上司がお姫様の霊に憑かれたら

黎泉いろは

文字の大きさ
上 下
10 / 20

第十話 告白

しおりを挟む
週末、二人は瀬名が予約してくれたレストランへ行った。有名な高級店だ。瀬名はいくらでも好きなのを頼めと言って、高いワインまで注文してくれた。まるでデートみたいだ、と北田は思った。

「ところで、話って何ですか?」
「ここではちょっと言いにくい」
「それなら、瀬名さんの家に行ってもいいですか?これから。そこなら気兼ねなく話せますよね」

瀬名は少し黙ったあと、こくんと頷いた。

二人はレストランを出て瀬名の住むマンションに向かった。
上層階にあるその部屋は、北田が想像していた通り広くて綺麗に整えられていた。

ソファに座り、瀬名が出してくれたワインを飲む。しばらくして瀬名が思い切ったように口を開いた。

「あらためて、この前の除霊の件、助けてくれてありがとう」
「いいんです。俺のほうこそ…」

忘れられない経験をさせてくれてありがとうございます、と言いそうになって、北田は慌てて口を噤んだ。二人の間に長い沈黙が流れる。

「だめだ、俺、もう我慢できない」

突然、瀬名はそうつぶやいた。

「俺、お前のことがずっと好きだったんだ」

予想外の言葉に、北田はぽかんと口を開けたまま固まった。

「お前が入社してきた時からずっと、気になってしょうがなかった。自分の気持ちを隠すために、お前にはきつい言い方ばかりしてしまった。だからお前は、俺のことなんか嫌いだと思う。でも…」

瀬名は泣きそうな顔をした。

「でもあの日、お前とあんなことになって、もう自分の気持ちが抑えられないんだ」

彼は一気にそう言うと、唇を噛んだ。

「悪い…突然こんなこと言って。今言ったことは忘れてくれ」

北田はしばらく黙っていた。うつむいた瀬名の手にそっと触れる。

「忘れられませんよ。今の言葉も、この前のことも。俺もあの日から、ずっと瀬名さんのことばかり考えているんです。仕事中も気になってどうしようもなくて。俺、自分がどうかしちゃったんだと思って、毎日しんどかった」

北田は思い切って言った。

「俺も、瀬名さんが好きです」

瀬名は信じられないという顔で、しばらく北田の顔を見つめていた。やがてお互いの胸の中に甘い幸福感がじんわりと満ちてきた。

「キス、しても良いですか?」
「うん…」

とろけそうなほど長いキス。そのあとで北田がささやく。

「瀬名さん、お願いがあるんです」
「なんだ?」
「二人きりの時は“春雪”って呼んでも良いですか?」
「そんなこと、いいに決まってるだろ」
「やった、じゃあ、俺のことも“竜臣”って呼んでください」
「わかった…竜臣」

北田は嬉しそうに瀬名を抱きしめると、勢いよくソファに押し倒した。
そのまま服を脱がそうとしたところで…

「うーん…なんかぐらぐらする…」

瀬名はそうつぶやくと、かくんと眠ってしまった。

「え!?春雪さん?」

すやすやと安らかな寝息を立てる瀬名。ワインの飲み過ぎで完全に酔っ払っているようだ。どうすることもできずに固まる北田。

「嘘…この状態でお預けかよっ!!」

北田は悔しがりながらも、瀬名をきちんとベッドに運んだ。結局その日二人は、何もせずに一つのベッドでぐっすりと眠ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

処理中です...