私のかわいい婚約者【完結】

nao

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5 ペトラ スカーリン

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悔しい!悔しい!悔しい!

ペトラは自室でクッションを掴んで 何度もソファーに叩きつけていた。

「エリオス様、どうしてあんな女と…」

柔らかく微笑みながら婚約者をエスコートするエリオスを思い浮かべて、嫉妬で身の内が燃えるようだ。

初めてエリオス様を見た時、その美しさに思わず見惚れてしまった。
赤銀色の長い髪を一つに結んで左の胸に流し、ルビーのような赤い瞳は私の心を恋の炎で燃やした。
一目惚れだった。

入学試験で1位に輝き、壇上で挨拶をする姿は、神が降臨したかのようだった。
その日から私は、エリオス様しか見えなくなった。

嫌よ!
エリオス様は私の者よ!
あんな女に渡すものですか!
成金伯爵令嬢のくせに身の程を思い知らせてやるわ!

次の日、私は早速取り巻きの令嬢達に

「成金娘を何とか出来ないかしら?」

と、話を持ちかけた。
こう言っておけば、後は彼女達が 私の機嫌を取るために、成金娘に色々やってくれるだろう。

そして、早速 色々とやってくれている。

成金娘が 婚約者であるエリオス レイクウッド様を、金で買ったと言う噂を広げ、成金娘の机に口汚い悪口を書き、教科書をゴミ箱に捨て、カバンを中庭の池に沈めた。うわばきを泥で汚し、彼女が身に付けているアクセサリーを趣味が悪いと貶めた。

クラスの女子は私に遠慮して誰も成金娘に声をかけない。
誰一人、成金娘をお茶会に招待しない。
貴族令嬢が誰からもお茶会に呼んでもらえないなんて貴族として致命的だ。
それなのに…
まるで成金娘を悪意から守るようにエリオス様が何時だって成金娘の側に寄り添っていた。

あんな女の何処がいいの?

私の機嫌はどんどん悪くなってゆく、それと比例するように、取り巻き達の嫌がらせもどんどんエスカレートしていった。

ある日、成金娘めがけて窓から汚水を捨てた。

汚水にまみれて、濡れ鼠になった成金娘を皆んなで笑っていると、エリオス様が慌ててやって来て、汚れるのも構わず、成金娘を横抱きにして、去って行った。

悔しい!悔しい!悔しい!

拳を握りしめる。
長い爪が手のひらに食い込んで 血が出そうだ。
あまりにも怒り過ぎて目眩がしそうだ。
その日は本当に目眩がして、授業に出られず、私は屋敷に帰った。


✢✢✢


私の名前はペトラ スカーリン。
侯爵令嬢だ。

背中を覆う黒髪は艶があり、サラサラとしたストレートヘアだ。
サファイアのような青い瞳に白磁のような、滑らかな白い肌。
ぷっくりとした赤い唇は煽情的で16歳とは思えない色気を放っていた。

歴史ある由緒正しい侯爵家の長女で、兄が一人。
両親も健在で、王家の信頼も熱く、父は政治の世界で大臣として、その手腕を奮っている。
兄も次期侯爵として優秀で、現在は領地で領地経営の勉強中だ。

私は学園生の為、卒業まで王都にあるタウンハウスで、城勤めの父と社交会の花とも言われる 美しい母と暮らしている。

父には何度もエリオス様と結婚したいと言ってきた。
だが、父はそれを取り合ってくれなかった。

エリオス様の御実家が借金だらけで、没落寸前な事。
伯爵家と侯爵家では家格が釣り合わない事。
どうやら父は私を侯爵家以上の家、公爵や王族辺りに嫁がせたいらしい。
そして、侯爵家は兄が継ぐ為、婿養子の必要も無い。
結婚は当主が決める。
私とエリオス様との結婚は絶望的だった。
ならば、せめて、恋人になりたいと何度もエリオス様に想いを告げて来たのに彼は…

「あなたと付き合うつもりはありません。」

と、私の想いを込めた刺繍のハンカチも、手製の御守りも、差し入れのクッキーもお茶会のお誘いも、すべて、すべて、すべて、断られてきた。

悲しい。
どうして私の想いをわかってくださらないの?

兄からも、父からも もういい加減にしろと、お叱りを受け、とうとう婚約者を決めようと、二人で相談を始めてしまった。
このままでは、学園卒業後すぐに、好きでもない男と結婚させられてしまう。

どうすればエリオス様が手に入る?
せめて、誰の者にもならないでいて欲しい。
どうすればいいの?

成金娘の幸せそうな笑顔が浮かぶ。
憎い!憎い!憎い!

エリオス様の眼差しを受けて、微笑むあの女が許せない!

「死ねばいいのに…」

小さな呟きが漏れる…

「そうよあの女が死ねば良いんだわ…」

そうして私は、仄暗い想いを胸にうっすらと微笑んだ。





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