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14] 葬儀の知らせ
しおりを挟むある日の、執務室での事でした。
「殿下、本日の手紙をお持ちしました。」
ジュリアス様から受け取った手紙を確認したロイド殿下が手紙の内容を口にしました。
「マルコシアス帝国の王太子の婚約者が、亡くなったそうだ。」
『えっ?!』
「葬儀は来月だ、こちらからも誰か使者を送る事になるだろう。おそらく外務大臣あたりかな?」
『葬儀…』
「殿下、マルコシアス帝国は隣国とはいえ【深淵の森】を挟んでいます。迂回してとなると片道1週間はかかるでしょう。護衛の手配や従僕、メイドの手配など、しばらく忙しくなりそうですね。」
「あぁ、ジュリアス、父上にも相談して、大至急手配しよう。」
ロイド殿下と、ジュリアス様があれこれ話し合ってる間中、私の頭の中は《葬儀》の言葉だけがグルグルと回っていました。
執務室にいる間中、私はショックから立ち直れないでいましたが、執務を終えて部屋に戻り、落ち着いた所でだんだんと思考能力が戻って来ました。
『あぁ…とうとう私は死んだ事になったのですね…』
無理もありません。私が行方不明になってもう半年です。対外的には病気療養中と言う事にしていた様ですが、さすがにもうこれ以上はアラン様も結婚を延ばすことが出来なかったのでしょう。
王太子妃が病弱となれば、婚約を白紙にする事も仕方が無いのですから、何時までも、いつ戻るか分からない私を待つ事は出来なかったのでしょう。
『お父様…お母様…』
2人はどれほど悲しんでいるでしょう。
お兄様も公国から皇都に戻っているかしら?ナディアは?
今の私では生きていると連絡する事も出来ません。
『ナディアはどうするつもりかしら?』
ナディアは私がいなくなれば、次の王太子妃には自分が選ばれると信じているようですが、おそらく そうはなりません。
ナディアは、妃になるには、魔力が足りませんし、光属性も持っていません。
妃になる為の条件を2つも落としているのです。おそらく、他から 魔力、属性、家柄、血筋、優秀さ、色々な条件を満たした令嬢が選ばれるでしょう。
そうなった時、私を魔獣に変えてまでアラン様の妃になろうとしたナディアがどんな行動に移るのか、不安でなりません。
『どうか、お父様達に迷惑をかける様な事にだけはなりませんように。』
そう願わずにはいられません。
◇ ◇ ◇
葬儀の知らせから3日、外務大臣が私の葬儀に出席する為、使者として旅立ちました。
マルコシアス帝国に行ける大臣が羨ましくて、彼等の馬車が見えなくなるまで、私は彼等を見送りました。
『国に帰りたい。お父様やお母様にせめて私が生きている事を知らせたい。』
でも、こんな姿のままではとても無理な話です。
「シルフィ、どうした?」
葬儀の話を聞いてからの私は、気分が暗く落ち込んで、気持ちが塞ぎ、感情が抑えられなくなって泣いたり、走ったり、想いにふけったり、なかなか立ち直れないでいました。
ロイド殿下にも、随分心配をかけていますが、どうしても悲しくて心が塞いでしまうのです。元気を無くした私を気遣って、ロイド殿下はいつにも増して優しくなり、私を側から離しませんでした。
気がつけばいつも優しく撫でられています。
「シルフィ、本当にどうしてしまったんだ?お前が悲しそうにしていると私まで気持ちが塞ぐようだ。何がお前をそんな風に悲しませているんだろう?頼むから早く元気になってくれ。」
そう言ってロイド殿下は私の頬を両手で持ち上げ、そっと私にキスをしたのです!!
『ヘッ?!』
『いま?なに?キス?』
『私、キスされた?殿下に?口に?』
『キャーーーーーーーッ!!!※∀#□◇☓◯△!?¢!!!』
どうやらロイド殿下は私を慰めようとキスしたみたいです。
『嘘でしょう?恥ずかしい!はずかしくて死ぬ!頭まっ白!!』
『私のファーストキス!!』
パニックを起こし、机の下に頭を突っ込んで、ロイド殿下のキスを何度も何度も思い出してしまい、恥ずかしくて死にそうです。
もう、どんな顔をして殿下の前に立てば良いのか分かりません!
もう!殿下ってば!こんな時に何してくれてるんですか!!
いくら私が魔獣だからといっても、気持ちまで魔獣になった訳ではありません!
その日、私は自分の葬儀が行われると聞いて、落ち込んでいた気持ちも何処かに飛んでしまって、ただひたすらファーストキスの恥ずかしさに悶えていたのでした。
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