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第二章 勇者撃退
2F.勇者一行①
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王が伝令を告げた翌日、探索者ギルドは俄かに沸き立っていた。
「おい見たか? あの最重要依頼……」
「ああ、あれ一件攻略するだけで家がひとつ建っちまう……」
「おいおい、どんな大宮殿を建てるつもりだよ。家どころか、三代遊んで暮らせるぜ」
「必要練度も高くない……囮任務か……?」
「いや、噂によると……」
「ハイハーイ! みなさま盛り上がってるところすみません! こちらの〈王都〉勅令案件ですが、王は大ッッッ変お急ぎとのことです! 受ける気がない方は掲示板から速やかに退いてくださ~い!!」探索者ギルドの受付嬢が、そこいらの戦士よりもよく通る大音声で噂話を遮る。
「おはようシャミル。この依頼、僕が貰ってもいいかな?」金髪碧眼のいかにも勇者という出立ちの若い騎士が掲示板から任務票を千切り差し出す。
「あらあら、ファレルさま、いつもありがとうございます。ただこのご依頼なんですが、ひとつ条件がございまして……」
「だろうね。こんな破格のクエストはそうそうない。どんなカラクリだい?」
「〈勇者〉と僧侶の枠は既に埋まってしまってるんです。なんでも憲兵から直々にメンバーが充てられているらしく……。今回の任務では探索経験の豊富な補助職、特に罠や状態異常に強い僧侶や野伏職をご要望で……」
「なるほど、憲兵と宮廷魔法使いのお守りってワケか。それじゃあ僕はパスするよ、そもそも僕は〈勇者〉以外受けない主義なんだ」
「存じております。掲示板には未掲出なんですが、ファレル様にはこちらの任務なんかオススメしますよ……」
金髪碧眼勇者は真紅のマントを靡かせ、受付嬢とともに別室へ消えていった。
掲示板の前の人集りは勇者の登場前よりさらに盛り上がる。
「あいつら、絶対デキてるよな……」
「俺この前、市場の外れで私服の二人を見たぜ……」
「マジかよ!? シャミルって結婚してなかったか!? 詳しく聞かせろ……」
やる気のない、しかし大型案件を前にして別の依頼を受けるでもない探索者たちが噂話に花を咲かせる間、漆黒のローブを被った少女が、ファレルがもぎ取った依頼票を拾い上げた。
「ふーん、〈ドリヤーイ・ガルプ〉攻略ね……」
「ねぇ、あなた」少女がシャミルとは別の受付嬢に依頼票を渡す。
「この依頼、受けるわ」
「は、はぁ……。新人さんですか? お見かけしない顔ですが……。確かに必要練度は一般的な水準ですが、正直、まだあなたには荷が重いかと……」シャミルとは違い、大人しそうな受付嬢は、差し出がましいかもしれませんが……と善意の忠告をする。貴重な探索者が無謀な挑戦で命を落としてしまわないよう、適性を計るのも受付嬢の大事な仕事だ。
「あら、さっきの不倫女と違って仕事熱心な人もいるのね。確かにこのギルドでは依頼を受けたことはないわ。東方のとある国で修行を積んできたところなの。腕試しにちょうど良さそうじゃない」
「はぁそうですか……。では、お名前とレベル、ご職業をおうかがいします」
少女が目深に被った漆黒のローブを解く。声の印象よりも遥かに幼い。しかし東洋のものだろうか、ここらでは見かけない形の一本の長い刀を腰に佩いていた。
「エリザベート・バートリー・フォン・エセット。レベルは97。職業は〈暗黒騎士〉よ」
少女は腰の刀のように長い犬歯を悪戯っぽく見せ、自らが〈吸血鬼〉の末裔であることも開示した。
「おい見たか? あの最重要依頼……」
「ああ、あれ一件攻略するだけで家がひとつ建っちまう……」
「おいおい、どんな大宮殿を建てるつもりだよ。家どころか、三代遊んで暮らせるぜ」
「必要練度も高くない……囮任務か……?」
「いや、噂によると……」
「ハイハーイ! みなさま盛り上がってるところすみません! こちらの〈王都〉勅令案件ですが、王は大ッッッ変お急ぎとのことです! 受ける気がない方は掲示板から速やかに退いてくださ~い!!」探索者ギルドの受付嬢が、そこいらの戦士よりもよく通る大音声で噂話を遮る。
「おはようシャミル。この依頼、僕が貰ってもいいかな?」金髪碧眼のいかにも勇者という出立ちの若い騎士が掲示板から任務票を千切り差し出す。
「あらあら、ファレルさま、いつもありがとうございます。ただこのご依頼なんですが、ひとつ条件がございまして……」
「だろうね。こんな破格のクエストはそうそうない。どんなカラクリだい?」
「〈勇者〉と僧侶の枠は既に埋まってしまってるんです。なんでも憲兵から直々にメンバーが充てられているらしく……。今回の任務では探索経験の豊富な補助職、特に罠や状態異常に強い僧侶や野伏職をご要望で……」
「なるほど、憲兵と宮廷魔法使いのお守りってワケか。それじゃあ僕はパスするよ、そもそも僕は〈勇者〉以外受けない主義なんだ」
「存じております。掲示板には未掲出なんですが、ファレル様にはこちらの任務なんかオススメしますよ……」
金髪碧眼勇者は真紅のマントを靡かせ、受付嬢とともに別室へ消えていった。
掲示板の前の人集りは勇者の登場前よりさらに盛り上がる。
「あいつら、絶対デキてるよな……」
「俺この前、市場の外れで私服の二人を見たぜ……」
「マジかよ!? シャミルって結婚してなかったか!? 詳しく聞かせろ……」
やる気のない、しかし大型案件を前にして別の依頼を受けるでもない探索者たちが噂話に花を咲かせる間、漆黒のローブを被った少女が、ファレルがもぎ取った依頼票を拾い上げた。
「ふーん、〈ドリヤーイ・ガルプ〉攻略ね……」
「ねぇ、あなた」少女がシャミルとは別の受付嬢に依頼票を渡す。
「この依頼、受けるわ」
「は、はぁ……。新人さんですか? お見かけしない顔ですが……。確かに必要練度は一般的な水準ですが、正直、まだあなたには荷が重いかと……」シャミルとは違い、大人しそうな受付嬢は、差し出がましいかもしれませんが……と善意の忠告をする。貴重な探索者が無謀な挑戦で命を落としてしまわないよう、適性を計るのも受付嬢の大事な仕事だ。
「あら、さっきの不倫女と違って仕事熱心な人もいるのね。確かにこのギルドでは依頼を受けたことはないわ。東方のとある国で修行を積んできたところなの。腕試しにちょうど良さそうじゃない」
「はぁそうですか……。では、お名前とレベル、ご職業をおうかがいします」
少女が目深に被った漆黒のローブを解く。声の印象よりも遥かに幼い。しかし東洋のものだろうか、ここらでは見かけない形の一本の長い刀を腰に佩いていた。
「エリザベート・バートリー・フォン・エセット。レベルは97。職業は〈暗黒騎士〉よ」
少女は腰の刀のように長い犬歯を悪戯っぽく見せ、自らが〈吸血鬼〉の末裔であることも開示した。
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