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9] いざ!皇国へ!
しおりを挟む皇太子(多分?)を助けて10日程が過ぎました。
今日は朝からお肉です!
皇太子様は時々ウサギを狩ってこうして捌いて、焼いて、私に食べさせてくれるのです。
『なんて良い人なのかしら、あんまりにも嬉しくて、尻尾が揺れてしまいますわ!』
お肉を食べながら、皇太子様がチラチラと私を見てきます。
『何かしら?』
そう思って皇太子様を見つめると、おもむろに
「そろそろ城に戻ろうと思うんだ。」
そう言いました。
私は突然の事に、お肉を食べていた口がピタリと止まりました。
揺れていた尻尾も、しゅんとしてしまいました。
そうですよね、皇太子様ですもの(多分?)
いつかは帰らないとダメですよね。
「一緒に行かないか?」
『私も一緒に行って良いの?私、魔獣ですよ?私なんか連れて帰って大丈夫なんですか?』
皇太子様が私の返事を待つように、じっと私を見つめています。
私だって、いつかはこの森を出て、人間に戻る為の努力をしないといけません。
マルコシアス帝国に戻れないなら、ケンウッド皇国で人間に戻る為の道を探したいです。
私は皇太子様に
『よろしくお願い致します。』
と、頭を下げました。
すると、皇太子様は嬉しそうに笑顔になり、そっと伸ばした手で、私の頭に触れました。
初めての彼からの触れ合いに、私はじっとしてその手を受け入れました。
優しく頭を撫でてくれる彼の手は、とても心地良いものでした。
その夜もいつもの様に彼に寄り添い、小さな結界の中に入って、お互いの体温を分け合う様にして、眠りに就きました。
明日はいよいよこの森を出ます。
翌朝、私は、これまでここで生活していた痕跡を、全て消しました。
もう誰が見ても、ここで誰かが住んでいたとは思わないでしょう。
そして、お世話になったリュート様に念話を飛ばして、皇太子様を助けた事、皇太子様と一緒に【深淵の森】を出る事を伝えました。
『上手く人間に戻れるよう祈っておるよ。もしもダメな時は何時でもここに帰って来ると良い。』
そう言って、私を送り出してくれました。
2ヶ月以上をこの森で過ごしました。
私はここでの生活を忘れる事は一生無いでしょう。
今は、魔獣として、人の世界に戻ります。
正直 不安しかありません。
きっと、受け入れてもらう事は難しいでしょう。
でも、私は、人間に戻れるかもしれないこのチャンスを、逃す事は出来ません。
『絶対に人間に戻ってみせます!』
そう、強く強く心に誓いました。
帰ると決心した皇太子様の行動は早かったです。
魔法で鳥を飛ばし、「帰る」と側近に先触れを出しました。
「すぐにお迎えに上がります!!」
そう返事が来ました。
前回、転移陣を使って魔導士に裏切られ、殺されそうになった皇太子様は、転移陣を使う事を嫌ったので、私の魔法でこまかく転移しながらケンウッド皇国を目指しました。
国境に近づいた所で暗殺者に襲われました。
すぐに自分の無事を連絡出来るはずだった皇太子様が、なかなか連絡を取らなかったはずです。どうやら城に敵がいるようですね。それも、ごく身近に…
皇太子さまは、私の回復魔法の効果もあって、休養も十分、あんな大怪我をしていたとは思えない程、元気一杯です!
あっという間に 敵を制圧していまいました。
私はといえば、皇太子様が怪我をしないように、彼の周りに結界を張っていただけでした。
暗殺者をひとまとめにして、森の中に捨てて来た私達は、しばらく進んだ所で殿下の側近2人に迎えられました。
黒髪、青い瞳のジュリアス=レイダー様は殿下と同じ22歳で侯爵子息。
茶髪、茶色い瞳のフレッド=タイラント様は25歳で子爵家の次男で次期近衛騎士団長と目されているらしいです。
2人は皇太子様の前に跪き、皇太子様の命を危険にさらしてしまった事を謝罪しました。
そして、無事で本当に良かったと心から安堵していたのです。
そして、皇太子様の後に控える私を見て、固まりました。
「「魔獣?!!」」
「殿下!危ないです!下がってください!」
「大丈夫だ、彼は味方だよ。わたしの怪我を治癒し、私を他の魔獣から守ってくれたんだ。私の命の恩人?いや、恩犬だよ。」
側近2人は、まだ信じられないとばかりに、私を睨んでいます。
『いやだ…睨まないでほしいわ…怖いから…』
私は、皇太子様の後に隠れました。
「大丈夫だ。」
皇太子様は、私を安心させるように私の首を撫でてくれます。
「ジュリアス、フレッド、この子は、魔獣に襲われていた私を雷魔法で助け、治癒魔法で私の怪我を治してくれたんだ。この子と10日程一緒に過ごしたが、こちらの言う事を良く理解し、私が見ただけでも、光、火、風、水、雷と、ほとんどの属性の魔法を使える凄い魔獣なんだ!私が無事にここへ帰って来れたのはこの子のお陰だよ!」
驚いた顔をして、私を見つめる側近2人の視線が何だか居心地が悪くて、そっと皇太子様の後ろから2人を覗きました。
すると、2人は私を見て、
「ロイド殿下を助けていただいて感謝する。」
そう言って、騎士の礼をしてくれました。
「わかったならサッサと戻るぞ。城はどんな状況になってる?」
「「は…はい!!」」
2人が用意してくれた馬車にジュリアス様と皇太子様と、私で乗り込みます。
フレッド様は護衛兼、御者だそうです。
そうして、私達はケンウッド皇国の皇都に向かって出発しました。
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