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【番外編】アルバート⑴
しおりを挟む冒険者になりたい。
小さい頃からの俺の夢。
俺の名前はアルバート レイクウッド
レイクウッド伯爵の次男で、双子の片割れだ。
うちは貧乏だ。 いや、貧乏だった。
伯爵家という身分はあれど、生活は平民とあまり変わらない。
朝から晩まで働いて、働いて、働いて、くたくたになって眠る。
それの繰り返し。
働いても、働いても、減らない借金。
父も、母も、兄様も、領の為、領民の為、頭を使い、身体を使い、必死で働いている。
それなのに、自然は無情だった。
次々と起こる 天災、魔物被害。
伯爵家の蓄えは 今やゼロになり、隣のアルファイド辺境伯に 援助してもらい、大きな借金を作る事になった。
そんな領の窮状を救ったのは 兄様だった。
兄様は、小さな頃から その天才的な頭脳で 領の収益を上げようと 色々なアイデアを 出してきた。
農業改革 イベント企画 特産品の制作、それらを使った商売で かろうじて借金をそれ以上増やす事無く 頑張ってきた。
兄様は天才だ。
我が領の神童だ。
俺は兄様を尊敬している。
将来は兄様を手伝って、いつか 領の借金を無くして、レイクウッド領を豊かな領地にするんだ。
そんな風に思っていた。
それなのに、兄様が 国一番の資産家である モルガン家の一人娘と 結婚して婿入りする事になった。
我が領にあった借金は あっけなく完済され、俺も リリも 贅沢な衣装を身に着けて きらびやかに 社交界デビューさせてもらった。
学園に通うようになると、2人の為にと 王都に 屋敷まで用意してもらって、社交の時期には 両親も その屋敷を 使うようになった。
ギリギリの生活から 貴族らしい生活に変わって、俺達の生活も 色々変わった。
学園に通い、貴族の令嬢 令息達と交流し、お茶会に呼ばれたり、呼んだり。
仕事に追われて クタクタになっていた頃が、夢みたいだ。
こんな ゆったりとした時間を 過ごせるようになったのも、兄様の お陰だと思う。
兄様はやっぱり凄い。
そんな風に、平穏な毎日に どっぷりとひたっていると、何だか無性に イライラして、むちゃくちゃに 走り出したくなる。
身体を目一杯 動かして、「うわーーーっ!!」と、叫びたくなる。
小さな頃の夢が俺の頭の中にむくむくと湧き上がって来てどうしようもなくイライラしたり、悲しくなったり、とても情緒不安定になっているのが自分でもわかる。
これが、思春期なのか?
反抗期なのか?
毎日、毎日、心の中の イライラを きれいに隠して、穏やかに笑って 友人達との時間を やり過ごす。
夜、1人で 寝台に 横たわっていると、
「冒険者になりたい」
そんな気持ちが 溢れてきて、我慢出来なくなる。
夜中にも構わず、外へ 走りに行く。
自分の気持を持て余して、毎日 イライラして、夜中 走り回って、毎日 毎日 少しずつ疲弊してゆく。
「アル、大丈夫?顔色が悪いわ。今日はもう 授業はいいから 屋敷に戻って 休んだほうが良いわ。」
リリが 心配そうに 俺を見ている。
「大丈夫だよ。心配いらない。」
作り笑顔で 誤魔化して、リリの横をすり抜け、自分の席に着いた。
「大丈夫には 見えないけどな。」
後ろの席から 声がかかる
「アレク」
アレクは、アルファイド辺境伯家の3男で、俺達の幼馴染だ。
「はぁ…」
「アル、お前 最近 ため息の数が ハンパ無いよな。何が気に入らないんだ?」
「何もかも。」
アレクの顔が、少しびっくりしたように 目を 丸くしている。
「冗談、大丈夫だよ。心配無い。きっと、反抗期みたいなものだよ。たぶん…」
「反抗期って… あんまり無理すんなよ。リリだって ずっと心配している。」
「わかってるよ、まぁ 休みには ダンジョンに潜って 発散してるから 」
「はぁ… あんまり心配させてくれるなよ。」
アレクにも、リリにも、心配をかけている事は ちゃんとわかっているんだ。
このままじゃダメだって事も、俺だってわかってる。
でも…
どうしようも無く モヤモヤして、ダメなんだ。
冒険者になりたい。
まだ 小さかった頃の 俺の夢
貧乏だった時は、生きるのに精一杯で、とうの昔に 忘れた筈の 夢だった。
レイクウッド領は 魔獣はびこる「魔の森」と、前人未到の「アステカ山脈」を領内に持つ 北端の辺境にある 小さな領だ。
魔物が 頻繁に出る 土地柄のせいか、訪れる冒険者も 多かった。
小さかった俺は、そんな 冒険者達に憧れていた。
そして、俺の尊敬する、S級冒険者 ライトと エマの夫婦は 最強のコンビで、強くて 優しくて 思いやりがあって、愛情深い2人が 俺は 大好きだった。
2人は 俺を見つけると、いつだって とっておきの 笑顔で迎えてくれた。
そして、まだ小さかった俺に、魔法や 戦い方、鍛錬の仕方など、色んな事を 教えてくれた。
そして、2人が話す冒険の話は、俺の心を ワクワクさせてくれた。
「俺もライト達のような冒険者になりたい。」
何時の日か、2人は 俺の夢になっていた。
でも、度重なる 災害のせいで 夢を見るヒマなんて 無くなってしまった。
俺の夢は、胸の奥の 箱の中に ひっそりと しまわれた。
ところが、兄様の 婿入りで、全てが変わった。
生活に余裕が出来ると、小さな頃に見た夢が、俺の胸の中で、再びくすぶりだした。
感情を抑えられずに イライラして、とうとう リリやアレク、兄様にまで 心配をかけるように なってしまった。
リリが兄様に相談したんだろう、兄様が 屋敷を訪れると連絡があった。
学園が休みの日、兄様が来ると聞いて、今日は ダンジョンには行かず 屋敷で 兄様を 待っていた。
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