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8] 救世主 〜ロイド〜
しおりを挟む国境にある【深淵の森】で魔獣の異常行動、そしてドラゴンの移動が確認され、ダンジョンの出現か?はたまたスタンピートの予兆か?と、城が騒然とし、すぐさま調査隊が結成され、【深淵の森】に向かう事になったが、魔導士の1人に裏切られ、転移の途中に何処かもわからない森の中に置き去りにされてしまった。
太陽と星を見て、位置を確認して、自分がおそらくマルコシアス帝国側の【深淵の森】にいる事を確かめた。
「全く!あの女は何を考えているんだ!!」
ドラゴンの移動に、上級魔獣の異常な行動、魔力の揺らぎなど、国民に緊急事態が起きているというのに、義息子の命を狙っている場合じゃぁ無いだろう!
「くそっ!!」
次々と魔獣に襲われ、脇腹をやられて痛みに顔が歪む。
血に誘われて、多くの魔獣が引き寄せられて来る…
私が転移陣から連れ出され、行方がわからなくなって、部下達は?ギュンタークは?
今頃 私を血眼になって探しているだろう。
火魔法で魔獣を倒しながら何とか逃げるが、何時までも持たないだろう。
魔力も体力も、もう限界が近づいている。
(どうすればいい…)
逃げて、逃げて、逃げて…
とうとう力尽きて足がもつれ、その場に倒れてしまう。
何とか大木を背にして、前を向く。
(もう終わりだ…)
そう思った時、凄まじい轟音と共に大地を揺るがせて雷が辺りを襲った!
私を取り囲んでいた魔獣が身体をピクピクと痙攣させて、すべて倒れていた。
いや、一匹だけ スッと立ってこちらを見つめる魔獣がいた。
白銀の身体はスマートで、大型の犬に見える。
垂れ耳で毛足の長い犬だ。
アメジストのような薄紫の瞳は知性に溢れている。
(魔獣に知性だって?どうかしている…私もここでおしまいか…)
目の前が暗くなる
(ダメだ…)
そう思ったのを最後に私は意識を手離した…
◇ ◇ ◇
(あたたかい…)
(モフモフとした 毛皮?)
手の中からモフモフの感触が無くなった?
そして、自分に寄り添っていた温もりも離れて行った。
ゆっくりと目を覚ます。
(洞窟?)
目だけで左右を見回す。
(ここは何処だろう?)
(私は生きているのか?)
(誰かが助けてくれた?)
(誰が?)
(こんな森の奥で?)
頭の中は疑問でいっぱいだ。
(脇腹の傷が無くなっている?)
私はゆっくりと身体を起こした。
洞窟では無く、張り出した岩を屋根にした岩影のような場所だった。
そして、私の目の前に、白銀の大きな犬型魔獣が、きちんと前足を揃えてお座りをして、私を見つめていた。
穏やかで、知性的なアメジストの瞳がじっと静かに私を見つめている。
私はゴクリと生ツバを飲み込んだ。
緊張感が辺りを包む…
側に川があるのだろうか?水の音がする。
耳の中でドクンドクンと心臓の音が響いている。
しばらく、1人と一匹はお互いを見つめ合い、動く事も出来ない程の緊張感が辺りをただよう…
その張り詰めた空気を先に破ったのは目の前の魔獣だった。
彼は静かに私から視線を外し、外へ出て行った。
「ふ~~~~っ キンチョーした…」
(ここは一体何処なのだろう?)
先程までの暖かさは無くなり、今は少し肌寒い。
自分の身体を確認する。
(血の跡が無い?それどころか傷も無くなっている?! 確かに脇腹をやられていたのに…)
衣類は確かに破れているのに、血の跡も、傷も無くなっている?
(どういう事だ?)
私が困惑していると、外からパチパチと音がした。
岩影から出ると、すぐ側に川が流れていた。
音のした方を見ると、先程の魔獣が川の中で、何かをしているのが見えた。
「何をしているんだ? 口に咥えているのは魚か?」
彼は川から上がって、側にある平らな岩の上に数匹の魚を置いて、なんと、火魔法を使って魚を焼いたのだった。
「うそだろ…魔法を使って、魚を焼く魔獣だなんて…」
魔獣は魚を焼くと、静かにその場を離れた。
そして、私が寝ていた岩屋根の下へ入り、ゴロンと横になった。
「まさか…あれは私に焼いてくれたのか?」
岩の上では、丁度良い具合にこんがりと焼かれた魚が、良い匂いを放っている。
「これは、私が食べても良いのか?」
バカバカしくも、私は魔獣に向かって話しかけていた。
魔獣はまるで「どうぞ」と言うように、尻尾を振った。
魔獣の焼いてくれた魚はとても美味しかった。
彼はとても魔法が上手だった。
そして、まるで人間のように私の言葉を理解していた。
朝、目が覚めると川で身を清めた。
彼が、風魔法で、濡れた髪を素早く乾かしてくれる。浄化付きだ。
何故だか、私が衣服を身に着けるまでは、決して側によって来なかったのだが、気を使ってくれたのだろうか?
そして、雷魔法で魚を捕り、火魔法でこんがり美味しく焼いてくれる。
信じられないが、私の傷を治してくれたのも彼のようだ。
きっと光属性も持っているのだろう。
私が身を清めている間に、寝床を風魔法でキレイに掃除して、浄化の魔法をかけている。
どうやら、彼はとてもキレイ好きらしい。
夜は、結界を張り、程よく結界の中を温めて、私と共に並んで眠る。
1日目は少し離れて、2日目、3日目と距離は縮まり、4日目には、私は彼を抱き締める様にして眠るようになった。
彼の毛皮はふわふわ、モフモフとしていて、とても触り心地が良かった。
「癒やされる…」
思わず言葉がもれた…
始めは嫌がる素振りを見せていた彼も、今ではスッカリ 私に気を許してくれているようで、私に身をまかせてくれている。
とにかく、こんなに魔法を使いこなす魔獣なんて始めて見た。血を失って、落ちていた体力も魔力も随分元に戻って来た。
私は少しでも彼に恩を返したくて、魔獣を狩って血抜きをして、捌いて、焼いて、彼に与えてみた。
やっぱり魚を焼いて食べていた事からわかるように、どうやら彼は生で食べるのが苦手らしい…
今、私が焼いてやったウサギのような魔獣の肉を目をキラキラさせて食べている。
物凄く嬉しいのか尻尾をブンブン振っている。
こうして見ていると、とても恐ろしい魔獣だとは思えない。
こちらの言う事は全て理解しているようだし、とても頭が良くて、優しくて、そして綺麗だ…
彼と一緒に暮らすようになって10日目。
体力、魔力共に元の通りに戻ったわたしは、城へ戻る事にした。
朝、狩って来たウサギの魔獣を捌いて、火にかけていた時、肉が焼けるのを見つめながら、私は彼に城に戻る事を伝えた。
そして、彼を一緒に連れて帰りたいと伝えた。
彼は、凄く驚いた顔をした後、少し考えを巡らすように目を閉じた。
そして、目を開き、私を正面から見つめると、よろしく頼むと言うように頭を下げた。
「こちらこそよろしく頼む。決心してくれてありがとう。」
そして、私は初めて自分から彼に手を伸ばし、彼の頭を撫でた。
眠っている時は無意識だったので、自分から手を伸ばして頭に触れるのは、少し緊張したが、彼は気持ち良さそうにじっとして目をつむり、私の好きにさせてくれた。
やっと、私は彼の友達だと認めてもらえたようで、とても嬉しい。
彼と一緒なら、遠くてもケンウッド皇国を目指した方が良いだろう。
善は急げと言う事で、次の朝、私達は城に向けて出発したのだった。
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