上司がお姫様の霊に憑かれたら

黎泉いろは

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第八話 成仏※

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キスの最中に、瀬名は突然目を見開き身を硬直させた。

「んーっ!んんっ!!」
「どうなされました?姫」

余韻に浸っていた北田は、彼に甘く問いかけた。

「何をしてる!北田っ!!!」

あれ?と北田は思った。この言い方、これいつもの瀬名さんじゃ…

「…もしかして、元に戻りました?」

まさかこのタイミングで、雪姫は成仏して瀬名の意識が戻ったようだ。
彼は唇をわなわなと震わせて、目を真っ赤にして今にも泣きそうな顔をした。

意識が戻ったらなぜか全裸で、体中なにやらベタベタで、下半身に部下のアレを突っ込まれているのだ。そのショックときたら、言葉になんて表せるものじゃないだろう。

「あー、えっと…アハハ…これには深い事情があって…あ、今すぐどきますね」

北田は笑ってごまかすしかなく、抱きしめていた手を放し、彼のそこから自身を抜いた。

「っっ!?」

ぬるり、とそれを抜くと、瀬名の奥からとろりとした白濁が漏れた。その感触に瀬名は目を見開いた。

「……」

長い沈黙が流れる。

「あの…瀬名さん、事情は後で説明するとして、とりあえずシャワーでも浴びますか」

北田は互いの頭を冷やすために、彼に浴衣を羽織らせて、シャワー室に誘導した。

***

二人はシャワーの後で布団の上に座った。

北田は廃神社で瀬名の様子がおかしくなったところから、全て話して聞かせた。

「…ということは、お前は除霊のために俺を抱いたのか?」

瀬名は怒りはしなかったが、感情を殺しているような話し方をした。当然だ、と北田は思った。除霊のためとはいえ、意識がない間に勝手にこんなことをされたのだから。

「すみませんでした」

北田は謝罪した。もしかしたら俺、セクハラで訴えられるかも、と覚悟した。

「ありがとう…北田」

しかし、瀬名は小さな声でそう言った。

「お前が体を張ってくれたから、俺は助かった。本当にありがとう」

そう言って深々と頭を下げられ、北田は予想外の反応に慌てた。

「い、いえ、別に、そんな大したことじゃないっすから…」

瀬名はそのあと何かを言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。

すでに深夜だったので休むことにして、翌朝二人はすぐに神主のところにお礼に行った。

「おお、元に戻ったか。良かった良かった!」

帰り際、北田は何となく気になっていたことを神主に聞いた。

「なぜ雪姫は、女の人じゃなくて瀬名さんに取り憑いたんですかね?あの場には女性スタッフもいたのに。普通、女性に取り憑いたほうが都合がいいのでは?」

その問いに神主はさらりと答えた。

「それはあの瀬名という若者が雪姫と同じ気持ちを持っていたからだろう。一番取り憑きやすかったのだ」
「それってどういう意味です…?」
「本人に聞いてみろ」

神主はぶっきらぼうに言うと行ってしまった。北田は結局その言葉の意味が分からなかったが、とりあえずこれで一件落着だ、と安堵した。
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