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シリーズ001
001
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今日もいつもと変わらない、とライ・スニーカーは考えていた。
いつものように情報屋のセッタから得た仕事を奴隷のミルズと共に片付け、適当に彼女を抱いてから報酬を山分けして解散。そのまま稼いだ金でストリップを眺めてから女漁りに娼館へと向かおうと考えていた。ただ、娼館に向かう前に酒場に寄ったのが、あるいは間違いだったのかもしれない。
顔見知りの冒険者達に手を振りながらカウンター席に腰掛け、適当な酒を飲んでいると、突如隣の席に誰かが腰掛けてきた。ライが横目で相手を確認すると、そこにいたのは中々の美人だった。
黒い長髪と蒼い鎧が妙に似合ってはいるが、明らかに娼婦の類ではない。では冒険者かと思えるが、では何故、ライの隣にやって来たのか?
不思議に思いながらグラスを傾けていると、やはり用があるらしく、その美人の方からライに声を掛けてきた。
「失礼、私の名前はフランソワーズ・ハイヒール。あなたがライ・スニーカーか?」
「まあ、そうだが……」
はっきり言って、ライには冒険者の仲間がいない。というよりも、事情があって口が堅い奴隷としか組めないのだ。おまけに情報屋がややこしい仕事ばかり任せてくるので、実績だけが本人を無視して冒険者達に流れてしまっている。傭兵擬きの冒険者崩れであるにもかかわらずだ。
だからこそ、この町に来たばかりの冒険者がライに声を掛けるのは大体2種類だ。『大きな仕事があるから組まないか』か『依頼者からの恨みを受け取れ』のどちらかだろう。
(この辺りでの大口の仕事はさっき片付けたから……まずいな。昔ヤリ逃げした騎士団の女か? それともミルズの元持ち主? 流石にエルザ関連じゃないだろうけど……)
等とブツブツ考えるライを無視して、フランソワーズと名乗った女性は本題を口にした。
「この町で最強の男、とここの冒険者達から伺った。どうだろう、勇者と共に魔王を倒し、世界を救う気はないか?」
「……は?」
どうやら、ライの予想のはるか斜め上を行ってしまったようだ。
ライ達がいるこの町。名前を『ケルベロス』という。ケルベロスとは冥界への門を守る三頭犬のことだが、この名前を付けた人間は皮肉がうまいともいえる。
この町は魔王配下の領土、通称『魔界』と、人間達のいる領土との丁度境目に存在する。つまり、魔王軍が攻めてきた時は、この町が最前線となる。その証拠に、町の規模では不釣り合いな城壁が境界沿いに積み上げられ、この町にいる冒険者達の仕事は必然的に魔界の生物を狩ることに重きを置いている。
ライが酒場に来る前に済ませた仕事も、この町に近づいてきていた魔王軍の生物兵器を狩ることだった。
そして、魔王がいるということはもちろん勇者もいるということだ。その証拠に、あらゆる手段をもって各国が勇者を魔王の元へと送り込んでいる。その勇者の経歴は様々で、名高き騎士や名うての傭兵、異世界から呼び寄せた戦士から田舎予言者に選ばれた赤ん坊に至るまで。人類は魔王を狩るために、常に奔走していた。
そして、最近の新聞でも『57代目勇者パーティ、再度敗退』となっている。いい加減暗殺者に鞍替えして目立たないように送れとも思うが、実際にそれをやった異世界出身の勇者も撃退されている以上、無駄と取るべきだろう。むしろ手を出さない方がいい。
その考えから、ライはフランソワーズにはっきりと言ってのけた。
「……断る。他当たれ」
「多額の報酬を用意してもか?」
「ハッ!」
酒代をカウンターに投げ置いたライは立ち上がると、静かにフランソワーズを見下ろした。
「毎日女買えるだけの金があれば十分だ。無駄に稼いだって、国や盗賊から狙われるのがオチだよ」
「……国は個人の金を盗まんだろう」
「盗むだろ。『税金』という形で」
そして冒険者は『脱税者』が多い。金額が不定期の上、突然大きな仕事を成功させて莫大な報酬を得ることもあるのだ。いちいち計算が追い付かずに、面倒臭がって収入を申告しない者が多い。おまけに市民権を持っているわけではないので、税金を払う前に消えることも簡単にできてしまう。それも冒険者となった若者が町から離れる原因となっているのに、国は未だに対応してくれない。何処の国の政府も困ったものである。
「……ま、この町の冒険者は魔界に近い分、地力が高い奴が多い。精々そこから見繕うんだな」
適当に手を振って去ろうとしたが、フランソワーズはライの手を掴んで引き留めた。
「その中でもお前は別格だと聞いた。頼む『決して死なない男』、世界平和のために力を貸してくれ」
自らを掴んでくる手を、ライは冷たく見つめた。
「俺が言われたらいやな言葉って、分かるか?」
首を傾げるフランソワーズに、ライは言い捨てた。
「……『決して死なない男』と『世界平和』だ。覚えておけ」
瞬間、ライはフランソワーズの前から姿を消した。
いつものように情報屋のセッタから得た仕事を奴隷のミルズと共に片付け、適当に彼女を抱いてから報酬を山分けして解散。そのまま稼いだ金でストリップを眺めてから女漁りに娼館へと向かおうと考えていた。ただ、娼館に向かう前に酒場に寄ったのが、あるいは間違いだったのかもしれない。
顔見知りの冒険者達に手を振りながらカウンター席に腰掛け、適当な酒を飲んでいると、突如隣の席に誰かが腰掛けてきた。ライが横目で相手を確認すると、そこにいたのは中々の美人だった。
黒い長髪と蒼い鎧が妙に似合ってはいるが、明らかに娼婦の類ではない。では冒険者かと思えるが、では何故、ライの隣にやって来たのか?
不思議に思いながらグラスを傾けていると、やはり用があるらしく、その美人の方からライに声を掛けてきた。
「失礼、私の名前はフランソワーズ・ハイヒール。あなたがライ・スニーカーか?」
「まあ、そうだが……」
はっきり言って、ライには冒険者の仲間がいない。というよりも、事情があって口が堅い奴隷としか組めないのだ。おまけに情報屋がややこしい仕事ばかり任せてくるので、実績だけが本人を無視して冒険者達に流れてしまっている。傭兵擬きの冒険者崩れであるにもかかわらずだ。
だからこそ、この町に来たばかりの冒険者がライに声を掛けるのは大体2種類だ。『大きな仕事があるから組まないか』か『依頼者からの恨みを受け取れ』のどちらかだろう。
(この辺りでの大口の仕事はさっき片付けたから……まずいな。昔ヤリ逃げした騎士団の女か? それともミルズの元持ち主? 流石にエルザ関連じゃないだろうけど……)
等とブツブツ考えるライを無視して、フランソワーズと名乗った女性は本題を口にした。
「この町で最強の男、とここの冒険者達から伺った。どうだろう、勇者と共に魔王を倒し、世界を救う気はないか?」
「……は?」
どうやら、ライの予想のはるか斜め上を行ってしまったようだ。
ライ達がいるこの町。名前を『ケルベロス』という。ケルベロスとは冥界への門を守る三頭犬のことだが、この名前を付けた人間は皮肉がうまいともいえる。
この町は魔王配下の領土、通称『魔界』と、人間達のいる領土との丁度境目に存在する。つまり、魔王軍が攻めてきた時は、この町が最前線となる。その証拠に、町の規模では不釣り合いな城壁が境界沿いに積み上げられ、この町にいる冒険者達の仕事は必然的に魔界の生物を狩ることに重きを置いている。
ライが酒場に来る前に済ませた仕事も、この町に近づいてきていた魔王軍の生物兵器を狩ることだった。
そして、魔王がいるということはもちろん勇者もいるということだ。その証拠に、あらゆる手段をもって各国が勇者を魔王の元へと送り込んでいる。その勇者の経歴は様々で、名高き騎士や名うての傭兵、異世界から呼び寄せた戦士から田舎予言者に選ばれた赤ん坊に至るまで。人類は魔王を狩るために、常に奔走していた。
そして、最近の新聞でも『57代目勇者パーティ、再度敗退』となっている。いい加減暗殺者に鞍替えして目立たないように送れとも思うが、実際にそれをやった異世界出身の勇者も撃退されている以上、無駄と取るべきだろう。むしろ手を出さない方がいい。
その考えから、ライはフランソワーズにはっきりと言ってのけた。
「……断る。他当たれ」
「多額の報酬を用意してもか?」
「ハッ!」
酒代をカウンターに投げ置いたライは立ち上がると、静かにフランソワーズを見下ろした。
「毎日女買えるだけの金があれば十分だ。無駄に稼いだって、国や盗賊から狙われるのがオチだよ」
「……国は個人の金を盗まんだろう」
「盗むだろ。『税金』という形で」
そして冒険者は『脱税者』が多い。金額が不定期の上、突然大きな仕事を成功させて莫大な報酬を得ることもあるのだ。いちいち計算が追い付かずに、面倒臭がって収入を申告しない者が多い。おまけに市民権を持っているわけではないので、税金を払う前に消えることも簡単にできてしまう。それも冒険者となった若者が町から離れる原因となっているのに、国は未だに対応してくれない。何処の国の政府も困ったものである。
「……ま、この町の冒険者は魔界に近い分、地力が高い奴が多い。精々そこから見繕うんだな」
適当に手を振って去ろうとしたが、フランソワーズはライの手を掴んで引き留めた。
「その中でもお前は別格だと聞いた。頼む『決して死なない男』、世界平和のために力を貸してくれ」
自らを掴んでくる手を、ライは冷たく見つめた。
「俺が言われたらいやな言葉って、分かるか?」
首を傾げるフランソワーズに、ライは言い捨てた。
「……『決して死なない男』と『世界平和』だ。覚えておけ」
瞬間、ライはフランソワーズの前から姿を消した。
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