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10] 変身のネックレス 〜ナディア〜
しおりを挟む私は、双子の姉のリディアが大嫌い。
いいえ、憎んでいると言ってもいいわ。
ほんの少し先に生まれただけで、王太子妃の座も、全属性の魔法を使える事も、善良そうなあの顔も、何もかもが気に入らない。
リディアは、小さな頃から妃となる為の教育を受ける為に城へ通い、アラン様と親交を深めていたわ。
誕生日には、アラン様からステキなプレゼントをもらい、お茶会や夜会には、アラン様から贈られた、美しいドレスとアクセサリーを身に纏い、アラン様が迎えに来て、アラン様のエスコートで会場へ入る。
そして、2人 見つめ合いファーストダンスを踊る。
羨ましい。
妬ましい。
私が先に生まれていれば…
私にリディア程の魔力があったら…
アラン様の隣は私のものだったのに…
悔しい、悔しい、悔しい。
仲睦まじい2人の姿を見るたび、私の心の中にどす黒いものが溜まっていく。
私の方が美しいのに。
私の方が学園でも優秀なのに。
私の方がアラン様を愛しているのに。
悔しくてたまらない。
だから私はリディアをこの国から追い出す事にしたの。
どうやるかって?
うふふ………
私ね、とってもステキな物を持ってるの。
昔、お祖父様に教えてもらった、変身のネックレス。
小さな頃、私はいつも1人だった。
仕事に出かける父。
学園に通う兄。
リディアの妃教育に付き合って登城する母。
私はいつもお留守番。
そんな私の相手を、いつもしてくれたのはお祖父様だった。
お祖父様は、私に勉強を教えてくれ、散歩を一緒にしてくれ、遊び相手になってくれた。
中でも、私が一番好きだったのは、お祖父様自慢の宝物庫だった。
家宝の宝石や、貴重な魔導具、美術品や、宝剣など、広い部屋は宝物で一杯だった。
お祖父様は、面白おかしく、宝物の説明をしてくれた。
時には、面白い魔導具を使って見せてくれた。
透明人間になれる魔導具。
キラキラと星を映し出す魔導具。
結界を張る魔導具。
それらは、古い物で、やたらと魔力を吸い上げる為、今ではもう、使われていない物だった。
中でも、私が一番好きだったのは、変身のネックレスだった。
私は、変身のネックレスで、お祖父様に猫に変身させてもらって木に登ったり、小鳥に変身させてもらって空を飛んだりした。
お祖父様がネックレスの魔石を握り、魔力を込めて、私に向かって「猫になぁれ」そう言うだけで簡単に変身出来た。
「人間に戻れ」それだけで簡単に戻る事も出来た。
難しい魔法陣も詠唱もいらない、とても手軽で簡単に使える魔導具だった。
ただ、昔の物だから、それなりに多くの魔力を必要としたので、子供の私では魔力が枯渇する為、使う事は出来なかった。
お祖父様はとても魔力の多い人だったので、余裕だったけれど…
そんなお祖父様も3年前に無くなってしまった。
お祖父様が亡くなってからは、宝物庫に行く事も無くなってしまったけれど、私はリディアを追い出す為に、あのネックレスを使う事を思いついたのだ。
リディアを魔獣に変えてやろう。
2度と、ここに帰ってこれないように…
ネックレスの保管場所はしっかりと覚えている。
宝物庫の鍵の場所も把握している。
私は、誰にも気づかれないように、こっそりと宝物庫からネックレスを持ち出した。
スッカリ魔力を無くして、今は使えないけれど、私は夜な夜なネックレスに魔力を込めた。
毎晩、目一杯魔力を込めて、気絶するように眠る。
ネックレスの魔力を満タンにするのに1ヶ月以上もかかってしまった。
これだけの魔力を1日に2度も3度も充填出来たお祖父様の魔力の大きさに感心する。
注いでも、注いでも、手応えの無いネックレスに、壊れてしまったのかと、心配になった程だ…
やっとの事で、魔力を一杯にして、わたしは…慎重に計画を立てていく。
リディアは王太子妃になるということもあって、常に護衛が付いている。表に2人、影が1人、最低でも3人が常に付いている。
その上に専属侍女が1人、メイドが2人…
リディアが1人になるなんて事はほとんど無い。
私はじっくりとチャンスを伺った。
リディアとアラン様の結婚はリディアの18歳の誕生日を待って行われる。
18歳の誕生日まで後1ヶ月と少し。
私は、もうすぐ結婚して王宮に入るリディアに昔のように一緒に眠りたいと言って、リディアの部屋に押しかけた。
リディアは驚いていたけれど、ふんわりと微笑んで、
「そうね、ナディアとこの屋敷で過ごすのも後少しだもの…」
そう言って、2人で同じ寝台に入った。
そして、小さかった頃の想い出を語る。
「リディアはいつも王宮に行っていて寂しかったわ。本当はもっと一緒にいたかったのに…」
「私ももっと一緒にナディアと過ごしたかったわ。」
「リディアがお城に行っている間に、いつも私と遊んでくれたのはお祖父様だったわ。お祖父様のお陰で、あなたのいない寂しさも随分和らいだわ。」
「私、本当はね、いつもお祖父様と一緒にいられるナディアがとても羨ましかったのよ。私が王宮から戻ると、いつもナディアが今日はお祖父様とあんな事をした、こんな事をしたって、たくさん教えてくれたでしょう?私も、もっとお祖父様と遊んでもらいたかったわ。」
「そうね、私もリディアと一緒に遊びたかったわ。」
リディアは私が屋敷で1人で留守番している時、お母様を独り占めしていたじゃない。教育と言ってアラン様とも2人で過ごしていたくせに、私の事が羨ましいですって?ふざけないでよね!
「お祖父様は本当に優しくて、ステキな方だったわ。中でも魔導具を使ってお祖父様と遊んでいた事は今でもはっきりと覚えているわ。ねぇリディア、私ね中でも変身のネックレスが一番好きだったのよ。」
「私も良く覚えているわ。今日は猫になったの、今日は小鳥になって空を飛んだのと、ナディアはとても嬉しそうに話していたものね。」
「えぇ、私、お祖父様が大好きだったわ。今も、ずっと…」
そうして、私達は夜通しおしゃべりをしながら、夜を過ごした。
そして、私は夜中そっと起き上がり、リディアにネックレスを向けて、呪文を唱えた。
「魔獣になぁれ。」
スヤスヤと眠るリディアは、白銀の大きな犬型魔獣に姿を変えた。
リディアの寝衣をそっと脱がせて、起こさないように寝台から出て洗面室に向かい、リディアの寝衣を火魔法で跡形もなく燃やして、部屋に戻ると、バルコニーに続く窓を開けて、寝台に戻り、リディアを起こした。
「リディア、リディア、起きて。」
小さな声で囁くようにリディアの肩を揺すりながら名前を呼んだ。
魔獣になった自分の身体を見て驚くリディアに、今迄の鬱憤を晴らすように私の本当の気持ちをぶちまけてやったわ。
ヴゥ…ヴゥ…と唸り声しか上げられないリディアを見て、笑っちゃったわ。
そして私はリディアに別れを告げると、大きく息を吸い込んで、
「キャ―――――――ッ!!!」
外にまで響く大きな悲鳴を上げて、寝台から転がり落ちたように装った。
「誰か―――!助けて―――!リディアが!!魔獣が!!」
慌てて護衛が扉を開けて中に入って来る。
少し遅れて侍女もやって来た。
「魔獣が…魔獣が部屋に!!」
「何だ!どうして魔獣がこんな所に?!」
護衛がリディアに向かって剣を抜く。
「ナディア様!早く部屋から出てください!!侍女殿!早くナディア様を安全な所へ!すぐに屋敷の者に伝えてください!!」
「リディア様!リディア様!ご無事ですか?!」
「ワン!ワン!!」
魔獣になったリディアが、何か吠えているけれど、護衛の1人がリディアに向かって斬りつけていく。
剣がリディアの肩をかすった。
「キャン!!」
リディアの悲鳴が部屋の外まで響く。
そのまま殺されてしまえばいい。
私は侍女の腕の中でリディアの死を願った。
逃げ惑うリディアと追いかける騎士。
リディアは手傷を負って開けていた窓から外へ飛び出した。
何人もの騎士が後を追う。
「街の警邏隊にも連絡を!リディア様が行方不明だ!魔獣を逃がすな!必ず捉えろ!!」
リディアは転移魔法を使ってまんまと逃げてしまった。
残ったのは血塗れになって乱れた部屋だけ。
リディアの痕跡は1つも残っておらず、行方は分からないまま。
リディアの死体が見つからないのは残念だけれど、これでアラン様は私の者よ!
◇ ◇ ◇
リディアが
魔獣に襲われ、行方不明になった事は王宮にもすぐに知らされ、大規模な捜索が行われたが、リディアも魔獣も見つける事は出来なかった。
魔獣(リディア)は【深淵の森】の奥に逃げ込んだらしい。
最後に魔獣(リディア)を取り逃がしたと報告が来て、私はリディアの死を確認出来ない事に不安を覚えたが、この変身のネックレスが私の手にある限り、リディアは2度と人間には戻れない。そして、魔獣の姿のままでは2度と王都には入れない。
リディアはこのまま死んだ事になるだろう。
大丈夫よ、リディアはもう2度とここへは戻って来れないわ。ふふふふふ………
両親や兄、使用人達が大勢いる前で、私は泣きながら心の中で快哉を叫んだ。
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