アンビバレントな狂戦士

山崎トシムネ

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第1章「異世界と狂戦士」

「混沌のハーレム」

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「ねーバンドウさん、私とパーティー組んでくださいよ~」

「いやバンドウさん、こんな女より私と…」

「うるさい女たちね!イッセイ君と組むのはこの私よ!!」

「はぁ?"おばさん"は黙っててくれませんかぁ?」

「そうですよ!"おばさん"!」

「…なんですってぇ?私がおばさん?…きぃぃい!!まだ24よ!!このガキ共!!」

冒険者ギルドの酒場で周りの注目を浴びる集団がいた。

その中心にいるのは目を細めている風を装いながらも、しっかりと彼を取り囲んでいる女性冒険者の身体を凝視している壱成であった。


はあ…。前世ならば夢のように思ったであろう状況なのに、この呪いのせいで全然楽しくない。それどころか、いつ彼女たちが体に触ってこないか気が気でない。それに恐ろしい程の殺気を飛ばしてくる受付嬢もいるしなぁ…。

横目で冒険者ギルドの受け付けを見ると、いつもと同じ笑顔のはずが、その目は非常に冷たく…まるでゴミを見るかのような目をしているリリア嬢の姿があった。

はあ…、俺にこの状況をどうしろと言うのだろうか。そもそもこんな状況に陥ったのはリリア嬢にも責任が…というか殆どリリア嬢の所為ではないか。


この前の昇級試験の後、俺は毎日こんな状況に陥っている。俺の実力を知ってかソロの俺とパーティーを組もうと毎日大勢の女性冒険者が俺の取り合いを繰り広げている。

まあ、可愛い女子たちに必要とされるのも、目の前でたわわに実った果実が揺れ動くのを間近で見るのも悪くわないのだが…そろそろリリア嬢の目も笑えないくらい冷たいものになってきたので、俺としてはもうやめてほしいのだ。

周りの男性冒険者も冷たくなってきたし…はあ、イケメンって意外と辛いんだな。


壱成が己の状況を嘆いていると…

「バンドウ様?毎日毎日このように昼間から酒場で騒がれては困ります。冒険者ギルドには一般のお客様も来ますので」

こ、この声は…

「り、リリアさんっ?!」

アルデア冒険者ギルドの看板受付嬢リリア・カルネルがやって来た。

しかし彼女の言葉を快く思わない者が約3名。

「あら?美人受付嬢さんじゃないの?男冒険者"憧れ"の、いつもなんでイッセイ君にそんなに突っかかるのよ?」

「そうですっ!リリアさんがバンドウさんと付き合ってるってやっぱり本当だったんですか??」

「街の人も貴女の家に出入りするバンドウさんをよく見かけていたようだし…どうなのよリリアさん?」

3名の女冒険者に問い詰められるリリア嬢。しかし彼女の表情は微塵も変化することなく、いつも通りの営業スマイルを浮かべ…

「そんな訳無いじゃないですか。私とバンドウ様は"仕事上の"関係以外何もありませんでので…」

うっ!!

俺は背後から頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。

「だったら私たちが彼とクエストを受けようが構わないわよね?」

「そうですよ。あんな才能を持つおと…冒険者を放っておくパーティーはありませんよ!」

「ええ、それにパーティーで行動した方が選択肢は増えるし…彼もその方が嬉しいと思うけど?」

三人娘はここぞとばかりに反論するも、リリア嬢は眉一つ動かす事無く…

「では皆様でクエストを受けられてはいかがですか?ちょうど受注してくれる方を探していたんですよ。手頃な冒険者がいなくて困っていた依頼があるんです」

「え?!ちょ、リリアさんっ?!」

彼女は何を言っているんだろうか…


「いいじゃない?行きましょう。誰がイッセイ君に相応しいか…実戦で決めようじゃない?」

「そうですね…大変効率的だと思います」

「いいわ、受けましょう。…それで?どんな依頼なの??」

3人の様子を見てリリア嬢はそれまでの美人の仮面を被った冷たい営業スマイルから、本当の…心から笑うような笑顔に変わった気がした。表面上は殆ど変わっていないが…もうそこそこ長い付き合いになるので、そのくらいの変化なら分かる。そして、あの笑顔を浮かべる時のリリア嬢は大抵の場合ロクな事を考えていないのだ…。以前あの笑顔を見たときはゴーレムに殴られ全身複雑骨折したし。

「確か…キングスライムの討伐ですね。"優秀な"バンドウ様もいらっしゃる事ですし、7等級程度の相手なら問題にもならないですよね?」

三人娘はお互いに顔を見合わせると、力強く頷き合う。

え?!本当に行くの?これ…もしも呪いが発動したらどうするつもりなんだろうか…はっ!!

リリア嬢を見ると意地の悪そうな笑みでこちらを蔑むように笑っていた。

まさかリリア嬢…俺になにか"ハプニング"が起きる事を予想して…なんてことだ。不味い…何かすごく嫌な予感がする。


しかしそんな壱成の思いとは裏腹に…

「じゃあ行きましょうか?イッセイ君っ!」

女性冒険者に危うく腕を掴まれそうになった為、急いで酒場の席から立ち上がり歩き出す壱成。

「ぷっ、おばさん逃げられてやんのっ」

「そうですね。でもバンドウさんはやる気みたいで嬉しいです」

「きぃぃ!!これ以上私をおばさん呼ばわりするとタダじゃおかないわよ?こう見えても私は剣術の使い手で…」

三人娘はやる気満々でギルドの出口へと向かう。

「い、いや…皆さん?実は僕これから予定が…」

「じゃあ!皆さんをよろしく頼みますね??非常にオ・モ・テになられるバンドウ様?」

「あっ…はい…」

リリア嬢は悪魔のように邪悪な笑みで微笑むと、身軽に反転して受付の方へ戻っていった。

無事にクエストを終えれる気がしないな…。

こうして嫌々ながらも壱成の不安に満ちたハーレム旅が始まったのだった。
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