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16 幼馴染
しおりを挟む「エリオス兄様と別れて!」
レイクウッド領に来て4日目
何だか、玄関ホールの方が騒がしいなと思って向かってみると、フワフワしたピンクゴールドの髪の少女が 何やら執事さんと揉めていました。
少女は、私を見つけると いきなり
「エリオス兄様と別れて!」
そう叫んだのです。
執事さんの制止を振り切り、ズンズンとこちらに向かって来た少女は、ピンクサファイアの瞳に怒りを滲ませて、私を睨みつけてきました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「私はエリオス兄様の恋人よ!兄様とは小さな頃からずっと2人、想い合ってきたんだから!それをあなたが横から お金でエリオス兄様を奪うなんて!恥ずかしいと思わないの?この!泥棒猫!」
「恥ずかしいも何も、エリオス様に恋人がいたなんて始めてお聞きしましたし、私はあなたのお名前も存じ上げないのですが…」
私は少し困ったわという風をよそおって頬に右手を当てて首をかしげました。
するとそこにエリィが走ってやって来ました
「カレン!」
「エリオス兄様!」
2人で名を呼び合い、走ってくるエリィの胸にカレンと呼ばれた少女が飛び込みました。
正直 チョット イラッとします。
エリィは私の婚約者なのに…
「やめろ!カレン!」
エリィはそう言いながら 少女の肩を両手で押さえて、自分から引き剥がしました。
「エリオス兄様、大丈夫よ、私が今 この女に言ってやったから。兄様をレイクウッド家の犠牲になんてさせないわ!」
「勘違いするな、カレン!この婚約は私が望んだものだ!政略的な条件がある事は認めるが、私がカトリーヌを好ましく思ってこのお話をお受けしたんだ!大体君と恋人だった事なんて、全く、一度も、無かったじゃないか!嘘を語るのはやめてくれ、迷惑だ!」
怒気もあらわにエリィが少女に向かって言います。
「酷いわ!エリオス兄様!私達 今迄 仲良くしてきたじゃない!」
瞳を潤ませて、エリィに手を伸ばそうとする少女を 汚い物でも避けるようにかわして
「やめてくれ!」
とエリィが少女を睨みつけます。
なおも、エリィの胸元に手を伸ばし、彼に縋り付こうとする少女を突き飛ばすように引き離して、エリィは私の元へ駆け寄ってくれました。
「すまない。カティ、大丈夫だったか?」
「ええ、エリィ、私は大丈夫ですわ。それより 彼女は?」
「カレンは まぁ幼馴染みたいなものだ。領が近くて、昔は両親達と付き合いがあったから、でも、決して彼女か言うような恋人関係だった事は全く無いから!」
「そうでしょうね…」
私はエリィを安心させるように笑って、1つ深呼吸して、カレン様に向いました。
「もしかして、カレン フェイブル様でしょうか?」
「そうよ!それが何!?」
「いえ、カレン フェイブル様と言えば最近、第三王子のエドワルド殿下の恋人だと噂のカレン様ではありませんか?」
ギクリと カレン様が固まる。
そう 彼女は学園ではけっこう有名な子爵令嬢なのである。
恋多き女として…
まずは第三王子 エドワルド殿下
次に宰相子息ライナス様
騎士団長子息ファビアン様
公爵家嫡男ギルバート様などそうそうたるメンバーと次々浮名を流している令嬢です。
そんな方がなぜ 今更、エリィと私の婚約に 文句を言ってくるのか、意味がわかりません。
だいたい エリィとの婚約については、父がそれこそ エリィの事を1つ残らず調べ上げていると思います。
エリィに恋人の影は1つもありませんでした。色んな方に 言い寄られていたようですが、エリィは 全く相手にしていませんでした。
確かに お二人が小さな頃、エリィの領地が借金まみれになる前は、共にアルファイド辺境伯家の庇護下にある家と言う事で、フェイブル家との交流もあったようですが、レイクウッド家が困窮した途端、近寄りもしていないようですし、今更 何を言っているのか?という話です。
案の定 私の言葉にカレンさまが固まりました。
「私は… 私は、大切な幼馴染が悪役令嬢のあなたの毒牙にかかるのを見過ごすなんてできないから、だからエリオス兄様とは別れてちょうだい!」
どこが「だから」なのか意味不明です。
しかも、悪役令嬢って何ですか?
そんなものになった覚えはありません。
小説の読みすぎではないでしょうか?
頭がお花畑すぎて話になりませんね。
「ただの幼馴染のあなたに 私達の婚約をどうこうする権利は 無いと思うのですが、それとも あなたの恋人である エドワルド王子殿下に 命令してもらいますか?まぁ エドワルド王子殿下が、陛下がお認めになった婚約を恋人に請われたからと言って、そんな命令を出すとも思えませんが…」
「ひどい!」
そう叫んで、エリィを見つめて
「お願いよ!エリオス兄様!目を覚ましてちょうだい!」と、言った。
そんなカレン様を ウンザリしたように冷たい目で見つめながら…
「目を覚ますのは君の方だよ、カレン。とにかくカティに謝罪してくれないか。さっきから聞いていれば、意味のわからない事ばかり、しかも カティにとんでも無い暴言を吐いている自覚は無いのか?」
眉間にくっきりとシワを入れて、エリィも 物凄くいやそうです。
ちょっとヒンヤリしてきました。
「だって!悪役令嬢だもの!」
「だから、その悪役令嬢っていうのはなんなんだ!」
「エリィ 私が…」
私は怒り心頭のエリィの腕を取って、カレン嬢に向かって ハッキリと宣言しました。
「カレン様、確かに政略的な意味が大きな婚約ですが、私はエリオス様をお慕いしています。私は政略結婚だとは思っておりません。ですから あなたの願いを聞く事もありません。今日の事は 父からもフェイブル家に厳重に抗議させていただきます。それでは どうぞお帰り下さい。エリィ、行きましょう。」
「ん?エリィ?」
エリィを見ると、片手で口元を押さえて、私から視線を外すように、あらぬ方向を見ています。
どうしたのかしら?
「いや…大丈夫だ 行こう。カティ。」
あれ?何だか 顔が赤くなっていませんか?
「エリィ?」
「いや…あの…カティから初めて『お慕いしている』なんて言われたので…」
その言葉を聞いた途端、私は先程 自分がカレン様に放った言葉を思い出して、途端に恥ずかしくなってしまいました。
私まで 顔が赤くなっていきます。
「何なのよ!もーーーっ!私を無視しないで!」
それからも、カレン様は なにか喚いていましたが侍従や執事に抱えられるようにして、屋敷から 追い出されていました。
私とエリィは2人で顔を赤くして、しどろもどろになりながら 何とかその場から離れたのです。
(あーーー 恥ずかしすぎる!!)
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