アンビバレントな狂戦士

山崎トシムネ

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第1章「異世界と狂戦士」

「テスト」

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リリア嬢との秘密の契約から早くも2週間程が経過した。

その間俺は彼女から言われた通り、低位の魔物であるスライムや人間に似た姿をしている"亜人種"と呼ばれる種族のゴブリンをひたすら狩っていた。

確かこの世界ではスライムやドラゴンなんかの人型以外の種族は魔物(モンスター)と一括りにされているらしい。その中でゾンビやリッチといった不老不死の存在をアンデット。ゴーレムの様に魔法によって命を授かる存在は魔法生物と細かく分類されているのだとか…。

そして人型の人間以外の生物を亜人。更にその中でも人間と近しい見た目を持つエルフやドワーフは人間種。ゴブリンやオークなどを亜人種と区分するらしい。

まあこれらの区分は如何にも人間側からの視点による区分であることが明確であると思うが…ま、そんな事はどうでもいいな。それよりもエルフなんかはやっぱり美人なんだろうか?そっちの方が遥かに気になる…。


そしてレベル上げならぬ魔力上げでは、ゲームの中でお馴染みの存在だったスライムやゴブリンを狩ったのだが…実際に対面するとスライムはヘドロの様にドロドロしていて気色悪いし、ゴブリンは本当に醜い小鬼という表現がぴったりな気持ちの悪い見た目をしていて、戦うのも少し気が引けてしまった。

スライムを斬りつけるとベタベタした粘液が飛び散るし、ゴブリンを斬りつけると当たり前だが血が飛び散る。

なんか思ってたのと違うというか…現実はやっぱりゲームと違ってグロいし、気持ち悪いし、スライムはともかく…ゴブリンなんかは生き物であり、それも人に近い姿のものを殺めるというのは少なからず罪悪感があった。


とまあ色々感じるところはあったのだが、それも3日もすれば慣れてしまった。人間とは不思議なもので目標があれば何でも出来てしまうのだ。

そう!俺には童貞卒業という崇高な志があり、それを前にすれば俺に出来ないことなど無いのだ!!

イケメンでスタイルも良くて、才能もあるこの俺が女の子に触られただけで見境なく暴走してしまう??そんなふざけた設定をぶち壊す為に俺は何だってしてやるさ!!そうさ!エロのパワーは凄いのだっ!!

全てが終わったら呪いを解いてくれる人を紹介する…リリア嬢はたしかにそう言った。

しかしあれからリリア嬢は、呪いの解除についての具体的な話をしてくれない。全てが終わったら話します。時が来たら必ず話しますから。なんか怪しい気配を感じなくも無いが…。可愛い顔で言われてしまうと、まあいいかっ!…っとなってしまう。

それに、現在の俺には彼女の言葉だけが一縷の希望なのだ。あんまり突っ込みすぎて関係を壊すような事はしたくない。

只でさえ人と接するのは苦手なのだから…。



俺はそんな事を考えながら、目の前のゴブリンを斬り伏せた。


「ふう…これで最後か…」


首を刎ねられ、緑色をした小さな人間のような亜人が力無く倒れる。

今日は魔力上げの為だけにゴブリンを狩っているのではなく、街道周辺に住み着いたゴブリン数頭の討伐という依頼を受けた為、魔力も上がるしお金も貰えるしで一石二鳥であった。

本来檄ザコ亜人のゴブリンを退治するだけでお金…褒賞金を貰えるなんておいしい依頼は、駆け出し冒険者同士の熾烈な奪い合いになるのだが、俺には優先的にそのようなおいしいクエストが回ってくるようになっているのだ。

何故ならリリア嬢という協力者がいるからである!彼女はその抜群の美貌もさることながら、諜報員というのはどうやら本当らしく、この前楽な魔力量の上げ方を教えるとか言って凄まじいスピードでゴブリンの屠り方を教えてくれたのだ。

あれは強さがかけ離れ過ぎていて、強さの位ははっきりとは分からないが…そうだな、第3級冒険者くらいの実力はあるのではないかと思っている。


冒険者とは第1級から10級まででランク付けされている。初めは皆第10級から始まり、上のランクに昇格する為には様々な制約がある。その分上のランクに昇格すると、より高額な報酬のクエストを受注できたり、貴族の警護などの重要な内容のクエストも受けられるようになる。なによりも上級冒険者と言われている第5級以上の冒険者になれば社会的なステータスも大分違うだろう。

日本でいうところの医者や弁護士、それに官僚といったところだろうか。

…弁護士か、結局俺は…。


そんな事はともかく、こんなイケメンでハイスペックな俺が社会的ステータスまで身につけて仕舞えば大変なことになるのは目に見えて分かるのだが…今は先のことよりも目の前の事に集中すべきだと思う。


俺はゴブリンを斬って剣についてしまった紫色の血を布で拭きながら、依頼の規定討伐数にも達したので街に帰ろうと準備していた。

なんでもゴブリンの装備品や体の一部を持ち帰ると討伐数として換算してくれるらしい。酷い話だが、一匹のゴブリンをバラバラにして何匹も討伐した事に出来てしまうのではないかと考えてリリア嬢に話したところ、ギルドには見るだけでアイテムの過去の記憶を見ることのできる特殊能力持ちの人物がいるのだとか。殺人事件などもその人がいるため簡単に解決できるとのことらしい。

まあ、そんな不正がバレれば上の等級への昇格に悪影響を与える為そんなことを考える冒険者は少ないとリリア嬢に驚かれたのだが…。


「ふう…帰ってリリアさんに報告ついでに報酬受け取って早く寝よ。いつもより多く狩ぬたし、流石に疲れが………ん?」


耳を澄ましてみると、遠くから何かが聞こえる。街道の脇にある森の奥の方からだろうか。

「……ズンッ……ズンッッ……ズンッッッ」


それは一定のリズムで聞こえ、次第に大きくはっきりと聞こえるようになった。


「これは…足音?!」


やがて足音らしき大きな音はすぐ近くから聞こえるようになった。


そして音が聞こえなくなった刹那、それは姿を現したのだった。



「何だあれ………ゴーレム??」


街道の脇にある森から姿を見せたのは、偽りの命を吹き込まれた魔法生物として有名なゴーレムであった。

形状は人型をしているが、両腕が異様に大きく膨れていて、巨大な棍棒の様だ。あれを思い切り振り下ろされれば大抵の人間は助からないだろう。

そして3メートル近い巨大な身体は、生み出す時に用いられた媒介によって構成されている。

俺の前に現れた奴は…


「土…か?」


どうやら動きたびに黄土色の身体の一部がぼろぼろとこぼれ落ちている様子から察するに、土を媒介として作られたクレイゴーレムであると思われる。

クレイゴーレムはゴーレムの中では砂のサンドゴーレムなどと並んで最弱の部類だが、第10級冒険者にとってはドラゴンに並ぶ程の強敵だ。

ゴーレムを生み出した術者の技量にもよるが、大抵のゴーレムが再生能力を有している為非常にタフだ。

昔読んだ本ではゴーレムを倒す際は、あの巨体の中心部にある魔法陣が入ったコアのような物を一撃で壊す必要があると書かれていた。

果たして街の武器屋で買った安物の剣で勝てるのだろうか?


…いや、何もこんな所で戦う必要は無いのではないか?街道を行く商人には盗賊対策として腕利きの冒険者が雇われている場合が多いし、確か警備の騎士が巡回しているはず…何も俺がここで奴を倒す必要は無いだろう。それにゴーレムは確か討伐推奨が第7級冒険者だったはず、今の俺が勝てるはずは…


そう考えた俺はクレイゴーレムの動向を伺いながら、ゆっくりと後退を始めて…



「逃げるのは駄目ですよ?バンドウ様?」


聞き覚えのある声が聞こえ振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたリリア嬢の姿があった。

その薔薇のように美しい笑顔の裏にすごく冷たいものを感じた俺は、彼女の言葉の意味が簡単に理解できた。


「り、リリアさん?何でここに…」


「さあバンドウ様?魔力上げの成果を見せてくださいませんか?丁度いい相手も用意したので」


リリア嬢の言う丁度いい相手とは、どう考えてもクレイゴーレムの事だろう。


「り、、、リリアさん?ゴーレムは最弱の奴でも第7級冒険者でないと討伐を受けられないと聞いた覚えがあるのですが……」


「え!?私一年近く受付をしていますが…初耳ですね」

リリア嬢はわざとらしい演技で驚くふりをする。そんな訳ない事はわかっているので、やはりこのクレイゴーレムはリリア嬢が用意したもので間違いないようだ。


「リリアさん!死んじゃいます!俺死んじゃうっ!」

「落ち着いて下さいバンドウ様。これはテストでもあるんですから、貴方様の才能を測るテストでも…あっ、危ないですよバンドウ様!」

「テスト?…って、うわぁ!!」


気配を感じて振り返るとクレイゴーレムが身体に比べて不釣り合いに大きく膨らんだ両腕を振り下ろしている所だった。


「ひぃぃぃい!!」


俺は間一髪で回避するも、振り下ろされた両腕の凄まじい風圧によって前方に転がってしまう。


「やばいよ!あれはやばいよリリアさん!!ゴブリンなんて比じゃないよっ」


俺の慌てふためく様子を見てリリア嬢は…


「ふふっ。テストは始まったばっかりですよ?バンドウ様。貴方の才能…試させてもらいますね」



リリア嬢はいつも通りの美しい笑みを浮かべ、楽しそうに俺を見つめていたのだった。
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