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13] 側妃マルガリーテ
しおりを挟む私の名はマルガリーテ=ケンウッド。
ケンウッド皇国 皇王の第一側妃だ。
私が皇王の側妃として嫁いだのは18歳の時。
皇王と正妃の間に2年間お世継ぎが出来なかった為にもう一人の第二側妃マーガレット(18歳)と共に迎えられた。
私はすぐに懐妊し、第一王子マリオスを産んだ。
第二側妃であるマーガレットも、私がマリオスを産んだ半年後、第一皇女エリアーナを産んでいる。そして、その2年後第二皇女アンネリーナを産んだ。
結局、正妃との間には子は出来ず、正妃は25歳の時、心と身体を病んで死んでしまった。
当時、私は23歳、マリオスは4歳だった。
正妃が亡くなり、当然私は第一皇子の母である私が正妃に繰り上がるものと思っていた。なのに、皇王は正妃が亡くなった2年後、新たに18歳の公爵令嬢オリビアを正妃に迎えたのだ。
私の気持ちはズタズタになった。
子の産めない正妃に代わって皇子を産んでやったのに、皇王は私の嫌がらせが正妃の死を招いたと言って、私を責めて、正妃にしてくれなかった。
正妃に嫌がらせをしていたのは確かだけれど、貴族社会であの程度の嫌がらせなんて当たり前だ。
むしろ、たかがあの程度の嫌がらせで心を壊す正妃が弱すぎたのだ。
あれ程 皇王に愛されていながら、皇王の愛を信じられず、心を病むなんて、正妃として相応しくない。
皇王の隣に相応しいのはこの私だと信じていたのに、なんて酷い裏切りだろう。
私は皇王を恨んだ。
皇王が憎くてたまらなかった。
新しい正妃オリビアは美しく聡明で、正妃に相応しい教育を受けた公爵令嬢だった。公爵家だけあって、後ろ盾も十分で、皇王はすぐに若い正妃に夢中になった。
そして、すぐに懐妊し、1年後 第二皇子ロイドを産んだ。
そして更に、皇王は私のマリオスを差し置いて、産まれたばかりの第二皇子を皇太子としたのだ。
皇王は何処まで私を踏みにじれば気が済むの?
私の怒りは正妃オリビアと第二皇子ロイドに向けられた。
「皇太子なんてよぶものですか!私は絶対に認めない!」
それからの私は、正妃と会えば嫌らしく嫌味を言い、常に第二皇子の命を狙った。
どれも運が悪ければ死ぬかもしれない程度の嫌がらせだったが、私は何時だって、第二皇子の死を望んでいた。
私が正妃と第二皇子を狙っている事は、皇王も正妃も気づいていただろう。
2人はとにかく私を警戒していたから。
どうにか皇子を暗殺出来ないかと、私は知恵を絞った。
毒草をたっぷり食べさせたウサギを食材の中に紛れ込ませたり。(何も知らない料理長は、毒ウサギのシチューを皇子に出して、処刑された。毒味をしたメイドが中毒を起こしただけで、皇子が毒ウサギを食べる事は無かった。普通は汁を毒味するだけなのに、肉まで食べるなんて、なんて卑しいメイドかしら。お陰で失敗しちゃったわ。何も知らない料理長は、最後まで無実を叫んでいたそうだ。)
又、ある時は、皇子が好きな散歩先の庭に毒蜂を放した。運悪くメイドが刺されて、ショックを起こして死んだ。皇子が毒蜂に刺される事は無かったようだ。(残念だわ、もう少しだったのに。)
皇城中を楽しく走り回る子供達、私はタイミングを見て、階段を駆け上がるマリオスを呼び止めた。後からピッタリとついて行っていた第二皇子はマリオスにぶつかりそのまま階段から転がり落ちた。首でも折って死ねば良かったのに…第二皇子は肩を脱臼しただけだった。(忌々しい、なんて運が良いの。)
それからも、私はチャンスがあれば皇子を狙った。
冬の森で迷子にさせたり、使われていない離宮に閉じ込めたり、でも…
何度も何度も、失敗する。
第二皇子に正妃の実家以外の後ろ盾がつかないように、私の兄コーナン侯爵の産まれたばかりの末娘を第二皇子の婚約者にした。この時、皇子は10歳、年は随分離れているけれど
「私が皇子を殺そうとしているなんて根も葉も無い噂ですわ。私は身の潔白を証明する為、お兄様の娘、私の可愛い姪を、皇子の婚約者とし、我が実家、コーナン侯爵家が、皇子の後ろ盾となりましょう。陛下は私を信じて下さいますわよね。」
そう言って、私は第二皇子に正妃と公爵家以外の後ろ盾がつく事を阻止したのだ。
それからも、私は第二皇子の運頼みの暗殺を続けた。
第二皇子が15歳になった時、私は第二皇子の寝室に女を送った。
女に溺れて馬鹿になればいい…
思春期の恋ほど男をダメにするものはない。
だが、これも失敗した。
第二皇子は女に見向きもせず、その場で女は護衛に手打ちにされた。
女が失敗した時は、処分する様に私が命令しておいたからだ。
それからも、何度か女を送ってみたが、第二皇子は女に溺れる事は無かった。若い男が女の誘惑に見向きもしないなんて、不能では無いかしら?
腹が立つので、やんわりとした言いようで、皇子は不能だと噂をバラ撒いてやった。少し溜飲が下がった。
皇子は22歳になった。
婚約者がまだ幼い為、未だに成婚しておらず、世継ぎもいない。
私の思い通りだ。
本当はここまで生かしておく気は無かった。
全く運の良い男だ。
だが、チャンスがやって来た。
先日から【深淵の森】の様子がおかしいらしい。
魔力が揺らいでいて、もしかしたらダンジョンの発生か?スタンピートの起こる前触れか?と魔術師団、魔物討伐団、そして第二皇子が団長を務める第二騎士団が【深淵の森】へ偵察に行く事になったのだ。
【深淵の森】に隣接する我が皇国は何時だって魔物の襲撃に備えている。
【深淵の森】の魔力の揺らぎは無視できない案件だ。私は魔術師団に暗殺者を潜り込ませた。
【深淵の森】ならば何が起こってもおかしくは無い。
今度こそ、皇子の死に顔が見れると期待していたのに、暗殺者に転移の途中で弾き飛ばされ、行方不明となった筈なのに、たった1人【深淵の森】で魔獣に襲われて死んでしまえば良かったのに、なんと皇子は、白銀の守護獣を従えて、【深淵の森】から帰還したのだ。
「どこまで運が良いの?」
私は悔しさに握りしめた扇を折った。
「無事の帰還お祝い申し上げます。行方不明と聞いてとても心配していたのですよ。」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。マルガリーテ様。」
憎い心を押さえて、笑顔で迎えてやったわ。
今に見ていなさい。今度こそ殺してやりましょう。決してお前を皇王になどさせるものですか!
自室から夜空を見上げると、美しい弧を描いた三日月が、一際美しく輝いていた。
それからも私は度々、暗殺者を送ったが、忌々しい!
皇子の連れて帰ってきた魔獣が私の邪魔をする。
魔獣相手に私は悔しくて、どんどん気持ちがエスカレートしてしまい、とうとう陛下に王宮から遠ざけられてしまった。
しかも、マリオスも一緒に!
それどころか、実家である侯爵家まで、不毛の地に領地替えされてしまった。
(失敗した…)
魔獣相手にムキになり過ぎてしまったわ。
明確な証拠が残るようなヘマをした覚えは無い。けれど、皇城から遠ざけられ、北の離宮にやられるという事は、ほぼ罪人扱いで、幽閉されるという事だ。
しばらくは大人しくしているしか無い。
お兄様からも自重するようにと手紙が来ている。
マリオスの為にも私に失敗は許されないのだから…
「今に見ていなさい、きっと私の息子マリオスを皇王の座に付けて見せるわ。」
私は、固く固く心に誓った。
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