アンビバレントな狂戦士

山崎トシムネ

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第1章「異世界と狂戦士」

「異変」

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「イッセイ君!!私の手に掴まって………っ!!」

粘液に取り込まれて行く壱成に向けて必死に手を伸ばすマイ。

しかし壱成は力無く奥へ奥へと引きずりこまれかけていたその時だった。マイの腕がすごい力で握られる。

「ちょっ…イッセイ君?!痛い…痛いってばっ!」

しかしマイの腕にかけられている力が弱まることは無い。

「…サラ?おばさんの様子がおかしいです…」

「マイ?!どうしたのっ?!」

マイは苦悶の表情を浮かべながら…

「イッセイ君が…痛いっ!痛いよ!………っ!!!!」

直後、マイの身体が宙に浮かぶ。

「…!!あれは!!」

「バンドウさん?!」

壱成がマイの腕を掴み、凄い勢いでキングスライムの中から弾丸のように飛び出してきた。

「イッセイ君?!…あっ!」

キングスライムから飛び出した壱成はマイを2人の近くに投げる。

「おっとっと…大丈夫?!」

「え、えぇ…ありがとう」

サラは投げられたマイをなんとか受け止める。

身軽な動きで地面に着地した壱成はキングスライムの方へ向き直る。

キングスライムは先程と同じ様に壱成を捕らえようとして身体中から触手を同時に生やし、一斉に壱成目掛けて伸ばしてきた。

「バンドウさん!危ないです!!!」

ローラから声が飛ぶが壱成に反応は無い。

そしてキングスライムの触手が壱成を捕らえようと迫る。

三人娘は思わず目を閉じてしまうが…


「…あれ?バンドウさんは?!」

「…いないですね」

「何処に行ったの?!」

先程まで壱成がいた場所には勢い余って地面に激突した触手がただの粘液に戻っている姿があるだけであった。

辺りを見渡す三人娘。

「あっ!!あそこに!」

マイの指差した先には、キングスライムの核の目の前に立つ壱成の姿が。

「あれは…スライムの核でしょうか?」

「でもバンドウさんの攻撃では…」

先程の壱成の姿…技能(スキル)や攻撃がキングスライムに通用しなかった姿を見ている三人は悲痛な声を漏らすものの…

大きく右腕を振り上げる壱成。その手は魔力を纏っているようであった。


「あれは…修行僧(モンク)の技能かしら?」

「しかしバンドウさんは冒険者のはずよ、修行僧の技能なんて使える訳無いわ」

「…っ!!あの手、凄い量の魔力が宿っています!!!凄いっ!!なんですかあの量は!!!」

ローラが興奮のあまり取り乱す。

「あっ!危ないっ!」

壱成の方を見てサラが叫ぶ。無防備に手を振り上げた壱成に核付近の粘液が触手となって迫っていたからである。

しかし…

「え?!今笑って…」

壱成は猟奇的な笑みを浮かべ大きく跳ね上がるとその手を振り抜いた。

そして圧倒的な筋力に裏付けられた業物の槍のような腕がキングスライムの核をいとも容易く砕いたのだった。

その間僅か数秒の出来事であった。

「「「………」」」

三人娘は唖然とした顔を浮かべる。

目の前で何が起きたのか理解が追いついていないようだ。

「…え、えーと。勝った…のよね?」

「そ、そうみたい」

「…凄い…あの魔力…まるでかの大魔道士の様です…」

核を砕かれたキングスライムの巨大な粘液の身体は次第に弾力性を失っていく。そしてただの水の様に力無くのっぺりと広がっていった。

そしてその中心に立つ者が1人。彼は狂気的で猟奇的な笑みを浮かべて自らの拳を見つめていた。

「大丈夫ですかバンドウさん!」

「イッセイ君…助かったわ。そんな力があったなんて、言ってくれれば良かったのに」

「ば、ばばばバンドウさん!!その溢れ出る魔力は一体どこから湧いてくるのでしょうか?!?!何か秘密があるのでしょう?生身の身体からそんな量の魔力が出せるなんてあり得ないですし!!」

「ちょっとローラ!落ち着きなよ!」

「…す、すいません。魔法の事となるとつい興奮してしまって…」

「ちょっと貴女たち!イッセイ君がキングスライムを倒してくれたんだからもっとイッセイ君にお礼を…ってイッセイ君??」

三人娘が壱成の元へ行き騒がしく話すものの、壱成は無反応のようだ。

相変わらず不敵な笑みを浮かべて笑っているだけである。

「ちょ、ちょっとバンドウさん?大丈夫??」

「…ま、魔法の副作用でしょうか?あれ程の魔法ですから副作用があってもおかしくは無いですし…」

「イッセイ君てば!大丈夫なの?!」

マイが壱成の様子を見るため更に壱成に近くと…

「グゥゥウウウウ…」

「えっ?!」

振り返った壱成の瞳は真っ赤に染まっていた。

そして壱成は獲物を見つめる肉食獣のような鋭い眼光で三人娘を睨みつける。

「ば、バンドウさん?」

「…正気を失っている?!」


そして壱成は右腕を振り上げると、再び魔力を纏い始めたのだった。
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