上 下
1 / 22
本編

生徒会室でお願いを

しおりを挟む
隆嗣たかつぐぅ、何とかしてよぉ』
『全くしょうがないんだから、清羅せいらは』

 幼い頃から、何度繰り返されたかわからないやりとり。
 どんなに困ったときでも、何とかしてくれるって、思っていたから。








「生徒会長、就任、おめでとう、清羅」

 清羅をソファに組み敷いて、にっこりと笑うのは、清羅の右腕となる副会長、隆嗣たかつぐだ。
 冷静沈着、眉目秀麗、文武両道、完全無欠の王子様である。
 後期に入ってすぐの今回の生徒会長選挙で、彼女と彼はめでたく会長・副会長の座を射止めたのであった。

 ここは生徒会室、生徒会長になったばかりの清羅の城である。
 先程まで行われていた生徒会長選挙のざわめきがまだ校内には残っている。三々五々生徒達は帰っていって、校舎の端っこにある生徒会室には、放課後特有の埃っぽい静けさが漂っている。

「……隆嗣のくせに生意気!」

 お姫様みたいとよく褒められる長い黒髪を背中の下に敷いて、清羅は噛みつくように答えた。 勢いひっぱられたうなじが痛い。
 だけで、怯えてなどいない。振り回してばかりの幼馴染みに押し倒されたところで……。

 そう。

 どうして、清羅は、こんな風に隆嗣に押し倒されて、今にも食べられる獲物みたいな格好になっているんだろう?





 そもそも清羅が生徒会長になったのは、彼女の生来のお調子者気質のせいに他ならない。
 クラスメイト達にまたぞろ担ぎ上げられて、いい気になって立候補。
 あげつらった公約は、教師は眉を顰める、学生本意で奔放なものばかり。いざ生徒会運営だとか、実務として何をするだとかは、全く興味が無いし見当もつかない。なんて、選挙演説で言えるはずも無く、引っ張りこまれたのが、幼なじみの隆嗣だ。
 隆嗣の父母は外国暮らしで、縁あって、隆嗣は清羅の祖母の家で暮らしていた。高校入学を機に、清羅も学校に地の利がある祖母の家に暮らすことになり、二人は同居までしている。幼馴染みオブ幼馴染みと言って過言ではない。

「同棲じゃないからね!」
「……誰に言ってるんです」

 しかしこの隆嗣ときたら、王子様然とした印象に反して、非常に頭が固い。締まり屋で、とにかく清羅に口うるさい。清羅の父母も隆嗣にいつまで経っても無鉄砲なところの抜けない清羅のお目付役を期待していたのだから、彼女に逆らえようもない。
 同居はそれに拍車をかけた。唯一祖母だけは、清羅の味方であったが、これもまた、隆嗣の恐るべし微笑ブラックスマイルの前には頬を染めた乙女になってしまうのだから、たまったものではない。

「毎度毎度清羅の尻ぬぐいをしてきましたが、まさか生徒会までやらされるとは思いませんでした」
「だ、だからそれはさぁ……みんなにあそこまで言われたら、会長立候補するしかないし!」
「……約束、覚えてますよね」

 清羅を見下ろす長い睫を揺らして、隆嗣は唇を弧に引いた。男のくせに赤い唇は、そうすると蠱惑的でさえある。細い鼻梁に長めの柔らかそうな前髪が落ちかかり、やっと男だと主張する顎の骨のあたりも隠してしまう。

「お、覚えてるけど……あっ、晩御飯のデザートあたしの分あげるし!」

 清羅はこのソファに押し倒されている態勢を何とかしたいと切に願っている。断じて隆嗣に見とれてなどいない!
 隆嗣が気品高いサラブレッドに例えられるなら、清羅は拾われた獣の子みたいなものだ。しつけられておらず、警戒心があるようで、うっかり甘い餌につられたりする。
 甘い餌!

 いつもいつも、いつもいつもいつも。

『隆嗣ー! 助けて!!』
『またですか……』

 清羅は、頭が悪いわけではないのだが、とにかく勉強が出来なかった。授業中、漫画を読んだり居眠りしてばかりいるのだから当たり前だ。テストの時は隆嗣に泣きついてヤマを張って貰う(流石にカンニングは怒られた)。
 それだけでない。すぐに人に持ち上げられると安請け合いをする清羅は、いつも隆嗣に縋った。隆嗣はあきれ顔で、それでも清羅を見捨てなかった。
 だから、今回の生徒会長選挙でも、清羅は隆嗣を頼ったのだが……。
 清羅はその時のことを思い出す。
 副会長に立候補してくれるように手を合わせた清羅に、隆嗣は長い長いため息をついて、 剣呑な光を美しい瞳に灯して言った。
『いいですよ、その代わり、君に僕のお願いを聞いて貰います』
 清羅は上機嫌で、『何でもきいちゃう!』と答えたのだった。




「何でも、って言いましたよね」
「うっ……あれは、つい……」

 見下ろしてくる隆嗣の目は、キャラメルみたいにうっとりした色をしている。
 つやつやした茶色で、こっくりと深みがある。

「……それにしてもよくもまあ、ぺらぺらと、恋愛禁止はやめて男女交際を認めるとか、制服を廃止するとか、適当に公約を並べ立てましたね」
「だ、だって、好き同士なのに、校則のせいで学校では他人みたいに過ごすなんておかしいし! 制服だって、好きな服着ればいいし!」
「それ、誰が実現させるんです」
「……ぇ? それは、ほらその……優秀な、副会長の隆嗣くんがですね……」

 はあっと隆嗣はこれ見よがしのため息をついた。吐息が清羅の頬をくすぐって、清羅は肩を揺らした。

「君は何にもわかってないですね。僕がついていなかったら、君なんてとっくのとうに誰かに利用されてーー心も体もずたぼろですよ」
「あの、……ね、いい加減に、上から、どいて」
「どきません。僕の言うことをきくんでしょう? 清羅」
「き、聞くってば! 聞くからどいて!」
「……制服、僕は好きですよ」
「……え?」
「君みたいなうつけた候補者を生徒会長にするために、僕もそれなりの労力を払いました」
「うつけ……? つけもの? 柴漬けおいしい……」
「対価を貰ってもいいでしょう」
「た、たいか? たいかのかいしん?」
「違います」

 隆嗣の長い指が、清羅の胸元にかかる。所謂良家の子女も多く通うこの学校の制服は、有名デザイナーによるもので、胸元には清羅にとっては非常に結ぶのが難しいネクタイがあった。
 隆嗣の指がネクタイの結び目に差し入れられる。しゅっと音がしたと同時に、清羅の首元が楽になる。

「た、隆嗣!? あたしネクタイ結ぶの苦手なのに!」
「だから毎朝僕がやってあげてるでしょう」
「さいしょっからほどかなきゃいいの……に……? え……?」

 隆嗣が手にした清羅のネクタイは、また締め直される。不思議なことに、清羅の両手首に。

「……え? 何で?」
「何ででしょうねぇ」

 体を屈めた隆嗣は、清羅の拘束された手首が作った輪に自分の頭をくぐらせた。
 そうすると、清羅は隆嗣の首の後ろに手を回して、まるで抱きついたようになってしまう。
 しかも――これで、両腕は完全に拘束されてしまった。

「え? はな、はなし? え?」
「随分大胆ですね」
「えっ……え……、ち、ちが、違うから! 違うし!」

 清羅がもがくと、二人は密着する。隆嗣が言うみたいに清羅が熱烈に抱擁を深くしているみたいだ。
 放して、と見た目には隆嗣を抱き寄せる清羅。隆嗣はまた唇をつり上げて笑うと、二人の体の間に、しなやかな手を差し入れた。

「……ちょ、ちょ、ちょっとぉおおおおっ!」
「小さいですね、知ってましたけど」
「たっ、なっ、そっ、ばっ」
「少しは落ち着きなさい、清羅。小さくとも機能的に問題なければいいんです」

 落ち着けるわけがない! 隆嗣の手は清羅の胸の膨らみの上に置かれていて、ふにふにとCカップの胸を揉んでいる。

「そんなに小さくないし!」
「では確かめてみましょう」

 ぺろんっと制服のブラウスがずり上げられる。清羅の白い肌が露わになった。下敷きにした長い黒髪とのコントラストが眩しい。

「ぎゃーっ! た、たかつぐ!」
「しぃっ」

 隆嗣は唇を窄めて、白い歯の間を息で鳴らした。

「僕の言うことを聞く約束です、清羅。約束は……」
「ま、まもる、まもるけど」
「じゃあ静かにして下さい」

 また、ブラジャーの薄いレースの上から胸がふにっと揉まれて、ついでにかりっと爪で胸の先端を擦られて、清羅は悲鳴を上げた。

「ひ、ひぁあんっ! 変なことしないで!」
「……腹が立つくらい見た目だけはかわいいんだから」

 レース越しに指は先端を繰り出すように、未熟な蕾をつまみ揉む。

「や、やぁん……う、ふぅん……」
「……清羅、静かに」
「無理ぃっ……! たかつぐの指、だめぇっ……!

 清羅の視界がふいに陰った。そして、清羅の唇に濡れた熱いものが触れた。
 それはすぐに離れる。

「……へ?」

 大きな目をまん丸にした清羅に、隆嗣はふっと甘く微笑む。

「な、なに、今の、ま、ままま、ま、ま」
「ほらまた、静かに」
「だ、だって、たかつ、いま、く、くち」
「……まったく、清羅は仕方ないな」

 今度は確信を持って、唇があわされた。
 清羅は一度ぐっと目を閉じ、異様な感触にかっと目を開く。
 異様なのは、口の中だ。唇の間から、温かくて弾力のあるものが入ってきて、清羅の口内をなめ回す。
 間近に隆嗣の瞳があって、それはもう、焦点も合わないくらい近い。

 ――これ、隆嗣の、舌……!

「んっ……んぅっ……んっ……!」

 小さい頃からよく知った幼なじみの、初めて知る舌の感触。舌は清羅の口の中をいっぱいにして、どこもかしこも形を確かめようとする。
 ちゅるんと口蓋を擽られて、清羅は腰を跳ね上げた。
 くっと隆嗣が喉で笑ったのがわかって、清羅の頬が熱を持つ。

「……ふぁっ……」

 唇が離されて、名残惜しく唾液が顎を伝う。
 一度離れた隆嗣の顔が再び近づいて、今度は額と額がくっついた。

「……せいら」

 隆嗣は低く擦れた声で囁いた。
 じん、と清羅の唇が、舌が、全身が熱を帯びる。

「……僕のお願い、叶えてくれるんでしょう?」

 いつも決まって、喉が痛くなると高熱が出る。その時の予徴に似ている。背筋はぞくぞくして、腰のあたりが震えてくる。膝はがくがくと力が入らなくて、拘束された腕が痺れて怠い。
 瞼の裏はひりひりする。
 隆嗣の指が、清羅の髪を一房掬って、自分の唇に触れさせる。見下ろしてるのに上目遣いで、じっとりと清羅の潤んだ目の赤くなったふちや、調子のいいことばかり言ってきたぷっくり膨らんだ唇をなぞる。
 ひどい寒気。
 とてもとても悪い、熱病の予感。
 清羅は震える唇で、「お願いって、なに?」と、隆嗣に聞いた。
 彼はやはり、長く、そして、熱いため息をついて、清羅の耳元に囁いた。

「……清羅を、僕にください」

 意味を理解する前に、再び唇が塞がれる。「だめ」という言葉はキスに飲み込まれ、隆嗣は幼馴染みから猛獣へ、清羅はまんまと彼の罠にはまっていくのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

夫は親友を選びました

杉本凪咲
恋愛
窓から見えたのは、親友と唇を重ねる夫の姿。 どうやら私の夫は親友を選んだらしい。 そして二人は私に離婚を宣言する。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

体育教師たちやお医者さまに特別なご指導をしてもらう短編集

星野銀貨
恋愛
リンク先のDLsiteに置いてある小説のエッチシーンまとめ読みです。 サークル・銀色の花で色々書いてます。

処理中です...