【完結】魔獣の公女様 

nao

文字の大きさ
上 下
2 / 28

2] 深淵の森

しおりを挟む

人間に見つからない様に逃げるのは大変でした。
日中は、倉庫や廃墟、何処かの家の屋根裏や、高い木の上などにこっそりと隠れて、夜になると、ひたすら【深淵の森】を目指して走りました。
転移魔法は、知らない場所で地図も無く、座標が決められなくて、長い距離を飛ぶ事が出来ないため、走るしかありませんでした。
短い距離を何度も飛ぶのは、魔力の消費が激しく効率が悪いので…

ナディアに魔獣にされてから3日、なんとか【深淵の森】に逃げ込む事が出来ました。
森の奥へ奥へと入って行きます。

『ここまで来れば大丈夫かしら?』

走るのを止めてトボトボと休めそうな場所を探して彷徨います。

『疲れたわ…水が飲みたい…』

大きな木の又を見つけ座り込み、水魔法を使って水を出しました。
入れ物が無いから上手く飲めません。
一口サイズの小さな水の塊を空中に出して、それにかぶりつくようにして水を飲みました。

やっと一息つけたと思った途端、強い眠気が襲って来ました。

『少しだけ…』

自分の周りだけに小さな結界を張り、目を閉じました。





『どのくらい眠ったのかしら?』

強い獣の匂いと、殺気に目が覚めました。

『囲まれてる?』

赤い目、青い目、金の目、たくさんの目が、木々の向こうから私を囲んで、じっとこちらを見つめています。
グルグルと唸り声を上げ、今にも飛び掛かって来そうです。
私はすぐに、頭の中に攻撃の魔法陣を思い浮かべ、身体中に魔力を巡らせました。
少し休んだので、魔力も8割位まで回復しています。
身体の疲れも少しはマシなようです。

私がゆっくりと立ち上がったのを合図に、魔獣達が私に襲いかかって来ました。

『雷撃!』

バチバチとカミナリが爆ぜて、その場にいた魔獣達が全て、身体を痺れさせて倒れました。
わずか10秒程の時間で、全ての魔獣が戦闘不能になりました。

『魔法が使えて良かったわ。』

私の雷撃は、自分で考えていた以上に強力だったようです。
なんとか森の中でも生きて行けそうだと、少し安心出来ました。

雷撃で気絶した魔獣達を避ける様にして、その場を後にしました。

『お腹空いた…』

いくら魔獣になってしまったからと言って、本物の魔獣の様に、先程倒した魔獣にかぶりつくなんて出来ません。

『何か食べられそうな木の実や果実は無いかしら?…』

そう思いながら辺りを見回します。

グ~~~~~

『お腹が鳴るなんて、初めて経験しましたわ。』

側に倒れていたウサギの様な魔獣が視界に入りました。

『ダメ ダメ ダメ、無理よ、とても食べられる気がしないわ…』

頭を横に振ってウサギから目を逸らします。

『何処かに川とか、池がないかしら?』

鼻を空に向けて匂いを嗅いでみます。

『水の匂いがしないかしら?』

ピコピコと耳をそばだててみます。

『良く分からないわ…』

どうやら私の耳は、長いタイプの垂れ耳なので、音にはあまり敏感では無いようです。
それでも一生懸命 音を拾います。
何処からか水の流れる音?が聞こえるような気がします。
私はその音に向かって歩き出しました。

しばらく歩くと、サラサラと水の音がはっきりと聞こえるようになって来ました。
水の匂いも濃くなって来ました。

『やりましたわ!』

小さいですが、緩やかな流れの小川を見つける事が出来ました。
川の中を覗くと、手のひらサイズの魚が泳いでいるのが見えます。
私はそ~っと川の中に足を踏み入れ、

『雷撃』

先程、魔獣達に放った雷撃よりも弱めの雷撃を、川の中に撃ちました。
すると、白い腹を上に向けて、魚が浮いてきました。

『やったわ!』

私は魚が流れてしまう前に、急いで何匹か魚を咥えて、岸に上がりました。

『これなら食べられそうだわ。』

大きな石の上に獲った魚を並べ、その前に御行儀よくお座りして、頭の中に『火炎』の魔法陣を描きます。

『魚を消し炭にしないように気をつけないと…』

私は慎重に魔法を放ちました。

『火炎』

火加減も丁度良かったようで、石の上に並べた魚が、良い匂いをさせて焼き上がりました。
私は、少し冷めてから、それにかぶりつきました。

『~~~~~美味しい!!少し内臓が苦いけれど、とても美味しいわ!』

私は3匹あった魚をキレイに食べました。

魚を食べ終えて少し落ち着くと、涙が出てきました。

『お父様…お母様…  こんな身体ではもう家には帰れないわ………』

見つかった途端に殺されてしまう憧憬が、簡単に思い浮かびます。

『これから一体どうすれば良いの…』

うつ向き、ポロポロ涙を流しながら私は途方に暮れたのでした。





しばらく泣いた後、辺りも少し暗くなって来ました。

『泣いてもしょうがないわ!取りあえず今夜眠れる場所を探さないと。』

今夜、安心して眠れそうな場所を探す為、私は立ち上がりました。

『あまりここから遠くない所に良い場所は無いかしら?』

食料確保の為にも、あまりここから離れたくありません。

『ここから半径500mくらいで、良い場所は無いかしら?』

そう思いながら、辺りを調べて行きます。

『雨風がしのげて、なるべくこの水場の近くが良いわね。』

小川を遡って行くと、小さな滝がありました。その横に、屋根になるように岩がせり出している場所を見つけました。

私は慎重に他の獣がいないか確認していきます。
私の身体から溢れる魔力を薄く延ばして何か見つからないか調べます。
人間だった時は魔力を使う事なんてほとんど無かったので、色々試行錯誤しながら魔法を使います。
小さな頃、大きすぎる魔力に翻弄されていた頃、お祖父様が教えてくれた事が今、こんなに役に立つなんて…

「魔法は想像力が大切なんだ。」

「自分の想いを、魔力を使って実現出来るかな?」

王宮にばかり行っていた私が、お祖父様と交流した数少ない想い出が、私を助けてくれます。
お祖父様に感謝です。

『探索』

魔法を使って調べましたが、どうやら先客はいないようです。
少しせり出した屋根付きのその場所は枯れ葉の吹き溜まりになっているようで、奥に枯れ葉がたくさん溜まっていました。

『送風』

私は風を起こして、溜まっていた枯れ葉をキレイに掃除して、一番奥に潜り込みました。

『結界』

頭の中で唱えて、身体を包む小さな結界を展開して、私はそのまま身体を丸くして眠りにつきました。

『しばらくはここで暮らしましょう。そして、これからの事をゆっくりと考えましょう。先ずは元に戻る方法を考えないといけないわね。』

うつらうつらと考えているうちに、私はぐっすりと寝入ってしまいました。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

処理中です...