上司がお姫様の霊に憑かれたら

黎泉いろは

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第十話 告白

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週末、二人は瀬名が予約してくれたレストランへ行った。有名な高級店だ。瀬名はいくらでも好きなのを頼めと言って、高いワインまで注文してくれた。まるでデートみたいだ、と北田は思った。

「ところで、話って何ですか?」
「ここではちょっと言いにくい」
「それなら、瀬名さんの家に行ってもいいですか?これから。そこなら気兼ねなく話せますよね」

瀬名は少し黙ったあと、こくんと頷いた。

二人はレストランを出て瀬名の住むマンションに向かった。
上層階にあるその部屋は、北田が想像していた通り広くて綺麗に整えられていた。

ソファに座り、瀬名が出してくれたワインを飲む。しばらくして瀬名が思い切ったように口を開いた。

「あらためて、この前の除霊の件、助けてくれてありがとう」
「いいんです。俺のほうこそ…」

忘れられない経験をさせてくれてありがとうございます、と言いそうになって、北田は慌てて口を噤んだ。二人の間に長い沈黙が流れる。

「だめだ、俺、もう我慢できない」

突然、瀬名はそうつぶやいた。

「俺、お前のことがずっと好きだったんだ」

予想外の言葉に、北田はぽかんと口を開けたまま固まった。

「お前が入社してきた時からずっと、気になってしょうがなかった。自分の気持ちを隠すために、お前にはきつい言い方ばかりしてしまった。だからお前は、俺のことなんか嫌いだと思う。でも…」

瀬名は泣きそうな顔をした。

「でもあの日、お前とあんなことになって、もう自分の気持ちが抑えられないんだ」

彼は一気にそう言うと、唇を噛んだ。

「悪い…突然こんなこと言って。今言ったことは忘れてくれ」

北田はしばらく黙っていた。うつむいた瀬名の手にそっと触れる。

「忘れられませんよ。今の言葉も、この前のことも。俺もあの日から、ずっと瀬名さんのことばかり考えているんです。仕事中も気になってどうしようもなくて。俺、自分がどうかしちゃったんだと思って、毎日しんどかった」

北田は思い切って言った。

「俺も、瀬名さんが好きです」

瀬名は信じられないという顔で、しばらく北田の顔を見つめていた。やがてお互いの胸の中に甘い幸福感がじんわりと満ちてきた。

「キス、しても良いですか?」
「うん…」

とろけそうなほど長いキス。そのあとで北田がささやく。

「瀬名さん、お願いがあるんです」
「なんだ?」
「二人きりの時は“春雪”って呼んでも良いですか?」
「そんなこと、いいに決まってるだろ」
「やった、じゃあ、俺のことも“竜臣”って呼んでください」
「わかった…竜臣」

北田は嬉しそうに瀬名を抱きしめると、勢いよくソファに押し倒した。
そのまま服を脱がそうとしたところで…

「うーん…なんかぐらぐらする…」

瀬名はそうつぶやくと、かくんと眠ってしまった。

「え!?春雪さん?」

すやすやと安らかな寝息を立てる瀬名。ワインの飲み過ぎで完全に酔っ払っているようだ。どうすることもできずに固まる北田。

「嘘…この状態でお預けかよっ!!」

北田は悔しがりながらも、瀬名をきちんとベッドに運んだ。結局その日二人は、何もせずに一つのベッドでぐっすりと眠ったのだった。
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