いは、個人投資家と名乗ってこそいるものの、その実仕事を辞めたばかりの無職だ。苦手分野である人付き合いからの鬱病が原因で、紆余曲折ありつつも、最終的に退職してしまったのだ。一応傷病手当収入はあるらしいけど、あと一年位しか支給されないと前に聞いたことがある。その後、賞与を元手にしていた資産運用を本格的に勉強しているらしいけど、同じ業界(？)の人間が見たらまず間違いなく『新人ぺーぺー』と言うだろう。
　しかし……彼の経験もまた、本物だった。
　小説を書く身として、自らが持たない経験程、有益な創作材料はない。だから彼からの話を聞きつつも、人付き合いの練習を手伝ってあげていたんだけ、ど……

　……まさか、ここまでの変態だとは思わなかった。

　付き合いはかなり長く続いてしまっているものの、やはり人間というものは、一面だけで理解するのは難しいらしい。
「そういえば……あなたは書かないの？　もう」
「……今は休憩中」
　ちなみに、彼も小説を書く。主に二次創作がメインだが、昔はオリジナルも書いていた。その縁もあって、今でも付き合いが続いている。しかし最近は鬱病の為か、書いている様子は一切見られない。
　とはいえ、小説もまた『書きたい』と思わなければ、駄作しか生まれない代物だ。無理に急かす必要もない。むしろ急かした方が、かえって失敗するものだ。
　程度にもよるけど……無論小説だけでなく、何事も。
「じゃあ返して。帰ってまた修正するから」
「ああ……」
　彼は私にスマホを返すと、すぐに席を立った。
「あれ？　もう帰るの？」
「ちょっと……買い物があってな」
　小銭を数枚置いた後店を出て、彼が向かっていく先を何となく見てみる。
　向かっているのは明らかに、スーパー等の食品店が並ぶ場所じゃない。
「……休憩中・・・、ね」
　その方向には、この近くでは比較的大きな本屋がある。
　もしかしたら、私が書いたものを読んで、少しでも執筆意欲が湧いたのかもしれない。
（その為に資料を探しに行ったのなら、いいんだけどな……）
　書籍化できていない以上、私は所詮素人だ。それでも、誰かが心を動かしているのを見るのは、とても嬉しかった。
「まあ、でも……」
　Vシネみたいな濡れ場のある映画は割と好きなので、性描写を書くこと自体に抵抗はない。ただ、自分の性癖フェチを押し付けられるのは結構、くるものがある。
「……ちょっと仕返ししとくか」
　さて、帰って加筆・・修正するか、と私は伝票片手に立ち上がった。



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　男はあの後、結局どこにも寄らずに、一度家に帰った。
　未だに精液や処女血がこびりついている陰茎ペニスを洗いたかったからだ。
　その後少女がどうなったのかは知らないが、そんなこと男には関係ない。お湯を張った湯船に浸かり、強姦レイプの疲れをゆっくりと癒していく。
　……そんな時だった。インターホンが鳴ったのは。
「何だ……？」
　大分回復してきたので、男はゆっくりと風呂を出た。
「すみません、少し待って下さい！」
　玄関に向けて声を張り上げてから、男は手早く着替えて、ドアノブに手を掛けた。
「はい。今開けま、す……」

　玄関の外にいたのは、警察官だった。

「あの、何、か……？」
「あなたを性的暴行と強姦の現行犯で逮捕します」
　警察官の後ろには、先程強姦レイプした少女が、汚物を見るような視線をぶつけてきている。
　少女・・の諦観から生まれるものじゃない。一人の女性・・としての憎悪をもって。
　その瞬間、男はある小説の一説を思い出していた。

『女を本気で怒らせるな。ろくなことになりゃしねえぞ』

　という、言葉を……



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あとがき『親愛なる昔馴染みへ……』
　あなたの話は拙作、『多重報復 -MULTIPLE RETALIATION-』に十二分に活かさせていただきました。この小説を持って、あなたへの御礼とさせていただきます。
　そして、ちょっとした意趣返しに加筆・・修正させたものを投稿させていただきました。
　こちらは予約投稿の為、あなたがこれを読むのはFXの取引中か、終わって就寝し、目を覚ました頃だと思います。その時、私は多分寝ていると思いますが……この言葉を最後に、筆を置かせていただきます。

　空想でも犯罪は犯罪なので、きちんとオチを付けておきました。ざまぁ