アンビバレントな狂戦士

山崎トシムネ

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第1章「異世界と狂戦士」

「謎の女」

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「何なの…この生き物は…」

マイの見つめる先には見慣れない銀色の巨体に異様に膨らんだ両腕を持つ生き物の姿があった。

「…恐らくこれはゴーレムです」

「ゴーレム?…魔法生物の?!でも何でこんなところに…」

「創造人形…クリエイトドールはかなり高位の魔法です。それにこんな上質な素材を使用してのゴーレムです!近くに持ち主がいるはず!」

三人娘が辺りを見渡すが、それらしき人物は見当たらない。

ガキンッ!!!ガン!キンッ!!!

「バンドウさん!」

3人が少し目を離すと銀色のゴーレムと壱成がそのまま戦闘に入っていた。

「兎に角、私たちを助けてくれた…のよね?」

「え、えぇ…恐らく」

先ほどの壱成の攻撃は確実にサラを標的としてのものだった為、それを防ぐようにして現れたゴーレムは少なくとも敵では無いと考える。

「銀色のゴーレム…まさかとは思いますが…」

ローラは何かを考え込んでいるようだが…


「あら?知っているんですか?鋼鉄の人形を?」


「あ!そうです!鋼鉄の人形…スティールゴーレムです!!最強のゴーレムとして有名の…って!!!」

「誰っ?!」

聞き慣れない声に三人娘は振り返る。

そこに居たのは…

「皆さんこんにちは。アルデアの冒険者の方々ですよね?」

一面黒に目と口の周りに赤い塗装がされた奇妙なお面を付けた者の姿があった。

「女性?」

「この声…どこかで聞いたことあるような…」

サラはその声に聞き覚えがあるようであったが…

「ふふっ…"今の"彼は以前よりも一段と強くなってようですね。もしかしたら私も本気でやる必要があるかもしれませんね…ふふふっ」

その女は不敵に笑うと…

「あれ?!いない!!」

いつのまにか三人娘の前からいなくなっていた。

「今の人の声どこかで…」

「ああ!イッセイ君が!」

マイの声に反応してサラとローラが壱成の方を見ると…正に壱成がゴーレムの一撃を受けて派手に吹き飛ばされているところであった。

しかし吹き飛ばされた壱成もネコ科の動物のような柔軟な動きで直ぐにゴーレムの方へと態勢を整える。

だが確実にダメージを受けているようで、壱成の身体の至る所が腫れ上がり、擦り切れた箇所からは血が流れていた。

「…流石にスティールゴーレムはバンドウさんでも厳しいと思います」

「スティールゴーレムねぇ…実在していたなんて」

「そうね…私も名前は聞いたことあるわ。確か冒険者でいうところの第4級…小国の軍事力にも匹敵するとか」

壱成とスティールゴーレムの戦いは終始スティールゴーレムが押していた。いや…押しているというよりは圧倒していた。

鋼鉄の体にクレイやウッドなどの下位素材ゴーレムとは比較にならないくらいの素早さと可動域の広さ…柔軟性を兼ね備え、更には巨大かつ最硬の腕による一撃は低級の冒険者なら一撃で葬り去る程の威力だ。

そんな歩く要塞のようなスティールゴーレムを前に狂戦士化した壱成と言えども避けるのが相手の攻撃の威力を消しながら避けるのが精一杯の様子である。


「この様子だと現在は第6…良くて5級と言ったところですか。…この短期間でここまでとは…流石は超希少特殊技能ですね。ふふっ」

仮面で顔を覆った人物は天井からぶら下がる…いや、まるで天井に立っている?かのように全く苦では無さそうに、そして重力を感じていないかのように上から壱成の戦いを見守っていた。

そして吐息交じりに呟くと、ペロっと唇を舐めるような擬音が聞こえてきたのだった。


「彼女たちはどうしましょうか?…ここは"処分"するのが確実…いや、それは"彼"に悪影響ですね。彼はまだ"未熟"です…能力の暴走の恐れもあることですし、それはやめておきますか。私の記憶だけ消去することにしましょう」

彼女はパンッ!っと手を叩くと…

「そうと決まれば…データも取れたことですし、彼が死なないうちにゴーレムを停止させないと。その前に…」

仮面の人物は飛び降りて?天井から降りてくると…


「あっ!あんた!!さっきは一体どこに…?」

「ちょっとっ!!」

「危ないです!!サラッ!!」

仮面の人物は手を振りかざすと…


「それでは…さようなら」

「!!」

閃光が当たりに走ると…


「サラッ!!!貴方一体何を」


光が晴れるとサラが倒れていた。


「魔法だとは思いますが…私には分からない高位のものだと思います!気をつけ…て…」

「遅いですよ?」


いつの間にかローラとマイの間にいた仮面の人物は先ほどと同じ様に両手を振り上げると…

辺りは一瞬閃光に包まれ、それが晴れると2人はサラと同じように倒れていたのだった。


「ふう…後は彼の回収ね。ちょっと~、もう良いから終わらせて!!」

仮面の人物が声をかけると、スティールゴーレムの動きが変わる。


それまではギリギリではあるがゴーレムの攻撃を見切り、耐えていたはずの壱成であったが…

「っ!!」

突然スピードが跳ね上がったスティールゴーレムは瞬時に壱成の背後に移動すると、首元に軽く一撃を加えた。

「!!………」


すると壱成は力無く倒れたのだった。


「はい!お疲れ様!!」

仮面の人物は仕事を終えて完全に停止したゴーレムを軽く叩くと、壱成の前で立ち止まる。


「ふふっ…まだまだですねバンドウ様?もう少し強くなって私の役に立って下さいね?」


仮面を外したリリア嬢はクスリと笑うと、艶めかしい表情で眠ったように気絶している壱成を見つめながらそのように言ったのだった。
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