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第一六話 罠
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二月十四日、瀬名は北田の部屋に向かおうとしていた。出かけようとした矢先、スマホが鳴る。画面には新井莉々子の文字。
「もしもし?」
「あたし。春雪さん、今すぐ来て」
「すみません、俺これから用事が…」
「いいから来て!来てくれないとベランダから飛び降りるから!」
「はっ?何があったんですか!?」
「何でもいい、お願い、今すぐ来てほしいの。他の人や警察に言ったら、すぐに飛び降りるから」
行くべきかどうか瀬名は迷った。莉々子の切羽詰まった声は冗談で言っているようには聞こえなかった。
「くそ…しかたない」
瀬名は急いで莉々子のマンションに向かった。
部屋に入るとそこには笑顔の莉々子がいた。
「あの、新井さん?大丈夫ですか?飛び降りるって…」
「ああアレ?嘘に決まってるじゃないですかぁ、春雪さんに会いたかっただけ。春雪さんは優しいから、絶対に来てくれると思ってました」
にこっと無邪気な笑みを浮かべる。
「嘘…?嘘で俺を呼び出したんですか?」
「もう、嘘でもなんでもいいでしょ?さ、早く中に入って」
瀬名はふつふつと怒りがわいてきた。
「あなたの勝手な都合で振り回さないでください。どれだけ心配したと思ってるんですか?帰ります。俺は大事な用事が…」
瀬名がそう言うと、莉々子はスッ、と笑顔が消えて真顔になる。
「早く入ってって言ってるでしょ、春雪さん」
その手にはいつの間にか、鋭利な包丁が握られていた。
「なっ!?」
莉々子はそれを自分の手首にあてがう。薄い皮膚が切れてつうっと一筋の血が流れた。
「やめてください!!」
止めようとする瀬名を莉々子は制止する。
「あなたのせいよ?あなたのせいであたしの手首に傷がついた。あたしのいう事を聞かないと、もっと力を入れるから」
訳がわからなかったが、瀬名はアイドルの肌に目の前で傷がついたことが大きなショックだった。
「わかったから、包丁を置いてください」
「そう、それでいいの」
莉々子は満足そうに笑うと、瀬名を部屋の中に招き入れ、ソファに座らせた。
「で、俺は何をすれば?」
「私と結婚して」
瀬名は莉々子を刺激しないように努めて冷静な声で言った。
「すみませんが、俺はあなたとは結婚できません」
「どうして?あたしの何がいけないの?他に好きな人がいるの?」
瀬名の眉がぴくっと動く。正直に言うわけにはいかなかった。
「いませんよ」
「だったらあたしと結婚して。あたしと結婚してくれたら、あなたをXXテレビの取締役に就かせてあげる」
「結構です」
「欲しいものは何でも買ってあげる、マンションでも車でも」
「そんなの、いらない」
そこで莉々子の口元が大きくゆがみ、大きな声でうわぁんと泣き出した。
「ちょっと、新井さん…!」
「いいわ!だったらあたし、今ここであなたに犯されたってみんなに言いふらすから!」
瀬名の顔が青ざめる。
「それだけは…」
うろたえる瀬名を見て莉々子はクスクスと楽しそうに笑う。目からは涙が流れていない。
「だからもう勝手に帰ったりしないでね、春雪さん。あなたはあたしのものよ」
そう言って莉々子は、鼻歌を歌いながら紅茶を淹れ始めた。
「もしもし?」
「あたし。春雪さん、今すぐ来て」
「すみません、俺これから用事が…」
「いいから来て!来てくれないとベランダから飛び降りるから!」
「はっ?何があったんですか!?」
「何でもいい、お願い、今すぐ来てほしいの。他の人や警察に言ったら、すぐに飛び降りるから」
行くべきかどうか瀬名は迷った。莉々子の切羽詰まった声は冗談で言っているようには聞こえなかった。
「くそ…しかたない」
瀬名は急いで莉々子のマンションに向かった。
部屋に入るとそこには笑顔の莉々子がいた。
「あの、新井さん?大丈夫ですか?飛び降りるって…」
「ああアレ?嘘に決まってるじゃないですかぁ、春雪さんに会いたかっただけ。春雪さんは優しいから、絶対に来てくれると思ってました」
にこっと無邪気な笑みを浮かべる。
「嘘…?嘘で俺を呼び出したんですか?」
「もう、嘘でもなんでもいいでしょ?さ、早く中に入って」
瀬名はふつふつと怒りがわいてきた。
「あなたの勝手な都合で振り回さないでください。どれだけ心配したと思ってるんですか?帰ります。俺は大事な用事が…」
瀬名がそう言うと、莉々子はスッ、と笑顔が消えて真顔になる。
「早く入ってって言ってるでしょ、春雪さん」
その手にはいつの間にか、鋭利な包丁が握られていた。
「なっ!?」
莉々子はそれを自分の手首にあてがう。薄い皮膚が切れてつうっと一筋の血が流れた。
「やめてください!!」
止めようとする瀬名を莉々子は制止する。
「あなたのせいよ?あなたのせいであたしの手首に傷がついた。あたしのいう事を聞かないと、もっと力を入れるから」
訳がわからなかったが、瀬名はアイドルの肌に目の前で傷がついたことが大きなショックだった。
「わかったから、包丁を置いてください」
「そう、それでいいの」
莉々子は満足そうに笑うと、瀬名を部屋の中に招き入れ、ソファに座らせた。
「で、俺は何をすれば?」
「私と結婚して」
瀬名は莉々子を刺激しないように努めて冷静な声で言った。
「すみませんが、俺はあなたとは結婚できません」
「どうして?あたしの何がいけないの?他に好きな人がいるの?」
瀬名の眉がぴくっと動く。正直に言うわけにはいかなかった。
「いませんよ」
「だったらあたしと結婚して。あたしと結婚してくれたら、あなたをXXテレビの取締役に就かせてあげる」
「結構です」
「欲しいものは何でも買ってあげる、マンションでも車でも」
「そんなの、いらない」
そこで莉々子の口元が大きくゆがみ、大きな声でうわぁんと泣き出した。
「ちょっと、新井さん…!」
「いいわ!だったらあたし、今ここであなたに犯されたってみんなに言いふらすから!」
瀬名の顔が青ざめる。
「それだけは…」
うろたえる瀬名を見て莉々子はクスクスと楽しそうに笑う。目からは涙が流れていない。
「だからもう勝手に帰ったりしないでね、春雪さん。あなたはあたしのものよ」
そう言って莉々子は、鼻歌を歌いながら紅茶を淹れ始めた。
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