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シリーズ001
003
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「もう素直に帰ったらどうですか?」
「といっても、エルザの奴が今日『月の日』だからか、機嫌が悪いんだよ。だから明け方まで遊ぼうと思ってたのに……」
あれから二人は路地裏を出て、並んで町中を歩いていた。幸いにも、今いるのは商店街の通りで、深夜帯のため全ての店が閉まっている。だから人気もないので、堂々と歩いても見つかることがない。
「……それで、あんたの用件は何なんだ?」
「おや、私がライ君に用事があると、何故分かったのですか?」
「今迄、あんたが暇潰しで俺に絡んだことがあったか?」
確かに、とセッタは無言で頷いた。
「実はもう一件仕事がありましてね。急ぎではないのですが、少なくとも次の日没までには片付けて欲しいんですよ」
「……例の女騎士がらみか?」
「いえ、全くの無関係です」
そう言ってセッタは、一枚の地図をライに手渡した。
「そこに巣を作ろうとしている生物兵器がいるのですよ。元になったのはおそらく蜘蛛ですね。崖の間に巣を張って、侵略者を防ごうとしているようです」
「といっても魔界側だろ? 別に日没までじゃなくても、誰も通らないんだからほっといてもいいんじゃないか?」
「ほっといたらどんどん巣を広げてしまいますし、何より……」
と、そこでセッタはライの耳元に口を寄せた。
「そこは薬草となる茸の群生地でもあるんですよ。おまけに性病に効く類の」
「マジか。ハァ……やるしかないか」
女遊びに対して性病は天敵だ。その撃滅ともなれば、冒険者崩れのライも動かざるを得ない。
「ちなみにミルズさんにも声を掛けておきました。夜明けに魔界側の門の前で待っている、と言付かっています」
「話が早くて助かるよ。……っと」
二人が商店街を歩いていたのにはもう一つ理由がある。今は閉まっている店の一つに、(ライが)用があったからだ。
「じゃあ夜が明けたら行ってくる。……お~いクロエ、起きてるか~」
ライが扉を叩いているのは魔法薬の店、彼はそこにいるクロエという女性に用があって来たのだ。いや正確には彼女の寝室に用があったのだが。
「……果たして何日持つのやら」
流石に深夜帯のため、不機嫌になりながらも出てきた褐色の女性に導かれて、店の中に入っていくライを見つめながら、セッタは天を仰いだ。おそらく次は交友関係を虱潰しに調べるだろうな、とこの町の新入りである蒼い騎士に思いを馳せながら。
「まあ、流石に性友を公言している人はいないでしょうから、暫くは持ちますかね」
何だかんだで意外とモテる冒険者崩れに内心別れを告げてから、情報屋はこの場を後にした。
「ますたぁ、おはよう」
「ああ、おはようミルズ」
寝足りない頭を振りながら、魔界側に繋がる門の前にいた少女に舌足らずな声を掛けられたライは、そのままミルズと呼んだ娘に近づいた。
彼女の名前はミルズ・バブーシュ。ライのことを『主人(ますたぁ)』と呼んだ通り、一応は彼の奴隷ということになっている。一応というのは、ライ自身が彼女の行動を特に縛ってないからだ。
ライがミルズに最初にした命令は『暇な時だけ、俺のところに来い』というものだ。実際、彼女はその命令に忠実に従っている。その証拠に、主人が呼び出しても時々『忙しい』と拒否することがあるからだ。
まあ、ライ自身元々一人でやっていたため、そこまでミルズに頼る必要はないのだが、人手が増える分仕事も楽になる、程度に奴隷を活用しているといえる。ちなみに忙しい時は働いていないらしく、よく『お金が欲しい』と主人に無心している。
「朝飯食ったか?」
「ぜんぜん」
首を横に振っているので、食べていないのだろう。ライはクロエが用意してくれた朝食を食べてきているが、相方がそれではまずいと近くの茶屋に先に寄ることにした。本人が眠気覚ましに珈琲を飲みたいというのもあるが。
そんなこんなで人気の少ない店のテーブル席に、二人向かい合って食事を楽しんでいると、最後には仕事の話にシフトした。
「ますたぁ、アイスとてきのじょうほうがほしい」
「お前は本当に自由な奴隷だな。……頼んでよし、ただし蜘蛛を見ても泣きださないこと」
「みるず、くもへいきだよ?」
と首を傾げるミルズだが、ライはその辺りは気にしていなかった。実際、蜘蛛よりも気持ち悪い生物兵器とも渡り合ったことがあるのだ。正直今更でもある。
「とにかく、アイスを食ったらもう行くぞ」
そう言って、ライは左腰に差していた剣を置いたまま、席を立った。
「どこへいくの?」
「厠。お前もアイス食ったら行っとけ」
そして用を足してから戻り、ミルズが離れている間に会計を済ませてから二人店を出た。
「よし、では行こうか」
何故か店の前で仁王立ちしていたフランソワーズを無視して、横を通り過ぎるライ達。
少し離れてから、ミルズはライに問いかけた。
「だれ?」
「知らない人だ。無視しろ」
「おい待てっ!」
追いかけてくるフランソワーズに背を向けたまま、ライとミルズは全力で逃げ出した。
「たたかうまえに、つかれちゃうよ?」
「ちゃんと休憩するから安心しろ。というかどこからばれたんだおいっ!?」
こうして、三人は全速力で魔界に飛び込むことになってしまったのである。
「といっても、エルザの奴が今日『月の日』だからか、機嫌が悪いんだよ。だから明け方まで遊ぼうと思ってたのに……」
あれから二人は路地裏を出て、並んで町中を歩いていた。幸いにも、今いるのは商店街の通りで、深夜帯のため全ての店が閉まっている。だから人気もないので、堂々と歩いても見つかることがない。
「……それで、あんたの用件は何なんだ?」
「おや、私がライ君に用事があると、何故分かったのですか?」
「今迄、あんたが暇潰しで俺に絡んだことがあったか?」
確かに、とセッタは無言で頷いた。
「実はもう一件仕事がありましてね。急ぎではないのですが、少なくとも次の日没までには片付けて欲しいんですよ」
「……例の女騎士がらみか?」
「いえ、全くの無関係です」
そう言ってセッタは、一枚の地図をライに手渡した。
「そこに巣を作ろうとしている生物兵器がいるのですよ。元になったのはおそらく蜘蛛ですね。崖の間に巣を張って、侵略者を防ごうとしているようです」
「といっても魔界側だろ? 別に日没までじゃなくても、誰も通らないんだからほっといてもいいんじゃないか?」
「ほっといたらどんどん巣を広げてしまいますし、何より……」
と、そこでセッタはライの耳元に口を寄せた。
「そこは薬草となる茸の群生地でもあるんですよ。おまけに性病に効く類の」
「マジか。ハァ……やるしかないか」
女遊びに対して性病は天敵だ。その撃滅ともなれば、冒険者崩れのライも動かざるを得ない。
「ちなみにミルズさんにも声を掛けておきました。夜明けに魔界側の門の前で待っている、と言付かっています」
「話が早くて助かるよ。……っと」
二人が商店街を歩いていたのにはもう一つ理由がある。今は閉まっている店の一つに、(ライが)用があったからだ。
「じゃあ夜が明けたら行ってくる。……お~いクロエ、起きてるか~」
ライが扉を叩いているのは魔法薬の店、彼はそこにいるクロエという女性に用があって来たのだ。いや正確には彼女の寝室に用があったのだが。
「……果たして何日持つのやら」
流石に深夜帯のため、不機嫌になりながらも出てきた褐色の女性に導かれて、店の中に入っていくライを見つめながら、セッタは天を仰いだ。おそらく次は交友関係を虱潰しに調べるだろうな、とこの町の新入りである蒼い騎士に思いを馳せながら。
「まあ、流石に性友を公言している人はいないでしょうから、暫くは持ちますかね」
何だかんだで意外とモテる冒険者崩れに内心別れを告げてから、情報屋はこの場を後にした。
「ますたぁ、おはよう」
「ああ、おはようミルズ」
寝足りない頭を振りながら、魔界側に繋がる門の前にいた少女に舌足らずな声を掛けられたライは、そのままミルズと呼んだ娘に近づいた。
彼女の名前はミルズ・バブーシュ。ライのことを『主人(ますたぁ)』と呼んだ通り、一応は彼の奴隷ということになっている。一応というのは、ライ自身が彼女の行動を特に縛ってないからだ。
ライがミルズに最初にした命令は『暇な時だけ、俺のところに来い』というものだ。実際、彼女はその命令に忠実に従っている。その証拠に、主人が呼び出しても時々『忙しい』と拒否することがあるからだ。
まあ、ライ自身元々一人でやっていたため、そこまでミルズに頼る必要はないのだが、人手が増える分仕事も楽になる、程度に奴隷を活用しているといえる。ちなみに忙しい時は働いていないらしく、よく『お金が欲しい』と主人に無心している。
「朝飯食ったか?」
「ぜんぜん」
首を横に振っているので、食べていないのだろう。ライはクロエが用意してくれた朝食を食べてきているが、相方がそれではまずいと近くの茶屋に先に寄ることにした。本人が眠気覚ましに珈琲を飲みたいというのもあるが。
そんなこんなで人気の少ない店のテーブル席に、二人向かい合って食事を楽しんでいると、最後には仕事の話にシフトした。
「ますたぁ、アイスとてきのじょうほうがほしい」
「お前は本当に自由な奴隷だな。……頼んでよし、ただし蜘蛛を見ても泣きださないこと」
「みるず、くもへいきだよ?」
と首を傾げるミルズだが、ライはその辺りは気にしていなかった。実際、蜘蛛よりも気持ち悪い生物兵器とも渡り合ったことがあるのだ。正直今更でもある。
「とにかく、アイスを食ったらもう行くぞ」
そう言って、ライは左腰に差していた剣を置いたまま、席を立った。
「どこへいくの?」
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そして用を足してから戻り、ミルズが離れている間に会計を済ませてから二人店を出た。
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何故か店の前で仁王立ちしていたフランソワーズを無視して、横を通り過ぎるライ達。
少し離れてから、ミルズはライに問いかけた。
「だれ?」
「知らない人だ。無視しろ」
「おい待てっ!」
追いかけてくるフランソワーズに背を向けたまま、ライとミルズは全力で逃げ出した。
「たたかうまえに、つかれちゃうよ?」
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