最強宇宙人ゼルネラ ~巨大変身ヒロインはボクの獲物です~

草宗

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21、二つ名

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 秀太を始め、数人の女子が炎乃華の後を追いかけていった。
 堰を切ったように、室内がザワめく。あちこちで立ち上がり、仲のいいもの同士でベチャベチャと喋り始めた。
「マイティ・フレアは負けましぇ~~ん! だってよ。ヒャハハハ!」
 もっとも大きな声を出しているのは、あの細眉だった。
 仲間のところへ駆け出すや、机にどっかりと腰を下ろす。大袈裟な身振りで、炎乃華の先程のモノマネをし始めた。
「あのイカレ特撮ヲタ、まだ正義のヒロイン気取りなのかよ! だいた……」
 細眉の頭部が不意にガクンと揺れて、下の顎がズレる。
 眼球が裏返っていくのに合わせるように。ゆっくりと身体を傾けた細眉は、冷たい床にドシャリと崩れ落ちた。
 いや、正確に言おう。オレが落とした。
 10mほど先のヤツの顎に、オレは吐息を鋭く吹きかけた。顎を跳ねあげ、脳震盪を起こさせた。
 的確に。素早く、強く。
 次々にオレは、呼気のブローで生徒たちをKOしていく。ほぼ同時。30人以上のクラスメイトを一瞬で卒倒させる。こいつらには何が起こったのか、自覚すらできないはずだ。
「ちょうどいい頃合いだろう」
「そうね。私もそう思ったわ」
 ギュウウンンッ! とライフル並みの速度と威力で、長く腕が伸びてくる。
 最小限の動き。首をわずかに捻って、顔面を狙ってきた貫き手を避けた。もう走っている。すでに駆け出していたオレは、一気に敵との距離を詰めた。
 女教師・蒼井陽子との距離を。
 ボッ! ボゥンッ!
 突き出したオレの拳は、ヨーコ先生の鼻先で止まっていた。
 針のごとく鋭く尖った指先が、オレの右眼に触れかかっている。
 初撃に伸ばした腕とは逆の手で、女教師はカウンターを狙っていた。水のマナゲージを持つコイツなら、身体を自在に変形させるのはお手のものだ。
「久しぶりに、ちょいとばかし本気で動いたぜ」
「そりゃあそうだね。あんな弱い小娘相手じゃ、あんたが本気を出すわけがないさ」
 お互いの手を、オレたちは同時に引いた。改めて対峙する。
ヨーコ先生……いや、青色のゼルネラ星人〝無上のシアン〟と。
「ったく。くだらねえ小細工しやがって」
 教壇まで歩いていったオレは、その上に置かれた教師用指導書を指差す。
『蒼井陽子』と書かれた名前欄の『陽』の字にバッテンが描かれ、青のマジックで『妖』と上書きされている。
 蒼井陽子改め、蒼井妖子。新たなヨーコ先生が、眼前には立っているのだった。
「本物のヨーコ先生は、殺しちまったのか?」
 髪をかきあげ、蒼井妖子は薄く笑った。
 正体をバラしたことで、シアンは本来の己を開放しつつあるようだ。吹き付けてくる妖艶な風は、元々のヨーコ先生には備わっていなかったもの。
「そうしてもよかったけど、あんたは怒るだろう?」
「そりゃあそうだ。今の一撃、喰らわせていたぜ」
「だから憑依することにしたよ。この地球人の身体を借りている限り、あんたも易々とは私を傷つけにくいよね?」
「そう思惑通り、いけばいいがな」
 教壇の上に、オレは座った。『蒼井妖子』の名が入った指導書を尻の下に敷いて。
「こうして話すのは二百年ぶりかい? 少し会わない間に、あんたはちょっと変わっちまったようだね、ノワル」
「挨拶するつもりなら、てめえは順番を間違えているぞ」
 オレの顔が一瞬、黒い鱗に覆われるのが自覚できた。竜の角のように、額にふたつの瘤が盛り上がる。
 どうやらオレは、感情をコントロールするのもギリギリになっているようだ。
「答えろ、シアン。なぜ貴様は、オレの獲物に手を出した」
 薄笑いを浮かべた女教師の顔が、ピクリと一瞬引き攣った。
「この星はオレが最初に目をつけた。オレに一言の相談もなく、なぜマイティ・フレアと闘った? このノワルにケンカを売っているのか」
「あんたが、勝つ気がないからだよ」
 吐き捨てる妖子の顔から、見る見る微笑が消えていく。
「私は見てたんだよ。ずっとね。あんたがこの星に来て、マイティ・フレアとやりあうのを……月と呼ばれるあの衛星から、こっそり眺めていたのさ」
「ああ? なんでそんなワケわからねえことを……」
「なぜ手を抜いているんだい、ノワル? あんた、わざとあの小娘に負けているねッ!?」
 黒縁メガネを外して、シアンはオレを睨みつけた。彫りの深い眼が青く光る。
 シアンもかなりイラついているようだが、なんで怒っているのか意味がわからねえ。オレが炎乃華に手加減してやっているのが、そんなに悪いことなのか?
「それはお前、少しでも展開を面白くするためじゃないか。本気になればいつでも制圧できるんだ。地球人が強いかのように見せかけるためにはだな……」
「〝ソーサイのノワル〟、あんた、自分が作ったゼルネラ星人の、鉄の法典を忘れたわけじゃないだろうね?」
 オレは思わず、言葉に詰まった。
 ついでに思い出す。〝総裁〟という、己の二つ名を。
「『最強であることがゼルネラ星人の誇り。適わぬ者は死すべし』……あんた自身が言い始めたことだ。自分の言葉を自分で曲げるのかい? このまま負け続けたら、あんた死ぬことになるんだよ」
 オレたちゼルネラ星人や配下の巨獣には、誰がつけたか、ほとんどの者に別称がつけられている。例えばゼネットの〝漆黒のリベンジャー〟のように。
 シアンにつけられた〝無上〟てのは、「無情」の意味も込められているのはここだけの話だ。
 オレの場合は〝総裁のノワル〟。もちろん自分で言いだしたわけじゃねえ。
 ぶっちゃけオレは、ゼルネラ星人のなかでも最強の位置にいたから、周囲が言い始めたんだ。
 好戦的なゼルネラ星人は、同じ種族同士でも闘うのが当たり前だった。オレはあの星で、勝ちに勝ちまくり、倒した連中からマナゲージを奪い取った。
 気が付けばトップに立っていたオレは、様々なルールや掟を決め、ゼルネラ星人に徹底させたのだ。他星を征服するのに「代表者との闘い」という方法を持ち込んだのもオレだ。
 それまでは、その星の生物を絶滅させていた奴らばかりだったからな。無駄な犠牲は出したくなかった。
「バカな。最後には、オレが勝つことになっている。まさかシアン、このオレが本当にマイティ・フレアに勝てないなんて思ってないだろうな?」
「最後っていつだい?」
 歯を剥きだして、女教師は吐き捨てた。
 凄味のある表情は、とても本来のヨーコ先生のものとは思えなかった。一切の慈悲なく星々を制圧する〝無上のシアン〟がそこにはいた。
「あんたはあの小娘を……マイティ・フレアを特別視しているッ! いつまでもアイツとイチャイチャベタベタと、楽しく過ごせればいいと思っているんだろうッ‼」
「あッ? ああんッ!? お、お前はなにを言って……ッ!」
 叫びながら、顔がカアッと火照っていくのが自分でもわかった。
 シアンめ、ワケわかんねえこと言うなっての! ていうか、イチャイチャとか、オ、オレがそんなことやってるわけ……
「フザけんじゃないよおおッ――ッ、ノワルッ‼」
 バカリ、と大きく蒼井妖子の口が開いた。
 げェッ!? コイツ、アレをやるつもりかッ! 
マイティ・フレアだから直撃を受けても死なずに済んだが、この身体のサイズで放っても校舎貫通するくらいの威力はあるんだぞッ!
 ドオオオオォォウッ‼
 丸太のような直径の鉄砲水が、女教師の口から発射された。
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