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22] お祖父様 〜ナディア〜
しおりを挟む父も、母も、兄も、リディアも…
皆んなが出払ってしまった屋敷で、毎日私の面倒を見てくれたのは、お祖父様だった。
お祖父様は偉大な魔術師で、錬金術師で、魔導具師で、薬師だった。
大きな魔力を持つ家族の中で、私だけが魔力が少なく、平凡で、属性も水と風の二つしか持っていなかった。
いわゆる落ちこぼれだった。
でも、そんな事は全く気にならなかった。
大好きなお祖父様がいつも側にいて、色んな事を教えてくれたから。
「ナディアは頭が良いな。一度教えた事をすぐに覚えてしまう。お前は天才だな!」
そう言って、大きな手で頭を撫でながら私を褒めてくれるお祖父様が大好きだった。
お祖父様は本物の天才だった。
魔力が桁外れに多く、全属性の魔術を使いこなし、錬金術を使って次々と新しい物を生み出し、魔力の無い平民でも使えるような魔導具を開発し、薬を調合して、貧しい者たちに施した。
お祖父様のおかげで公国民は恐ろしい流行り病にかかる事もなく、公国民のほとんどが安定した生活を送れていた。
魔力が少ない私は、薬の調合に興味を持ち、お祖父様に色々教えてもらい、お祖父様を手伝って、たくさんの薬を作ったりしていた。
森で薬草の種類、採取の仕方、調合の仕方、薬の使い方、効能など、一つ一つ丁寧に教えてもらったおかげで、子供ながら簡単な痛み止めや、風邪薬などは自分1人で調合する事が出来た。
お祖父様の部屋で過ごすお勉強の時間は本当に楽しかった。
魔力なんて無くても、私は全く気にならなかった。
だから、魔力量でリディアがアラン様の婚約者に選ばれた時はショックだった。
同じ両親から双子として産まれ、姿 形は全く同じなのに『魔力量』たったそれだけの事でアラン様に選んで貰えなかった事がとても悲しかった。
学園に入ってからはもっと惨めだった。
私は周りの同級生達にリディアと比べられる事が多くなった。
今迄、屋敷にいた時は全くそんな事気にもならなかったのに、座学はリディアよりも成績が良かったし、お祖父様のおかげで私はいくつか魔導具や薬の専売権も持っていたし、自信もあったのに…
魔術の実技があまり良くないから、魔力が少ないからと言うだけで、こんなに惨めな気持ちにさせられるなんて知らなかったのだ。
そして、私が学園に入学してすぐにお祖父様が亡くなった。
学園で惨めな思いをする私を慰めてくれる人はいなくなってしまった。
学園では、リディアがアラン様の婚約者としてチヤホヤされて、同じ顔の私は、皆んなから腫れ物を扱うような振る舞いをされていた。
時にはあからさまに「魔力が少ないなんてお気の毒に…」や「双子でも随分違うのですね…」などと言って、私を馬鹿にする人もいた。
魔力!魔力!魔力!
私は学園に行くたび、疲弊していった。
魔力が少ないのは誰のせいでも無い。
たまたまそうなっただけ…
お祖父様が死んでしまったのも誰のせいでも無い。
それがお祖父様の寿命だっただけ…
慰めてくれる人が誰もいないのもしょうが無い…
もしかしたら、この頃から私の心は壊れ始めていたのかもしれない…
リディアを憎んだ…
学園を憎んだ…
死んでしまったお祖父様を恨んだ…
辛い、もう無理、我慢出来ない。
10歳の時、リディアを訪ねて初めて我が家にアラン様が訪問された時、あまりの美しさに言葉を失った。
(この子がリディアの婚約者?)
少しクセのある淡い水色の髪、夏の青空を思わせる青い瞳は澄んでいて、子供ながら手足が長く、スタイル抜群。物腰柔らかく、王妃様に良く似た優しい面差しの素敵な方だった。
私は一目で恋に落ちた。
リディアが羨ましくてたまらなかった。
私はアラン様を愛している。
学園で2人の仲睦まじい姿を見るたび、嫉妬で気が狂いそうだった。
あの日ーーーー…
リディアを魔獣に変えてしまったあの日から、私はもう後戻り出来なくなってしまった。
アラン様が好き。
アラン様を私の者にしたい。
その為には邪魔者を排除しなければ…
私は薬を調合した。
人を傷つける為の薬…
私に薬学を教えてくれたお祖父様は遥か高みで後悔しているでしょうね。
でも、私はもう止まる事は出来ないの。
アラン様を手に入れるか、私が破滅するか、道は二つに一つ。
お祖父様、こんな風になってしまってゴメンナサイ。
私の頭はもう、私からアラン様を奪ったティアーナ=フォレストを排除する事で一杯だった。
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