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第1章「異世界と狂戦士」
「英雄譚」
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「バンドウ様、どうぞこちらにお座りください」
リリア嬢の普段と変わらない和かな表情が、かえって俺の不安を煽る。
何故一介のギルド職員であるリリア嬢が、街のヒーラーも神官も分からなかった俺にかけられている呪いの正体に心当たりがあるのだろうか…。
俺は冒険者ギルドの中の一室に入り、リリア嬢の対面の席に座る。部屋の中には俺とリリア嬢二人きりだ。
「り、リリアさん。それで狂戦士というのは一体…」
「バンドウ様?世の中には生まれながらにして特殊技能(スペシャルスキル)を持つ人がいますよね?」
特殊技能(スペシャルスキル)とは"人間種"だけが持つ特殊な能力のことで、その習得は完全に先天的なものであり、習得しようと思って習得できるようなものではない。ごく稀にそう言った能力を持って生まれてくる人がいるのだ。そして特殊技能があるかどうかを判断するのは非常に難しいと言われている。特殊技能の有る無しを判断できる古代具なんかも存在しているらしいが…。
そもそも特殊技能とは習得する確率や習得した特殊技能の内容も千差万別で、魔法の習得にかかる期間がおよそ半分に短縮するされる"魔導"や世にも珍しく、同じ重さの黄金以上の価値があるとされる古代具(アーティファクト)の位置を大凡特定することのできる"宝探人(トレジャーハンター)"などの非常に稀有で役立つ特殊技能がある一方で、いつでも現在の時刻が分かる"時間番人(タイムキーパー)"や明日の天気が分かる"予報人(プレディクター)"などあまり有用であるとは言えない特殊技能も存在している。
俺は記憶を引き継いで生まれていた為、幼い頃の暇な時間に孤児院にあった本を読み漁ってこの様なこの世界の常識といえる知識を得ていたのだ。
「い、いますね。それで狂戦士というのは特殊技能の一種…なんですか?」
「私が昔祖父から聴いたお話の中に、こんな英雄譚がありました…」
それからリリア嬢は遠い目をしながら突然語り始めた。
「昔昔…そのまた昔の話です。人族はとある一匹のドラゴンによって支配されていました。そのドラゴンは巨大な翼と牙…それに魔法や斬撃など全てを弾く堅牢な鱗を持っていて、反抗する人間はその大きな口から吐かれる灼熱の炎によって燃やされてしまいました。やがて強大なドラゴンの力を前に人族の反抗心も恐怖によって打ち消され、そのドラゴンの支配は長きに渡りました。親から子へ、さらにその子供へと何代にも渡り人々を過酷に働かせては面白半分に殺す日々が続いたのでした。しかし、ドラゴンの支配立ち上がった人間が一人。彼には名前はありませんでした。彼は"生まれながらにして持っていたとある才"を存分に発揮して、長く人族を苦しめていたドラゴンを打ち倒したのでした。しかしその後、彼はその力を人族へと向け"本能の赴くままに暴れまわってしまう"のでした。彼の力を抑えることに成功した人族はその後、数千年に渡って繁栄を続けたのでした。めでたしめでたし」
話を終えたリリア嬢はこちらに笑いかける。
「どうでしたかバンドウ様?実はこのお話、所々省略されているらしいんですよ。何か詳しい説明の無い部分がありませんでしたか?」
「ドラゴンを倒した男…彼の力について説明されていない…のかな?」
リリア嬢は先程の純粋な笑顔とは少し違い、何か悪巧みをするような笑みを浮かべて…
「正解です。…実はこのお話、ありきたりな英雄譚に見えて"実話"らしいんですよ?」
「ほ、本当ですか?でも、何を理由にそんな…」
リリア嬢は席から立ち上がると、少しずつこちらに近づいて来る。
「バンドウ様にはお伝えしても良いかな?これから長いお付き合いになりそうだし」
リリア嬢は自らの唇に指を当て、自身の胸を強調させるような艶かしい姿勢で俺の真横に来る。
俺は息を呑み、緊張のあまり微動だにすることが出来ない。目の前に迫った強調されたリリア嬢の胸の谷間が目に入るが…直ぐに逸らして顔を伏せる。本当なら見つめたいものだが…それは無理だ。なぜなら基本的に童貞は奥手なのだ。いや、奥手だから童貞なのだ。
それに…こんな美人がこの距離に迫って来ることなんて人生で一度も…あっ!
リリア嬢の顔が俺の顔に真横に迫り、俺の耳元で艶めかしい声色で囁いた。
「私…実はギルドの受付嬢じゃなくて、とある国の"諜報員"なんですよ??」
ん??今なんて…
俺はリリア嬢の言葉の意味を確かめるべく、顔を動かそうとするも…
「あ、バンドウ様?動かないでくださいね?じゃないと抱きついちゃいますよ?」
リリア嬢は何を言っているのだろうか?これは脅し…なのだろうか?それに諜報員?!諜報員って確かスパイのような感じのはず…何故リリア嬢がそんなことを俺に言うのだろうか。
「な、何を言っているんですかリリアさん…そんなことしたらこの前みたいに…」
「ええ。ですがそうなると困るのはバンドウ様なのではないですか?冒険者が何度もギルドで暴れるなんて、お仕事も信頼も…全て失ってしまいますよ??」
やはり脅しの様だ…。でも何でこんなことを…
「リリアさん…何でこんなことをするんですか?」
「うーん、こんなことをしておいてなんなのですが…バンドウ様の信頼を得るため?ですかね。それに私はバンドウさまの"秘密"を知っていますし」
リリア嬢の純粋な笑顔が余計に俺の不安を煽る。
「…わかりました。弱みを握られてるのは僕の方ですからね…。僕がリリアさんの正体をバラせば僕の呪いの事を広めるんですよね?」
「流石バンドウ様です。理解が早くて助かりますね」
俺は気になっている事をリリア嬢に問う。
「それで…こんな事をして、僕に何をさせるつもりですか??」
リリア嬢は相変わらず一見すると無垢で美しい笑顔を浮かべて…
「そんな警戒なさらないでください。私はただバンドウ様と"契約"を交わしたいと思っているのです」
「契約?…一体それは…」
それからリリア嬢は"契約"の内容について話し始めたのだった。
リリア嬢の普段と変わらない和かな表情が、かえって俺の不安を煽る。
何故一介のギルド職員であるリリア嬢が、街のヒーラーも神官も分からなかった俺にかけられている呪いの正体に心当たりがあるのだろうか…。
俺は冒険者ギルドの中の一室に入り、リリア嬢の対面の席に座る。部屋の中には俺とリリア嬢二人きりだ。
「り、リリアさん。それで狂戦士というのは一体…」
「バンドウ様?世の中には生まれながらにして特殊技能(スペシャルスキル)を持つ人がいますよね?」
特殊技能(スペシャルスキル)とは"人間種"だけが持つ特殊な能力のことで、その習得は完全に先天的なものであり、習得しようと思って習得できるようなものではない。ごく稀にそう言った能力を持って生まれてくる人がいるのだ。そして特殊技能があるかどうかを判断するのは非常に難しいと言われている。特殊技能の有る無しを判断できる古代具なんかも存在しているらしいが…。
そもそも特殊技能とは習得する確率や習得した特殊技能の内容も千差万別で、魔法の習得にかかる期間がおよそ半分に短縮するされる"魔導"や世にも珍しく、同じ重さの黄金以上の価値があるとされる古代具(アーティファクト)の位置を大凡特定することのできる"宝探人(トレジャーハンター)"などの非常に稀有で役立つ特殊技能がある一方で、いつでも現在の時刻が分かる"時間番人(タイムキーパー)"や明日の天気が分かる"予報人(プレディクター)"などあまり有用であるとは言えない特殊技能も存在している。
俺は記憶を引き継いで生まれていた為、幼い頃の暇な時間に孤児院にあった本を読み漁ってこの様なこの世界の常識といえる知識を得ていたのだ。
「い、いますね。それで狂戦士というのは特殊技能の一種…なんですか?」
「私が昔祖父から聴いたお話の中に、こんな英雄譚がありました…」
それからリリア嬢は遠い目をしながら突然語り始めた。
「昔昔…そのまた昔の話です。人族はとある一匹のドラゴンによって支配されていました。そのドラゴンは巨大な翼と牙…それに魔法や斬撃など全てを弾く堅牢な鱗を持っていて、反抗する人間はその大きな口から吐かれる灼熱の炎によって燃やされてしまいました。やがて強大なドラゴンの力を前に人族の反抗心も恐怖によって打ち消され、そのドラゴンの支配は長きに渡りました。親から子へ、さらにその子供へと何代にも渡り人々を過酷に働かせては面白半分に殺す日々が続いたのでした。しかし、ドラゴンの支配立ち上がった人間が一人。彼には名前はありませんでした。彼は"生まれながらにして持っていたとある才"を存分に発揮して、長く人族を苦しめていたドラゴンを打ち倒したのでした。しかしその後、彼はその力を人族へと向け"本能の赴くままに暴れまわってしまう"のでした。彼の力を抑えることに成功した人族はその後、数千年に渡って繁栄を続けたのでした。めでたしめでたし」
話を終えたリリア嬢はこちらに笑いかける。
「どうでしたかバンドウ様?実はこのお話、所々省略されているらしいんですよ。何か詳しい説明の無い部分がありませんでしたか?」
「ドラゴンを倒した男…彼の力について説明されていない…のかな?」
リリア嬢は先程の純粋な笑顔とは少し違い、何か悪巧みをするような笑みを浮かべて…
「正解です。…実はこのお話、ありきたりな英雄譚に見えて"実話"らしいんですよ?」
「ほ、本当ですか?でも、何を理由にそんな…」
リリア嬢は席から立ち上がると、少しずつこちらに近づいて来る。
「バンドウ様にはお伝えしても良いかな?これから長いお付き合いになりそうだし」
リリア嬢は自らの唇に指を当て、自身の胸を強調させるような艶かしい姿勢で俺の真横に来る。
俺は息を呑み、緊張のあまり微動だにすることが出来ない。目の前に迫った強調されたリリア嬢の胸の谷間が目に入るが…直ぐに逸らして顔を伏せる。本当なら見つめたいものだが…それは無理だ。なぜなら基本的に童貞は奥手なのだ。いや、奥手だから童貞なのだ。
それに…こんな美人がこの距離に迫って来ることなんて人生で一度も…あっ!
リリア嬢の顔が俺の顔に真横に迫り、俺の耳元で艶めかしい声色で囁いた。
「私…実はギルドの受付嬢じゃなくて、とある国の"諜報員"なんですよ??」
ん??今なんて…
俺はリリア嬢の言葉の意味を確かめるべく、顔を動かそうとするも…
「あ、バンドウ様?動かないでくださいね?じゃないと抱きついちゃいますよ?」
リリア嬢は何を言っているのだろうか?これは脅し…なのだろうか?それに諜報員?!諜報員って確かスパイのような感じのはず…何故リリア嬢がそんなことを俺に言うのだろうか。
「な、何を言っているんですかリリアさん…そんなことしたらこの前みたいに…」
「ええ。ですがそうなると困るのはバンドウ様なのではないですか?冒険者が何度もギルドで暴れるなんて、お仕事も信頼も…全て失ってしまいますよ??」
やはり脅しの様だ…。でも何でこんなことを…
「リリアさん…何でこんなことをするんですか?」
「うーん、こんなことをしておいてなんなのですが…バンドウ様の信頼を得るため?ですかね。それに私はバンドウさまの"秘密"を知っていますし」
リリア嬢の純粋な笑顔が余計に俺の不安を煽る。
「…わかりました。弱みを握られてるのは僕の方ですからね…。僕がリリアさんの正体をバラせば僕の呪いの事を広めるんですよね?」
「流石バンドウ様です。理解が早くて助かりますね」
俺は気になっている事をリリア嬢に問う。
「それで…こんな事をして、僕に何をさせるつもりですか??」
リリア嬢は相変わらず一見すると無垢で美しい笑顔を浮かべて…
「そんな警戒なさらないでください。私はただバンドウ様と"契約"を交わしたいと思っているのです」
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