【完結】魔獣の公女様 

nao

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17] 決断  

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人間に戻って1週間が過ぎました。

今夜は久しぶりに殿下に晩餐に誘われました。
最近、殿下は普段の公務に加え、私の事でとても忙しそうだったので久しぶりにゆっくりと会えるのはとても嬉しいです。
人間に戻ってからは、魔獣だった頃のようにずっと殿下のそばについている事は出来なかったから…
こうしてドレスを着て、着飾って正式な晩餐をするのも久しぶりで、その上、ずっと殿下に見つめられて、食事をするのはとても緊張しました。

マナーは大丈夫かしら?
食べ物の匂いを嗅いじゃうとか、魔獣だった頃の変なクセは出てないかしら?

殿下の前で失敗しないよう、ドキドキしながら食事を終えました。
それから殿下に誘われて、温室庭園に向かいました。
殿下にエスコートされて、温室庭園に作られた、テーブルセットのベンチに、2人並んで座ります。
ミリーがお茶の用意を終えると、静かにテーブルから離れ、少し離れた所に、護衛のフレッド様と共に控えました。


「リディア公女」

緊張した声で殿下が話しかけて来ました。

「はい、殿下。」

「今一度君に確認したい。君はこれからどうしたい?」

「これからですか?」

「国に帰りたいか?」

「帰りたくないと言えば嘘になります。でも、今更私が帰っても良いことは1つもありません。私は出来るのなら、ただのシルフィとして、この国でひっそりと生きていきたいです。」

「アラン王子の事はいいのか?」

「アラン様にはもう既に新しい婚約者が立っています。今更私が生きていると知られれば、国は大混乱するでしょう。私はこのまま死んだ事になる方が良いと思っています。」

「王太子を愛しているのでは?」

「確かに、小さな頃から婚約者として一緒に過ごして来ました。アラン様は優しくて、王太子としての責任感もしっかりしていて、彼の隣で彼を支えていく事がずっと私に課せられた義務でした。愛していたか?と言われれば愛していたと答えます。10歳の時に婚約を結んでから、私にはそれ以外の選択肢はありませんでしたから。マルコシアス帝国とイースデール公国を強く結ぶための婚約でもありましたから。家族になる者として、愛していました。でも…私…魔獣に変えられてから今迄、ナディアのやった事に対する怒りや心配、これから先への不安を考える事はありましたが、アラン様に対する恋情というものが湧くことはありませんでした。アラン様に新しい婚約者が出来たと聞いた時も、悲しいよりも、アラン様も一歩を踏み出せたようで良かったと安心しましたから…」

(ある意味、私がアラン様を愛していないっていうナディアの言葉は正しかったのかもしれないわね…)


「そうか…」

殿下は私の隣で、手を組んで、何かを思案するようにずっと下を見つめています。
私は隣で、そっと殿下の横顔を伺います。

薄情な女だと思われたかしら?
殿下のお話は私の事ですよね。余程言いにくい事なのでしょうか?
何を言われても、私の覚悟はもう決まっています。この国から出ていけと言われても従うつもりです。

「リディア公女、いや、今迄のようにシルフィと呼ばせてほしい、構わないか?」

「ええ、構いませんわ。」

「では、シルフィ、私の妃になってほしい。あなたを愛しているんだ。あなたが魔獣だった時、私は何度もあなたが人間だったら良かったのにと言っていたのを覚えているだろう?私はあなたと離れたくない。これから先もずっと一生あなたと共にありたい。」

殿下は、私にしっかりと向き合ってそう言ってくれました。
殿下が私を?
胸がギュッと掴まれたように苦しくなりました。
私も殿下が好きです、そう言えたらどんなに良いでしょう…
でも…今の私は殿下に相応しいとは言えません。
まして、妃だなんてとんでもない事です。


「殿下…お気持ちは嬉しいのですが、私はもう死んだ人間です。殿下の妃には相応しくありません。これからは、平民のシルフィとして、市政の片隅でひっそりと生きて行くつもりです。」

「身分の事を言っているのなら心配はいらない。あなたの身分はもう既に決定している。先日、ギュンタークにあなたを養女として迎えたいと打診された。私も父も了承している。手続きが整い次第、あなたはシルフィ=ギュンターク侯爵令嬢となる。後はあなたの気持ち次第だ。」

「ギュンターク団長が私を?ありがたいお話ですが、本当に良いのでしょうか?私の事情はとても複雑です。どの様なご迷惑をかけるか分かりません。」

ギュンターク団長のお気持ちはとても嬉しいのですか、素直に頷く事は出来ません。
でも、殿下は何でも無い事のように話を続けます。

「あぁ、それも全て分かった上での申込みだ。ギュンタークは君を養女に迎え、魔導士団で一緒に仕事をするつもりだそうだ。その間に君に色々な事を教えたいそうだ。君は1年前、記憶を無くしてギュンタークに拾われた。ギュンタークの保護を受けて、この1年を過ごしていた事にするつもりだ。森で保護した君の豊富な魔力量に目をつけたギュンタークが、あなたを養女に迎え、魔導士団に入団させる。実績を積み上げ、私の婚約者とし、その後私の妃とする予定だ。あなたが私を受入れてくれた瞬間からこの計画は実行される。シルフィ、どうか私の手を取ってほしい。君が好きなんだ。どんな事をしても君を手離したく無い。ずっと私と共に生きてほしい。」

そう言って殿下は私の前に膝まづき、私の方へ手を差し出しました。
養女?妃?殿下が私を愛してる?
何もかもが突然の事で、何も考えられません。

私はどうしたい?
私の気持ちは?
私も殿下を愛しているわ。
殿下を命懸けで守りたいと思う程…
この手を取れば、私はこれからもずっと殿下と一緒にいられるの?
本当に私がこの手を取っても良いの?
きっと殿下に迷惑をかけるわ。
それでも殿下は私を求めてくれるのかしら?
面倒な女だと殿下に嫌われたく無い…


いろんな想いが頭の中でグルグル渦巻いて、私は殿下が差し出した手を見つめたまま固まってしまいました。

「シルフィ、困らせてすまない。だが、私はもうあなたを手離してやれないんだ。」

殿下の手がそっと私の頬に触れて、親指で私の頬に流れる雫を拭ってくれます。
気付かないうちに、涙を流していたようです。

「殿下…」

やっと、喉の奥から絞り出すように声が出ました。

「殿下…わたし…あなたに迷惑をかける未来しか見えません…」

「あなたにかけられる迷惑なら喜んで受けよう。」

「面倒な女だと思われたくありません。」

「愛しいと思う事はあっても、面倒だと思うなんてあり得ない。」

「あなたに嫌われたくありません。」

「私もあなたに嫌われたく無いな。」

「私が殿下を嫌うなんてあり得ません!」

「それは、シルフィも私を愛しているという事かい?だったら嬉しいな。」

私の涙を拭っていた殿下の手が、私の頬を包みます。
いつの間にか殿下のお顔が私の目の前に迫ります。
殿下の唇が私の唇にそっと触れました。
魔獣だった頃のような触れるだけの軽いキス…

「想えば、私はあなたが魔獣だった頃からずっとあなたにこうして触れて、抱き締めて、愛しいと思っていた。初めて会った時からあなたは私の特別だった。お願いだシルフィ。どうか私を拒絶しないで…」

「殿下…ずるいです…そんな風に言われたら私…」

「嫌なら魔法で吹き飛ばしてくれて構わない。」

そう言って、殿下はもう一度私にキスをしました。
いつの間にか隣に座って私をギュッと抱きしめている殿下は、何度も、何度も啄むように私の唇に触れ、そしていつの間にか、深い深い口付けを交わしていたのです。









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