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11] ケンウッド皇国にやって来ました
しおりを挟む【深淵の森】を出て2日目、私達を乗せた馬車はケンウッド皇国に入国しました。
皇都までは後少しかかるそうです。
「皇城へ連れて行くなら、名前を付けないとな!」
突然殿下が言い出しました。
―――殿下はやっぱり、私の記憶にあった、隣国の皇太子様、ロイド=ケンウッド様で間違いありませんでした。―――
『名前?』
「見事な白銀の毛並みだからシルバーはどうだ?」
殿下が私のほっぺをムニムニしならそう問いかけます。
「男らしくないですか?女の子でしょう?もう少し可愛い名前にしたらどうですか?」
ジュリアス様が待ったをかけて下さいました。
「女の子?」
殿下がキョトンとしています。
「女の子でしょう?なんとなくおとなしいですし、仕草も何だかエレガントですし、オスのようなガサツな所が1つもありませんから、違うんですか?」
『ジュリアス様ってば見る目があるわね。そうよ、私は女の子なのよ!』
ジュリアス様に尻尾を振ると、
「ほら!やっぱり!」
そう言って、フンスと鼻息を吹きました。
「どれ」
そう言って、殿下は私の両脇に手を入れて、私の腹側が見えるように持ち上げたかと思うと、乙女の股間を確認したのです!!!
「ホントだ。お前 女の子だったのか!」
『イヤ―――――――ッ!!☒◯△!!♀♂※#∀*!!!!!』
私はあまりの恥ずかしさに身体をよじり、ロイド殿下の手から逃れて、慌てて座席の下に隠れました。
『恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい………乙女の股間を見られるなんて!もうお嫁に行けません!殿下のバカバカバカ~~~~~!!!』
「キュンキュン」と鳴き声が漏れてしまいます。
「ゴメンゴメン 怒ったのか?機嫌を直して出て来てくれないか?」
「殿下、仮にも乙女の股ぐらを覗くなんて、男の風上にも置けませんね。」
「イヤ…だって魔獣だし…」
「これ程人間の言葉を理解しているのです。乙女として羞恥心を持っていてもおかしく無いでしょう。」
「羞恥心って……」
私の気持ちも知らないで、和やかに話している2人。
「じゃぁ、シルフィはどうだ?」
「いいんじゃないですか?可愛いです。」
「シルフィ」
殿下が座席に潜り込んでいる私に合わせてしゃがみ込んで話しかけて来ました。
「シルフィ、悪かった。女の子だって気づいてやれなくて、この通り謝るから、機嫌を直してくれないか?もう2度と、あんな無神経なマネはしないと誓うよ。さぁ、出ておいで。」
『しょうが無いですね。』
私はソロソロと座席の下から出ると、あっという間にロイド殿下に抱えられ、ロイド殿下の膝に乗せられて、背中を撫でられました。
優しい手つきに気持ち良くなって思わず尻尾も揺れてしまいます。
「機嫌は直ったか?」
ロイド殿下も嬉しそうに私を撫でながら「シルフィ」と優しく私の名前を呼んでくれました。
◇ ◇ ◇
皇城に着くと、殿下は早速 皇王に呼ばれました。
部屋で身支度を整え、準備が出来ると、謁見の間へ出向きます。
私は予想通り、馬車を降りた途端、周りの人達に恐れられ、危うく攻撃されそうになりましたが、殿下が私の事を大事な護衛だと紹介してくれて、事無きを得ました。
でも、殿下と離れるのが怖くて、私はずっと殿下の横にピッタリと寄り添って歩きました。
湯浴みの為、殿下と離された時は本当に怖くて、ソファーの下にずっと隠れて、うずくまっていました。
殿下が
「そんなに怖いなら一緒に入るか?」
そう言ってくれましたが…
『それはムリ~~~』
私の心臓が口から飛び出しそうでした…
殿下が私も謁見の間に連れて行くと言うので、私は軽く自分に浄化魔法をかけて、良い匂いをさせているロイド殿下に恥ずかしく無いように、身だしなみを整えました。
白銀の毛並みはツヤツヤして、獣臭さなんて全くありません。
メイドや、侍女がそんな私を見て、びっくりしていました。
「凄いだろう?私のシルフィは。皆も彼女を大切に扱うように!」
そう言って、メイド達に命令してくれました。
これで、私に危害を加える様な人はいなくなるでしょう。
命令してくれた殿下に感謝しました。
謁見の間には既に皇王と、殿下の実母である正妃が待っていました。
「父上、母上、お待たせしてしまい、申し訳ございません。ご心配をおかけしましたが、ここに居るシルフィのお陰でなんとか無事に帰って来る事が出来ました。」
「良く戻った ロイド。心配したぞ、どこにも怪我は無いのか?」
「はい。父上、一時は危ない時もありましたが、シルフィの治癒魔法のお陰で事無きを得ました。」
「ロイド、本当に無事で良かった。ここへ来て、もっと良く顔を見せてちょうだい。」
「はい、母上。」
「良かった、本当に…」
うるうると涙の滲む瞳を愛おしそうに殿下に向けて、彼の無事を確かめる王妃様。
私のお父様とお母様も、こんな風に私の事を心配しているのかしら…
両親の事を思い出し、少し悲しくなりました。
「ところで その魔獣は随分そなたに懐いているようだが人間を襲う事は無いのか?」
「はい、父上 大丈夫です。彼女は大怪我を負って魔獣に囲まれていた私を助けてくれ、私の怪我を治癒魔法で癒し、体力が無くなって気を失った私を結界魔法で包み、目覚めるまで、あらゆる脅威からずっと私を守ってくれたのです。人間である私の言葉も良く理解していて、まるで人間のようだと思う程です。常に私に寄り添い、ここに戻るまで、あらゆる危険から私を守ってくれました。」
「なんと!魔法が使えるのか?魔獣なのに?」
「ええ、治癒魔法、浄化魔法、火魔法、水魔法、風魔法、更に雷魔法まで、ほとんど全ての属性の魔法が使えます。」
「それは凄いな。」
「父上、どうか彼女をこのまま私の側に置く事をお許し下さい。彼女は私にとって素晴らしい守護神なのです。」
「人間に危害を加えないのであれば許そう。もしも何かあった時は、お前に厳しく責任を追及する事になる。肝に銘じて置くように。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「さぁ、久しぶりに戻ったのだ、疲れたであろう。ゆっくりと休むと良い。下がって良いぞ。」
そうして、皇王にも滞在許可を貰い、私は皇城で過ごす事になりました。
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