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禁断の果実は何色か
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まだリトは理解できない。自分と、王子の身に起こったことが。繰り返すはずだった日々が途切れ、こうして王子に組み敷かれていることが。
夜の闇、乱れた足音、怒号、剣戟に特有の、鉄と鉄が激しくぶつかり合う音。
「リト、何を考えてるの? 言ってくれなきゃわからない」
リトは、仰向けになった自分の腹を見下ろす。うっすらと筋肉の盛り上がりを見せる平たい腹、そのへそを降りる丘が、今は膨らんでいるように見える。
挿入っているのだ、そこに。リトの体はぶるりと震えた。
股関節を押し開くように、王子の腰が押しつけられている。内股を絹が滑り、同時に開かれていた場所から、彼女を傷つけるばかりの凶器に似た欲望が、ずるずると出て行く。泡だった体液が、またパタパタとささくれだった木の床に落ちた。
「もう、こんなことは、やめて……くださ……」
「お腹空いた? 俺、さっき木の実を摘んできたんだよ」
リトは涙に重い瞼を押し上げて、彼の顔を見上げる。
王子は、まるきり朗らかな笑みを、形良い唇に浮かべていた。
ずるりと完全に結合が解かれた瞬間、リトは怖気に顔を背けた。
王子は、戸口近くにおいてあった布の包みを持ってきて、リトに掲げる。
「ほら」
包みは簡単にほどけ、そこから赤い実がこぼれ、彼女の腹の上に散らばった。
女にしては荒れた肌、手足は洗い晒した麻の色に似て日焼けしている。肌を出すことをためらうこともなかったが、それでも腹や胸のあたりは手足に比べれば白く、そこに赤い実は妙に鮮やかに広がった。
「いい匂いだよね」
王子は白く濁った目に、まるで実を映したように、ためらいなく、彼女の腹の上から一つ、つまみ上げた。
そのまま口に運ぶ、瞬間、リトは叫んだ。
「いけません! もし、毒だったら」
リトはもう、王子の薄い唇と、隙間からのぞく整った白い歯の並びしか見えないくらいの勢いで、重ねて叫んだ。
「私が先に食べますから、それからにして下さい」
リトの目の前で、王子が摘んだ実を離す。赤い実は床に静かに転がった。
「……騎士って大変だね。毒味もするんだ」
「王子、大事なことです。王子は実がなっていた木の、葉の形がわかりますか? 食べられる実と、そうでない実と」
「うるさいよ」
王子は、また一つ、腹の上から赤い実を摘んだ。
「そんなに食べたいなら、こっちの口で食べてみる?」
「王子っ…なにを、す」
あとは言葉にならなかった。彼女の引き締まった両足を持ち上げられたからだ。
赤ん坊がおしめを換えられるときの格好だ。気づいてリトは頭が沸騰しそうな程の羞恥に震えた。
「膝、自分で抱えて。仮にも騎士なら、命令には従うよね」
そう言われると、逆らいようもない。リトは震えながら自分の膝に腕を通し、胸に引きつけた。
「ふっ……」
淡々と命令に従えればよいのに、吐息まで震えてしまう。
「ほら、リトのお口が物欲しそうに涎を垂らしてるよ」
「……み、見えないくせに!」
リトの乙女らしい反発は、王子を喜ばせたようだった。その優美な指を、リトの足の間に伸ばし、触れる。
「やぁっ……!」
「足、離すなよ」
まだそこは十分に滑りを帯びている。リト本人すら明らかでない造形を、王子は指で見ているのだ。
「ひっ……」
指を入れられ、内部で広げられると、清涼な空気が爛れきった粘膜の間に忍び入る。快楽を知らぬ肉洞は、徒にみだりがましく涎を溢れさせながら、指に怯え蠕動する。
「ほら、ここにさっきまで俺のが入ってたんだよ。わかる? このお口で上手にしゃぶってたね。嬉しかった? 王子様に犯されて、そりゃ名誉だっただろ」
詰られて、リトは命令を破った。膝を離して逃げようとしたが、ものすごい力で顎を捕まれる。
「ユーリ!」
「抵抗しろよ。自分は騎士じゃないって、王子のお守りはもうごめんだって言えばいい。そうしたら許してやる」
合うはずのない視線に貫かれて、リトは雷に打たれたように体を強ばらせた。
騎士でない――それはすなわち、王子との別離と同義だったからだ。
ユーリはリトが何に屈したのか知るまい。彼女が何を思って、自分で足を抱え、浅ましい姿を晒しているのか。
決して聞かすまいと、嗚咽をこらえるのはなぜなのか。ユーリは怒っている。今までになく激しく。その激情がぶつけられることを、リトは恐れながらも、心の奥底で受け入れていた。
「ほら、食べさせてあげる」
赤い実がねじ込まれる。指よりも丸く、欲望よりあっけない実は、易々と中に入った。それでも異物に浸食される気持ち悪さは拭えない。
「ふふ、押し出してくる」
彼女の内部は実を拒絶した。おし出そうとする粘膜の動きを楽しむように、ユーリは実を指で押さえる。それから奥まで押し込んだ。
「も、もう、入れないで」
「嘘、まだまだでしょ。……何個、入るかな」
悪戯をする子供のようだ。二つ目の実が押し込まれる。
赤い実、皮はぱつんと張っていた。親指と人差し指で輪を作ったのと同じくらいの大きさの木の実。それが滑りの力を借りて入ってくる。
ひとつめはまだ居心地の悪さですんだが、二つ目になると圧迫感が勝ってきた。
「もう……無理……」
「無理じゃないよ、頑張って。騎士だろう?」
その言葉は、深く彼女の胸に突き刺さった。こんな無様な格好をして、磔の兎のようになって、それで騎士と――胸を張れるのだろうか。
「いいよ、やめても。でも騎士もやめるんだ。俺の守護者から降りればいい」
低いささやきは、いっそ優しく、思いやりさえ感じられた。その声は、彼女のなけなしの意地に火をつけた。
「いやっ……、私は、ユーリの騎士……だから」
どんなことにでも耐える、命だって捨てられる。それで、そばにいられるなら――。
「強情だな」
三つ目の実が、めりめりと肉をこじ開けて入ってきた。苦痛にわななく狭い入り口を閉じさせるように、色の薄い花びらをいらってから、ユーリは顔を青ざめたリトの膝を下ろさせた。
「小屋の外に井戸があったよ。体、ずいぶん汚れちゃったから、きれいにするといいよ。ほら、立って、自分で歩いてね」
「ユーリ、これ、このまま……」
「早く行きなよ。自分で、立って、歩いて、……行け」
覚束ない足を床に着ける。体を動かす度に、内奥がごろごろする。腹に力を入れた瞬間に、こぼれ落ちてしまいそうだ。
リトはそれだけはならぬと、足の間に力を入れる。慎ましく口を閉じようと力を入れると、異物感はより強くなった。
「ユー、リ、あの」
「ほら、早く」
ユーリは戸口を指さした。リトは熱い吐息をこぼした。また力を入れる。異物感、そして痺れ。
一歩足を踏み出す。足裏から足の付け根へ甘い衝撃が走り抜ける。また力を入れると、木の実を含んだ部分から何かの波紋が広がる。
それは勢いよく彼女の下腹全体に広がる。
「ぁっ……」
思わず漏れた小さな喘ぎ。それを自分の耳で聞いて、リトは口を押さえた。
あまりにも甘い、媚びを含んだ喘ぎに聞こえたからだ。
「どうしたの、リト。早くさっぱりしておいで」
ユーリは悪戯な笑いを隠そうともせず、リトを急かす。
わかってる、うるさい、けれど口を開けば、喘ぎ声しかでない。
「ふぅっ…ん……」
必死に心の中で言い聞かせる。歩くだけ、たった数歩歩いて、扉を出ればいい。それまで何も感じないようにすればいい。何を感じないように。今、彼女を芯から支配しようとしつつある、恐ろしい何か、甘美なる。
「あぅ……」
一瞬気がゆるんで、足の間を温まった滑りが伝う。
締め直せば、脳天まで突き抜けるそれをもう、誤魔化しきれなくなった。
これはよろこびだ。
「あぁっ……でちゃ…ぅ……」
滑りが増して、押し入れられていた赤い実が、花びらの間から顔を覗かせる。
リトは、自分の熱く濡れそぼった場所を手で押さえようとした。そうすれば、排出を止められると思ったのだ。
しかし、その手はユーリによって掴みあげられる。
「何する気? ずるはだめだよ」
「やっ……だめっ……出ちゃうから……」
「早くおいでよ」
掴まれた手を引かれ、数歩歩かされると、もうこらえきれなくなった。
ちょうど戸口のあたりで、あっけなく限界が訪れる。
「あっ……あぁっ……ひっ……!」
ぬぅと口を押し広げ、太股の間を転がるようにして、木の実が床に落ちた。ぱたりと音がしたから、いいや、それ以上にリトの気配で、ユーリには伝わってしまう。
それは薄暗い室内においても、瑞々しさ以上の濡れた光沢を放つ。
「あっ……ご、ごめんなさい……」
リトは無体な仕打ちへの怒りよりも何よりも、主君の命令を守ることができない自分の惨めさに打ちのめされていた。そして、自分の体に快楽の萌芽を予感して、得体の知れない不安に襲われていた。
それらが渾然となって出た言葉だった。それだけだったが、ユーリは彼女の体を床に引き倒した。
「謝るな……っ!」
忙しなく両足を肩に抱え上げられる。
ひたりと足の間に熱く膨れ上がったものが押しつけられる。リトはもうその正体を思い知らされている。滑らかな粘膜が擦り合わされると、得も言われぬ心地よさが広がった。
痛みを与えるばかりの抱き方を、ユーリは変えようとしている。リトの体がそれをすぐに理解した。
指が、粘膜のふれあった部分の周りをくすぐり始める。
「あっ……そこ、いやっ……!」
「気持ちいいんだ。気持ちいいよね? ねえ、言ってリト」
滑りを広げ、擦り、弾き、つまみ、そのうちに押しつけられた先端がこじ入れられる。
「だめっ……! まだ、そこ入ってる……」
制止は聞き入れられず、まだ赤い実を二つばかり含んだ口に、太い先端が含まされる。
「ひぁっ…、もう無理……入らな……っ、あぁっ!」
こつんと底に何かが当たる。きっと実が、下から突かれて当たったのだ。だからもうそれ以上は入らない。けれど、ユーリはリトの腰を掴むと、己の欲望を突き入れた。
「あっ! あぁっ!」
体内で赤い実が潰れる。ぐじゅぐじゅと果肉と潰れ出た果汁を撹拌するように、奥深くまで押し込まれ、リトは陸に打ち上げられた魚のように身体を跳ねさせた。
限界以上に広げさせられた体内は、けれども先ほどまでよりも、幾分すんなりと長大な欲望を受け入れた。
それは、彼女の肉体が与えられる快楽に口を開ける雛のように、彼女の心と体に訪れる苦痛から気を反らす麻薬を見つけたように。
「溢れてきた、リト。潰れて……」
果皮は赤かったが、果汁は透明で、甘い匂いがあたりに立ちこめる。
「全部、かきだしてあげるね……」
浅く深く、彼女の体内を穿つ責め苦が始まった。まだ膨らみ切らぬ乳房を掴み、揉み立てられ、先端をつねりあげらる。
口づけの瞬間に、リトは涙を流した。
襲撃者の顔を、リトは見ていた。
城の離れに、ユーリは住んでいた。目の見えない彼は、万事整えられ、体よく遠ざけられていた。リトはそんなユーリの騎士として、彼の寝所のそばの部屋に控えているのが常だった。
だから、襲撃に気づいたとき、いち早くユーリの元に行くことができた。
あれは、ユーリの兄王子、アジーンが迎えた二人目の妻の側近だったはずだ。
アジーンには二人の妻がいた。一人目は、この国の市井から迎えたリーヌ、もう一人は隣国の姫、ユリ。
控えめで、穏やかで、気だての良さが評判のリーヌとはまるで逆の姫だった。
派手な顔立ちで、豊満な肉体。男と見れば寝所に引っ張り込む淫婦だと、嫁してきてすぐに噂になった。
けれど、アジーンもリーヌも、ユリを妻として尊重し、丁寧に扱っていた。リトも、ほかの騎士たちもそれに倣っていた。
けれど、リトは見たのだ。ユリの寝所に、ユーリが入っていく姿を。扉の間から、長い爪をした女の手が、目の見えないユーリの手を引くのを。
襲撃のことやこれからのこと、考えなければならないことは山ほどあった。
けれど、ユーリに揺さぶられながら、リトの頭に浮かんだのは一つだけだった。
(ユリ様を、私と同じように抱いたの? ただの女と同じように私を抱くの?)
「はっ……リト……リト……」
ユーリはリトの名前を呼びながら、激しく腰を打ち付ける。甘酸っぱい匂いに惑わされたように、リトは自らユーリの腰に足をからみつけ、彼の動きに拙くも応え始めていた。
内部を擦りあげられる度に、熱が膨れ上がり、もうその頂点が見えている。
ぐんと反り返り、リトの内部を抉る欲望は、いっそう太く膨れ上がって、彼の限界も近い。
「あっ…あっ…ユーリ……! こ、こわい……」
「……いいよ、いって、一緒にいこう」
獣のような息づかいだけになって、肌を打ち付けあう。
リトの喘ぎは悲鳴に近く、ユーリは険しい額に汗を浮かばせていた。
「あ――――――っ……」
突如、火花が散った。
世界が真っ白になる。
ずっと騎士であろうと思っていた。目の見えない乳兄弟を守るために、リトは意識を手放す寸前に、あの日、彼女が騎士になることを決心した日のことを思い出していた。
夜の闇、乱れた足音、怒号、剣戟に特有の、鉄と鉄が激しくぶつかり合う音。
「リト、何を考えてるの? 言ってくれなきゃわからない」
リトは、仰向けになった自分の腹を見下ろす。うっすらと筋肉の盛り上がりを見せる平たい腹、そのへそを降りる丘が、今は膨らんでいるように見える。
挿入っているのだ、そこに。リトの体はぶるりと震えた。
股関節を押し開くように、王子の腰が押しつけられている。内股を絹が滑り、同時に開かれていた場所から、彼女を傷つけるばかりの凶器に似た欲望が、ずるずると出て行く。泡だった体液が、またパタパタとささくれだった木の床に落ちた。
「もう、こんなことは、やめて……くださ……」
「お腹空いた? 俺、さっき木の実を摘んできたんだよ」
リトは涙に重い瞼を押し上げて、彼の顔を見上げる。
王子は、まるきり朗らかな笑みを、形良い唇に浮かべていた。
ずるりと完全に結合が解かれた瞬間、リトは怖気に顔を背けた。
王子は、戸口近くにおいてあった布の包みを持ってきて、リトに掲げる。
「ほら」
包みは簡単にほどけ、そこから赤い実がこぼれ、彼女の腹の上に散らばった。
女にしては荒れた肌、手足は洗い晒した麻の色に似て日焼けしている。肌を出すことをためらうこともなかったが、それでも腹や胸のあたりは手足に比べれば白く、そこに赤い実は妙に鮮やかに広がった。
「いい匂いだよね」
王子は白く濁った目に、まるで実を映したように、ためらいなく、彼女の腹の上から一つ、つまみ上げた。
そのまま口に運ぶ、瞬間、リトは叫んだ。
「いけません! もし、毒だったら」
リトはもう、王子の薄い唇と、隙間からのぞく整った白い歯の並びしか見えないくらいの勢いで、重ねて叫んだ。
「私が先に食べますから、それからにして下さい」
リトの目の前で、王子が摘んだ実を離す。赤い実は床に静かに転がった。
「……騎士って大変だね。毒味もするんだ」
「王子、大事なことです。王子は実がなっていた木の、葉の形がわかりますか? 食べられる実と、そうでない実と」
「うるさいよ」
王子は、また一つ、腹の上から赤い実を摘んだ。
「そんなに食べたいなら、こっちの口で食べてみる?」
「王子っ…なにを、す」
あとは言葉にならなかった。彼女の引き締まった両足を持ち上げられたからだ。
赤ん坊がおしめを換えられるときの格好だ。気づいてリトは頭が沸騰しそうな程の羞恥に震えた。
「膝、自分で抱えて。仮にも騎士なら、命令には従うよね」
そう言われると、逆らいようもない。リトは震えながら自分の膝に腕を通し、胸に引きつけた。
「ふっ……」
淡々と命令に従えればよいのに、吐息まで震えてしまう。
「ほら、リトのお口が物欲しそうに涎を垂らしてるよ」
「……み、見えないくせに!」
リトの乙女らしい反発は、王子を喜ばせたようだった。その優美な指を、リトの足の間に伸ばし、触れる。
「やぁっ……!」
「足、離すなよ」
まだそこは十分に滑りを帯びている。リト本人すら明らかでない造形を、王子は指で見ているのだ。
「ひっ……」
指を入れられ、内部で広げられると、清涼な空気が爛れきった粘膜の間に忍び入る。快楽を知らぬ肉洞は、徒にみだりがましく涎を溢れさせながら、指に怯え蠕動する。
「ほら、ここにさっきまで俺のが入ってたんだよ。わかる? このお口で上手にしゃぶってたね。嬉しかった? 王子様に犯されて、そりゃ名誉だっただろ」
詰られて、リトは命令を破った。膝を離して逃げようとしたが、ものすごい力で顎を捕まれる。
「ユーリ!」
「抵抗しろよ。自分は騎士じゃないって、王子のお守りはもうごめんだって言えばいい。そうしたら許してやる」
合うはずのない視線に貫かれて、リトは雷に打たれたように体を強ばらせた。
騎士でない――それはすなわち、王子との別離と同義だったからだ。
ユーリはリトが何に屈したのか知るまい。彼女が何を思って、自分で足を抱え、浅ましい姿を晒しているのか。
決して聞かすまいと、嗚咽をこらえるのはなぜなのか。ユーリは怒っている。今までになく激しく。その激情がぶつけられることを、リトは恐れながらも、心の奥底で受け入れていた。
「ほら、食べさせてあげる」
赤い実がねじ込まれる。指よりも丸く、欲望よりあっけない実は、易々と中に入った。それでも異物に浸食される気持ち悪さは拭えない。
「ふふ、押し出してくる」
彼女の内部は実を拒絶した。おし出そうとする粘膜の動きを楽しむように、ユーリは実を指で押さえる。それから奥まで押し込んだ。
「も、もう、入れないで」
「嘘、まだまだでしょ。……何個、入るかな」
悪戯をする子供のようだ。二つ目の実が押し込まれる。
赤い実、皮はぱつんと張っていた。親指と人差し指で輪を作ったのと同じくらいの大きさの木の実。それが滑りの力を借りて入ってくる。
ひとつめはまだ居心地の悪さですんだが、二つ目になると圧迫感が勝ってきた。
「もう……無理……」
「無理じゃないよ、頑張って。騎士だろう?」
その言葉は、深く彼女の胸に突き刺さった。こんな無様な格好をして、磔の兎のようになって、それで騎士と――胸を張れるのだろうか。
「いいよ、やめても。でも騎士もやめるんだ。俺の守護者から降りればいい」
低いささやきは、いっそ優しく、思いやりさえ感じられた。その声は、彼女のなけなしの意地に火をつけた。
「いやっ……、私は、ユーリの騎士……だから」
どんなことにでも耐える、命だって捨てられる。それで、そばにいられるなら――。
「強情だな」
三つ目の実が、めりめりと肉をこじ開けて入ってきた。苦痛にわななく狭い入り口を閉じさせるように、色の薄い花びらをいらってから、ユーリは顔を青ざめたリトの膝を下ろさせた。
「小屋の外に井戸があったよ。体、ずいぶん汚れちゃったから、きれいにするといいよ。ほら、立って、自分で歩いてね」
「ユーリ、これ、このまま……」
「早く行きなよ。自分で、立って、歩いて、……行け」
覚束ない足を床に着ける。体を動かす度に、内奥がごろごろする。腹に力を入れた瞬間に、こぼれ落ちてしまいそうだ。
リトはそれだけはならぬと、足の間に力を入れる。慎ましく口を閉じようと力を入れると、異物感はより強くなった。
「ユー、リ、あの」
「ほら、早く」
ユーリは戸口を指さした。リトは熱い吐息をこぼした。また力を入れる。異物感、そして痺れ。
一歩足を踏み出す。足裏から足の付け根へ甘い衝撃が走り抜ける。また力を入れると、木の実を含んだ部分から何かの波紋が広がる。
それは勢いよく彼女の下腹全体に広がる。
「ぁっ……」
思わず漏れた小さな喘ぎ。それを自分の耳で聞いて、リトは口を押さえた。
あまりにも甘い、媚びを含んだ喘ぎに聞こえたからだ。
「どうしたの、リト。早くさっぱりしておいで」
ユーリは悪戯な笑いを隠そうともせず、リトを急かす。
わかってる、うるさい、けれど口を開けば、喘ぎ声しかでない。
「ふぅっ…ん……」
必死に心の中で言い聞かせる。歩くだけ、たった数歩歩いて、扉を出ればいい。それまで何も感じないようにすればいい。何を感じないように。今、彼女を芯から支配しようとしつつある、恐ろしい何か、甘美なる。
「あぅ……」
一瞬気がゆるんで、足の間を温まった滑りが伝う。
締め直せば、脳天まで突き抜けるそれをもう、誤魔化しきれなくなった。
これはよろこびだ。
「あぁっ……でちゃ…ぅ……」
滑りが増して、押し入れられていた赤い実が、花びらの間から顔を覗かせる。
リトは、自分の熱く濡れそぼった場所を手で押さえようとした。そうすれば、排出を止められると思ったのだ。
しかし、その手はユーリによって掴みあげられる。
「何する気? ずるはだめだよ」
「やっ……だめっ……出ちゃうから……」
「早くおいでよ」
掴まれた手を引かれ、数歩歩かされると、もうこらえきれなくなった。
ちょうど戸口のあたりで、あっけなく限界が訪れる。
「あっ……あぁっ……ひっ……!」
ぬぅと口を押し広げ、太股の間を転がるようにして、木の実が床に落ちた。ぱたりと音がしたから、いいや、それ以上にリトの気配で、ユーリには伝わってしまう。
それは薄暗い室内においても、瑞々しさ以上の濡れた光沢を放つ。
「あっ……ご、ごめんなさい……」
リトは無体な仕打ちへの怒りよりも何よりも、主君の命令を守ることができない自分の惨めさに打ちのめされていた。そして、自分の体に快楽の萌芽を予感して、得体の知れない不安に襲われていた。
それらが渾然となって出た言葉だった。それだけだったが、ユーリは彼女の体を床に引き倒した。
「謝るな……っ!」
忙しなく両足を肩に抱え上げられる。
ひたりと足の間に熱く膨れ上がったものが押しつけられる。リトはもうその正体を思い知らされている。滑らかな粘膜が擦り合わされると、得も言われぬ心地よさが広がった。
痛みを与えるばかりの抱き方を、ユーリは変えようとしている。リトの体がそれをすぐに理解した。
指が、粘膜のふれあった部分の周りをくすぐり始める。
「あっ……そこ、いやっ……!」
「気持ちいいんだ。気持ちいいよね? ねえ、言ってリト」
滑りを広げ、擦り、弾き、つまみ、そのうちに押しつけられた先端がこじ入れられる。
「だめっ……! まだ、そこ入ってる……」
制止は聞き入れられず、まだ赤い実を二つばかり含んだ口に、太い先端が含まされる。
「ひぁっ…、もう無理……入らな……っ、あぁっ!」
こつんと底に何かが当たる。きっと実が、下から突かれて当たったのだ。だからもうそれ以上は入らない。けれど、ユーリはリトの腰を掴むと、己の欲望を突き入れた。
「あっ! あぁっ!」
体内で赤い実が潰れる。ぐじゅぐじゅと果肉と潰れ出た果汁を撹拌するように、奥深くまで押し込まれ、リトは陸に打ち上げられた魚のように身体を跳ねさせた。
限界以上に広げさせられた体内は、けれども先ほどまでよりも、幾分すんなりと長大な欲望を受け入れた。
それは、彼女の肉体が与えられる快楽に口を開ける雛のように、彼女の心と体に訪れる苦痛から気を反らす麻薬を見つけたように。
「溢れてきた、リト。潰れて……」
果皮は赤かったが、果汁は透明で、甘い匂いがあたりに立ちこめる。
「全部、かきだしてあげるね……」
浅く深く、彼女の体内を穿つ責め苦が始まった。まだ膨らみ切らぬ乳房を掴み、揉み立てられ、先端をつねりあげらる。
口づけの瞬間に、リトは涙を流した。
襲撃者の顔を、リトは見ていた。
城の離れに、ユーリは住んでいた。目の見えない彼は、万事整えられ、体よく遠ざけられていた。リトはそんなユーリの騎士として、彼の寝所のそばの部屋に控えているのが常だった。
だから、襲撃に気づいたとき、いち早くユーリの元に行くことができた。
あれは、ユーリの兄王子、アジーンが迎えた二人目の妻の側近だったはずだ。
アジーンには二人の妻がいた。一人目は、この国の市井から迎えたリーヌ、もう一人は隣国の姫、ユリ。
控えめで、穏やかで、気だての良さが評判のリーヌとはまるで逆の姫だった。
派手な顔立ちで、豊満な肉体。男と見れば寝所に引っ張り込む淫婦だと、嫁してきてすぐに噂になった。
けれど、アジーンもリーヌも、ユリを妻として尊重し、丁寧に扱っていた。リトも、ほかの騎士たちもそれに倣っていた。
けれど、リトは見たのだ。ユリの寝所に、ユーリが入っていく姿を。扉の間から、長い爪をした女の手が、目の見えないユーリの手を引くのを。
襲撃のことやこれからのこと、考えなければならないことは山ほどあった。
けれど、ユーリに揺さぶられながら、リトの頭に浮かんだのは一つだけだった。
(ユリ様を、私と同じように抱いたの? ただの女と同じように私を抱くの?)
「はっ……リト……リト……」
ユーリはリトの名前を呼びながら、激しく腰を打ち付ける。甘酸っぱい匂いに惑わされたように、リトは自らユーリの腰に足をからみつけ、彼の動きに拙くも応え始めていた。
内部を擦りあげられる度に、熱が膨れ上がり、もうその頂点が見えている。
ぐんと反り返り、リトの内部を抉る欲望は、いっそう太く膨れ上がって、彼の限界も近い。
「あっ…あっ…ユーリ……! こ、こわい……」
「……いいよ、いって、一緒にいこう」
獣のような息づかいだけになって、肌を打ち付けあう。
リトの喘ぎは悲鳴に近く、ユーリは険しい額に汗を浮かばせていた。
「あ――――――っ……」
突如、火花が散った。
世界が真っ白になる。
ずっと騎士であろうと思っていた。目の見えない乳兄弟を守るために、リトは意識を手放す寸前に、あの日、彼女が騎士になることを決心した日のことを思い出していた。
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※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
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