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23] 暴走 〜ナディア〜
しおりを挟むお父様が私を公国へ帰すと言ってから、ドンドン帰国の準備が進められて行く。
「早く何とかしないと…」
お父様はリディアの行方不明以後、臥せりがちだったお母様も公国で静養するようにと、そしてその付き添いとして、私も公国へ帰すと、準備を始めた。
私は何としても殿下の新しい婚約者を排除しなければと焦っていた。
自分で動けないならば、誰かに頼むしかないのかしら?
ギルドに依頼する?
暗殺を請け負うような組織があるのは知っているけれど、何処に在るのか分からないわ。
公国に戻るまでもう何日も猶予は無い。
「アラン様には手が出せないわ。面会依頼も断られて、会ってもらえないし、王家主催のパーティーもしばらく予定が無い。婚約者に選ばれた令嬢を何とかするしかないわね。」
私は王都に残る事を諦めたように振る舞った。
そして、お友達に母と一緒に公国へ帰る事、しばらく会えなくなるので、帰る前に皆んなと集まりたいと仄めかすような手紙を送った。
そして、アラン様の新しい婚約者にも会ってみたかったと書き足した。
すると、すぐに、公国に帰る前に是非、お茶会に招待したいと、いくつか招待状が届いた。
私は彼女達と連絡を取り合い、仲の良かった侯爵令嬢の屋敷で開くお茶会に参加する約束を取り付けた。
彼女は明るく、話題豊富で、学園でも人気者だった令嬢で、彼女のお茶会には毎回多くの令嬢が集まっていた。
勿論アラン様の婚約者の家とも懇意にしていて、私の希望を聞き入れて、アラン様の新しい婚約者、ティアーナ=フォレストも招待されている。
まだ、デビュー前の彼女がお茶会に参加するかどうかは運次第だ。
私はそのお茶会に、「喜んで出席します。」と返事を出した。
私がお茶会に行きたいと言うと、お父様は難色を示したが、「しばらくお友達と会えなくなるのだから」と、お母様が取りなしてくれた。
お父様は、お母様も一緒ならと、了承してくれた。
お父様がどれ程私を警戒しているのかが透けて見えた。
それ程お父様は私の事を疑っているのだと思うと、憎らしかった。
私はお母様も一緒で良いか、お友達に確認し、お母様と2人で参加する事が決まった。
これがきっと最後のチャンスになる。
お茶会まで3日。
私は、ティアーナ=フォレストを傷物にする為、準備を始めた。
「一生消えない傷を付けてやるわ…」
◇ ◇ ◇
お茶会 当日。
「本日はお招きありがとうございます。」
会場に着くと、私はすぐに令嬢達に囲まれた。
皆んな、私の公国への帰国を残念がっている。
「私も皆さんとしばらく会えなくなるのは寂しいですわ。」
令嬢達と挨拶を交わしながら、私は目的の女を探した。
(見つけたわ!)
ティアーナ=フォレストは、主催者に近いテーブルで侍女を後ろに従えて、何人かの令嬢に囲まれて和やかに会話していた。
「ロザリー様、あちらの方は?」
「あぁ、彼女がアラン殿下の新しい婚約者の方ですわ。ご紹介しますので、参りましょう。」
そして、私はロザリー様に連れられて、ティアーナ=フォレストの元に向かった。
「ごきげんよう、ティアーナ様。本日はお忙しい中、我が家のお茶会に参加していただき、ありがとうございます。今日は私のお友達を紹介したいのですが、よろしいかしら?」
「お招きありがとうございます。ロザリー様、勿論!とても嬉しいですわ。」
そして、私はニッコリ笑って、ティアーナ=フォレストの前に立った。
「はじめまして、フォレスト様。私はイースデール公女、ナディア=イースデールですわ。どうぞよろしくお願いしますわ。」
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。はじめましてイースデール公女様。私はティアーナ=フォレストと申します。どうぞティアーナとお呼びください。これからもよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ。アラン様との婚約、おめでとうございます。色々あってお祝いが遅れてしまってゴメンナサイね。どうかこれからも姉の分もアラン様を支えてあげて下さいませ。」
「勿体ないお言葉です。誠心誠意アラン殿下にお使えいたします。」
「ナディア様、ティアーナ様。堅苦しい挨拶はそのくらいで、今日は華やかに薔薇をテーマに色々用意しておりますの。どうぞ楽しんで下さいませ。」
「まぁ!それは楽しみですわ。私も今日は皆さんにお土産を用意しましたの。ジュリー、お願い。」
「はい。お嬢様。」
メイドのジュリーが私の用意したお土産を運んできた。
「まぁ!キャンドルですわね。なんてキレイなのかしら。」
「アロマキャンドルですわ。とても良い香りですの。最近は心塞ぐ事が多くて、そんな時、随分とこの香りに癒されましたのよ。」
「ナディア様…」
周りの視線が私に同情するように向けられる。
「あぁ…皆さん、ゴメンナサイ。少ししんみりしてしまいましたわね。ジュリー、皆さんに見せて差し上げて。」
「かしこまりました。」
ジュリーがキャンドルの一つを取り出して、火を付ける。
あたりに薔薇の香しい薫りが広がった。
「まぁ、なんていい香りなのかしら。」
ティアーナ=フォレストがキャンドルに顔を寄せ、香りを堪能している。
「本日は3種類の香りを用意しましたの。一つは華やかな赤い薔薇、二ツ目は清廉な白い薔薇、そして三つ目は落ち着きのある青い薔薇です。どうぞ、皆さん。是非お部屋で試して下さいませ。」
「まぁ、本当に良い香りですこと。」
「えぇ、とても華やかで甘い香りですわね。」
「他の香りも是非、試してみたいですわ。」
私達を囲んでいた令嬢達が代わる代わる感想を述べる。
「実はこのキャンドルは、お父様が臥せっているお母様を慰めたくて、外国から取り寄せてくださいましたの。この香りに包まれていると、とても良く眠れますのよ。」
「まぁ!大公様が?」
「素敵なお話ですわね。」
「羨ましいですわ。」
令嬢達に囲まれて、羨ましいと羨望の瞳を向けられて、お母様も嬉しそうにはにかんでいる。
「是非、ティアーナ様にも使っていただけたら嬉しいですわ。」
そう言って、私は特別製のアロマキャンドルをティアーナ=フォレストに手渡した。
「まぁ、ありがとうございます。早速、今夜から使いたいですわね。」
そう言って、ティアーナ=フォレストは後ろに控える侍女にアロマキャンドルを預けた。
私はそれを見て、心の中でほくそ笑んだ。
「キャンドルは1本使うと1週間から10日ほど部屋に香りが残りますの。残り香もゆっくり堪能して下さいませ。」
「まぁ、それは楽しみですわ。」
そう言って、彼女はニッコリと笑っていた。
ティアーナ=フォレストに渡したキャンドルは3種類。
一つはすぐに使えるように台座にセットされている普通のキャンドル。
二ツ目は少しだけ気分が良くなる軽い媚薬を混ぜたもの。
そして三つ目は火を付けてすぐに眠りを誘い、2時間程で発火し、熱源に向けて燃え広がるという危険な物だ。
熱源、つまりティアーナに向かって燃え広がるのだ。
ぐっすり眠っている時に火が上がる。
きっと、ただではすまないだろう。
運が良くて大火傷、悪ければ命を落とすだろう。
命が助かっても、きっと恐ろしい火傷に見舞われるはず…
そうなれば結婚なんて出来ないわよね。
その日が楽しみだわ。
私は心の中でティアーナ=フォレストの不幸な事故を想像して、ほくそ笑んだ。
友人達との最後のお茶会も無事に終わり、お父様はほっとしていたようだ。
お茶会から2日後、私はお母様と公国へ帰った。
そして、公国に帰って一ヶ月ほどたった頃、フォレスト家の火事の知らせを受け取った。
『アラン王太子殿下の婚約者、ティアーナ=フォレスト侯爵令嬢。大火傷を負い、意識不明の重体!』
「ふふふ……ふふっ…やったわ!」
笑いが止まらない…
私は部屋に戻って、大いに笑った…………
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