8 / 28
8] 救世主 〜ロイド〜
しおりを挟む国境にある【深淵の森】で魔獣の異常行動、そしてドラゴンの移動が確認され、ダンジョンの出現か?はたまたスタンピートの予兆か?と、城が騒然とし、すぐさま調査隊が結成され、【深淵の森】に向かう事になったが、魔導士の1人に裏切られ、転移の途中に何処かもわからない森の中に置き去りにされてしまった。
太陽と星を見て、位置を確認して、自分がおそらくマルコシアス帝国側の【深淵の森】にいる事を確かめた。
「全く!あの女は何を考えているんだ!!」
ドラゴンの移動に、上級魔獣の異常な行動、魔力の揺らぎなど、国民に緊急事態が起きているというのに、義息子の命を狙っている場合じゃぁ無いだろう!
「くそっ!!」
次々と魔獣に襲われ、脇腹をやられて痛みに顔が歪む。
血に誘われて、多くの魔獣が引き寄せられて来る…
私が転移陣から連れ出され、行方がわからなくなって、部下達は?ギュンタークは?
今頃 私を血眼になって探しているだろう。
火魔法で魔獣を倒しながら何とか逃げるが、何時までも持たないだろう。
魔力も体力も、もう限界が近づいている。
(どうすればいい…)
逃げて、逃げて、逃げて…
とうとう力尽きて足がもつれ、その場に倒れてしまう。
何とか大木を背にして、前を向く。
(もう終わりだ…)
そう思った時、凄まじい轟音と共に大地を揺るがせて雷が辺りを襲った!
私を取り囲んでいた魔獣が身体をピクピクと痙攣させて、すべて倒れていた。
いや、一匹だけ スッと立ってこちらを見つめる魔獣がいた。
白銀の身体はスマートで、大型の犬に見える。
垂れ耳で毛足の長い犬だ。
アメジストのような薄紫の瞳は知性に溢れている。
(魔獣に知性だって?どうかしている…私もここでおしまいか…)
目の前が暗くなる
(ダメだ…)
そう思ったのを最後に私は意識を手離した…
◇ ◇ ◇
(あたたかい…)
(モフモフとした 毛皮?)
手の中からモフモフの感触が無くなった?
そして、自分に寄り添っていた温もりも離れて行った。
ゆっくりと目を覚ます。
(洞窟?)
目だけで左右を見回す。
(ここは何処だろう?)
(私は生きているのか?)
(誰かが助けてくれた?)
(誰が?)
(こんな森の奥で?)
頭の中は疑問でいっぱいだ。
(脇腹の傷が無くなっている?)
私はゆっくりと身体を起こした。
洞窟では無く、張り出した岩を屋根にした岩影のような場所だった。
そして、私の目の前に、白銀の大きな犬型魔獣が、きちんと前足を揃えてお座りをして、私を見つめていた。
穏やかで、知性的なアメジストの瞳がじっと静かに私を見つめている。
私はゴクリと生ツバを飲み込んだ。
緊張感が辺りを包む…
側に川があるのだろうか?水の音がする。
耳の中でドクンドクンと心臓の音が響いている。
しばらく、1人と一匹はお互いを見つめ合い、動く事も出来ない程の緊張感が辺りをただよう…
その張り詰めた空気を先に破ったのは目の前の魔獣だった。
彼は静かに私から視線を外し、外へ出て行った。
「ふ~~~~っ キンチョーした…」
(ここは一体何処なのだろう?)
先程までの暖かさは無くなり、今は少し肌寒い。
自分の身体を確認する。
(血の跡が無い?それどころか傷も無くなっている?! 確かに脇腹をやられていたのに…)
衣類は確かに破れているのに、血の跡も、傷も無くなっている?
(どういう事だ?)
私が困惑していると、外からパチパチと音がした。
岩影から出ると、すぐ側に川が流れていた。
音のした方を見ると、先程の魔獣が川の中で、何かをしているのが見えた。
「何をしているんだ? 口に咥えているのは魚か?」
彼は川から上がって、側にある平らな岩の上に数匹の魚を置いて、なんと、火魔法を使って魚を焼いたのだった。
「うそだろ…魔法を使って、魚を焼く魔獣だなんて…」
魔獣は魚を焼くと、静かにその場を離れた。
そして、私が寝ていた岩屋根の下へ入り、ゴロンと横になった。
「まさか…あれは私に焼いてくれたのか?」
岩の上では、丁度良い具合にこんがりと焼かれた魚が、良い匂いを放っている。
「これは、私が食べても良いのか?」
バカバカしくも、私は魔獣に向かって話しかけていた。
魔獣はまるで「どうぞ」と言うように、尻尾を振った。
魔獣の焼いてくれた魚はとても美味しかった。
彼はとても魔法が上手だった。
そして、まるで人間のように私の言葉を理解していた。
朝、目が覚めると川で身を清めた。
彼が、風魔法で、濡れた髪を素早く乾かしてくれる。浄化付きだ。
何故だか、私が衣服を身に着けるまでは、決して側によって来なかったのだが、気を使ってくれたのだろうか?
そして、雷魔法で魚を捕り、火魔法でこんがり美味しく焼いてくれる。
信じられないが、私の傷を治してくれたのも彼のようだ。
きっと光属性も持っているのだろう。
私が身を清めている間に、寝床を風魔法でキレイに掃除して、浄化の魔法をかけている。
どうやら、彼はとてもキレイ好きらしい。
夜は、結界を張り、程よく結界の中を温めて、私と共に並んで眠る。
1日目は少し離れて、2日目、3日目と距離は縮まり、4日目には、私は彼を抱き締める様にして眠るようになった。
彼の毛皮はふわふわ、モフモフとしていて、とても触り心地が良かった。
「癒やされる…」
思わず言葉がもれた…
始めは嫌がる素振りを見せていた彼も、今ではスッカリ 私に気を許してくれているようで、私に身をまかせてくれている。
とにかく、こんなに魔法を使いこなす魔獣なんて始めて見た。血を失って、落ちていた体力も魔力も随分元に戻って来た。
私は少しでも彼に恩を返したくて、魔獣を狩って血抜きをして、捌いて、焼いて、彼に与えてみた。
やっぱり魚を焼いて食べていた事からわかるように、どうやら彼は生で食べるのが苦手らしい…
今、私が焼いてやったウサギのような魔獣の肉を目をキラキラさせて食べている。
物凄く嬉しいのか尻尾をブンブン振っている。
こうして見ていると、とても恐ろしい魔獣だとは思えない。
こちらの言う事は全て理解しているようだし、とても頭が良くて、優しくて、そして綺麗だ…
彼と一緒に暮らすようになって10日目。
体力、魔力共に元の通りに戻ったわたしは、城へ戻る事にした。
朝、狩って来たウサギの魔獣を捌いて、火にかけていた時、肉が焼けるのを見つめながら、私は彼に城に戻る事を伝えた。
そして、彼を一緒に連れて帰りたいと伝えた。
彼は、凄く驚いた顔をした後、少し考えを巡らすように目を閉じた。
そして、目を開き、私を正面から見つめると、よろしく頼むと言うように頭を下げた。
「こちらこそよろしく頼む。決心してくれてありがとう。」
そして、私は初めて自分から彼に手を伸ばし、彼の頭を撫でた。
眠っている時は無意識だったので、自分から手を伸ばして頭に触れるのは、少し緊張したが、彼は気持ち良さそうにじっとして目をつむり、私の好きにさせてくれた。
やっと、私は彼の友達だと認めてもらえたようで、とても嬉しい。
彼と一緒なら、遠くてもケンウッド皇国を目指した方が良いだろう。
善は急げと言う事で、次の朝、私達は城に向けて出発したのだった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる