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⑹手紙

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お久しぶりです。

エメラルダ モントリオール妃殿下

いかがお過ごしでしょうか?


この度、ケント モントリオール王太子殿下が御即位されるとの事、心より お祝い申し上げます。

戴冠式にご招待頂きまして、誠にありがとうございます。

外交官になりまして、まだ2年の若輩ではございますが、妻と共に喜んで、出席させていただきます。


あなた様と婚約白紙をして、あれから15年が過ぎました。

あの時は 本当に申し訳ない事をしてしまったと、今でも 後悔しております。

思えば、15年前の私は、婚約者でありながら、あなたの事を何も知りませんでした。

あの後、領地で謹慎生活に入り、我が家の執事やメイド達、そして、父や母の話を聞いて、初めて私は あなたの事を 全く理解していない 愚か者であった事を 実感いたしました。

あの頃の事を思うと、今でも 申し訳ない気持ちで一杯になります。

何度謝っても、許されるものでは無いと思いますが、謝らずにはいられません。

せめて、あなたが 幸せな結婚をなさった事が、私の救いになっております。

あれから、私も 妻を娶り、子宝にも恵まれ、烏滸がましいとは思いつつも、幸せな毎日を過ごしております。

王妃となられるあなた様にも、御多幸ありますように、心から願っております。


今一度、戴冠式にご招待いただき、誠にありがとうございます。

王妃となられるあなた様に、心よりのお祝いを申し上げます。

本当におめでとうございます。





        アクオス シーガル


―――――――――――――――――――――――――


「楽しそうだね。誰からの手紙?」

湯浴みを終え、寝室にやって来た夫、ケントがニコニコしながら 私に聞いてくる。

「アクオス シーガル」

その名を口にした途端、ビックリして目を丸くしている。

「ふふふ···」

私が笑っていると、

「随分 懐かしい名前だね。彼は何て?」

「即位おめでとうって、戴冠式に参列して下さるそうよ。今、外交官をしているんですって。」

「へぇ それは それは···」

何だか 含みのある言い方をして、ケントが私を見つめる。

「今の気持ちは?」

私の瞳を覗き込んで、意地悪な質問をしてくる。

「別に···」

だから 出来るだけ 素っ気なく 返事をした。

「結局、彼は 君の妹とは一緒にならなかったんだよね。」

「えぇ、あの子は 人のモノにしか興味がありませんから、自分の者になった途端、興味を失ったのでしょう。あの子の本性を知って、恥を偲んで、サファイヤから逃げたのでしょうね。ただのバカじゃ無かったようですわ。」

「酷い 言いようだね。」

「ケント、あなたがいなかったら、私は今でもあの家で 妹に何もかも奪われ続けて 暮らしていたかも知れないわ。あの家から救い出してくれたあなたには、とても感謝しているのよ。」

「そうだね、彼が 君を捨ててくれたお陰で 僕は 一生の宝物を得る事が出来たんだ。彼には感謝しないと、僕の初恋が 報われたのは 彼のお陰だからね。」

「うふふふ···彼、結婚したそうよ。戴冠式には奥様も連れて来るって、楽しみだわね。」

「あぁ···そうだね。とても楽しみだ。」

私は、彼からの手紙をきちんと畳んで、確認済の箱に入れた。

ケントが後ろから私を抱きしめる。

優しい石鹸の香りが鼻腔を擽る。

「エメラルダ、今 幸せかい?」

「えぇ、幸せよ。あなたが、ずっと 側にいてくれるから。」

昔、私の側にいるべき人は、私を捨てた。

今、私の側には、その時、私の心を拾い上げ、慈しみ、本当の愛を教えてくれた 最愛の夫がいる。

「あなたに会えて本当に良かった。」

「僕も、エメラルダが 傷ついていた時、側にいれて 本当に良かったと思うよ。お陰で 君を手に入れる事が出来た。」

「ありがとう、ケント。あなたの側にいる事が私の幸せよ。」

「僕も、君の側にずっと一緒にいるよ。」

彼の温もりを背中に感じ、私は幸せに酔いしれた。






――――――――――――――――――



エメラルダは隣国の王子様に愛されて、幸せになりました。
もちろん子宝にも恵まれて、王となる旦那様の隣で、いつまでも幸せにくらしました。






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